第132話 神殿内部①
神殿の入口に立つ大きな石像は、何を模して作ったものか分からなかった。
モンスターというわけでもなさそうで、神殿を守る守護神といったとこだろうか。
世界史の教科書に載っていてもおかしくないような、威厳たっぷりの人型の石像。仮面を被った人間のようにも見えなくはない。
「ソルズ教らしくない石像だね」
入口の目の前まで来るとエルキュールが呟いた。
「らしくないんですか?」
「うん。これってたぶん人間以外の種族だと思うよ。うろ覚えだけど、どこかの文献で見た気がする」
「そうなんですか?」
たしかに人間以外の種族を認めないソルズ教が、人間以外の種族を石像にするわけがない。
「ま、どうでもいいことだけどね」
エルキュールは眼前にある神殿入口を見上げた。
二体の石像の間にある入口は、十階建てのマンションぐらいの高さがある。壁にはこの世界に来て見てきたものとも違う文字が無数に書き込まれており、ところどころ風化して欠けている部分が、かなりの年代を感じさせる。
べつに建築に興味があるわけではなかったが、重機もないのにこういうのってどうやって造るのだろうかと、どうでもいい関心を俺はしていた。
そんなことよりも、目の前まで来て中の様子が分からなかった理由がわかった。中から音がまったく聞こえないのだ。
何かに遮断されているのか、音が外に漏れてきてないのが、ここまで来るとはっきり分かる。
また、音だけではなく光も通らない様子だ。
俺の目には暗さは関係ない。どんなに暗くても見ようと思えばいくらでも見えるのだが、入口より向こうは見えない。
入口のはずだが、まるで真っ黒な壁が立っているように感じる。
「やっぱ普通じゃなさそうだな」
メイベルが横に来ると、前を見据えたまま
別に俺の答えを求めているわけではなさそうだ。
「それじゃみんな、順番に入るよ! ボクらが入ったら、それぞれ間を置いてから自らの判断で入って。この様子だと中から合図は難しそうだからね!」
エルキュールの掛け声に、皆に緊張が走った。
ただ神殿に訪問しただけのはずだったが、未知のダンジョンへ足を踏み入れるかのような空気が流れた。
そして、俺たち三人は同時に黒い壁を通り抜けた。
「っゲオッ!!」
中に入ると同時に、メイベルが苦悶の表情で俺の名を呼んだ。
理由は言われるまでもなく、禁呪の強烈な嫌悪感が襲ってきたからだ。
近くで誰かが禁呪を使おうとしているわけではなさそうだった。
この神殿そのものが、あの嫌な感覚に包まれている。
「ゲオっち、メイベルちゃん、どういうことだい?」
エルキュールが俺たちの様子に気づいた。
「どうもこの神殿全体に、何かしらの禁呪が掛けられているようでして」
「神殿全体に禁呪が!? 危険そうかい?」
「いえ、今のところは何とも……」
「そっか。――――引き返さず進むしかないけど、いよいよとなったら二人とも声かけて。神殿ごと吹き飛ばすことも考えるから」
「分かりました……」
とは言ったものの、禁呪の知識があるわけではない。
感覚だけで語っているので、そのいよいよの判断ができるか心配だ。
ここは早く勇者マリーと合流して体制を固めておきたい。
いざとなったら俺の力を――――。
「兄ちゃん! おっさん! メイベル!」
第二陣のジャスティン達が入口を抜けてきた。
「師匠。何かしらの結界が張られているようでしたが、何かあるわけではなさそうですね」
マテウスが辺りを警戒しながら言った。
「ま、今のところはね。でも油断は禁物だから、皆が入って来るまで待とうか。幸いここは随分開けているようだしさ」
見渡すと、エルキュールの言葉通り、神殿の入口付近はかなり広い空間になっていた。途中、太い柱がいくつも立っていて、一番奥までは数百メートルはありそうだ。
その向こうには神殿内の通路がまだ続いているようで、この建造物の大きさを
「これほどの神殿、魔族である私はお目にかかったことはございません。人間の世界ではよく見られる規模なのでしょうか?」
魔族のディルクが表情を変えず言った。
「ボクは純血の人間じゃなくても、普通の人間より長く人間の世界で暮らしているから言わせてもらうけど、こんな大きいのは世界中探しても数えるほどしかないよ。ましてやこんなところにあるって知られずにきているのは、かなり異様なことだね」
「左様でございますか。人間にも魔族にも知れ渡らずにこれほどの神殿を築き上げたとは、とても小さな教団が
「ディ、ディルク殿、怖いこと言わないでください! 神殿が恐ろしいなんて、あるはずないです!」
ヴィンスは、エルキュールとディルクの会話を聞いて、悲鳴のような声をあげた。
「なんだよヴィンス! またビビったのか!?」
「ち、違うよ! そうじゃないけど、そうじゃないけど……」
アランへ必死で言い返すが、ヴィンスが怖気づいているのは誰もが分かった。
「ヴィンス殿、申し訳ございません。脅かすつもりはなく、ただこの老体の心配性な部分が出てしまいました」
「そ、そうですよね。ディルク殿は心配しすぎなんですよ!」
引きつった表情のヴィンスには悪いが、彼のおかげで皆の緊張が和んだ。
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