第131話 聖地ソルズレイン⑤

「エルキュール様ぁ!」


 集団の先頭にいるのは、世界最強の騎士であるシェミンガム王国第一騎士団長のオリヴァー。俺たちに気づいて馬を寄せてきた。

 続いて、馬に乗った騎士や戦士が二十名程度、馬車が数台。


 明らかに装飾が豪華な馬車に国王たちが乗っているのだろう。

 聞いていた通り、かなり精鋭に絞ったメンバーを連れてきている。視界に入る全員がレベル四十以上だ。


「やあ、オリヴァー君。ホントに君まで来るとは、シェミンガム側も本気だね」


「もちろんです。エイブラムは我が王国の宮廷魔導士。私とは長きに渡り肩を並べてきた盟友でもありました。もし彼への制裁が必要になったときは、たとえエルキュール様でもお譲りできません」

 オリヴァーが静かだが、強くエルキュールに答えた。


「そっか。君がそこまでの覚悟で来ているなら、ボクは何も言わないよ。――――国王たちも着いたみたいだね」

 エルキュールは馬車を降りるシェミンガム国王とアルアダ国王に軽く手を上げた。


「エルキュール様。これは随分と騒ぎになっておいでのようで」


「はは。アルアダ国王に皮肉を言われるとはね」


「いえ、決してそのようなつもりでは……」


「でも、騒ぎになったのは事実だけどね。国王たちが到着するまで様子見しているはずだったんだけど――――」

 エルキュールはここまでの状況を国王たちに説明した。


「神官たちが唐突に襲ってくるとは……」

 アルアダ国王は、戦士たちに縛りあげられる神官たちの様子を見ながら言った。


「そうなんだよね。二人は何とか無事だけど、ゲオっちとメイベルちゃんが言うには、神官たちも禁呪を使ったみたい。前みたいにその場で死んだりはしなかったから、まったく同じじゃないんだろうけど」


「エイブラムとソルズ教。やはり深い関係にあったようですの」

 シェミンガム国王は眉間にしわを寄せた。


「そういうことだろうね。ここへ来てから彼の手掛かりはないけど、もうこそこそと探している必要もなさそう。両国王も来たし、正面から神殿へ入っていこうか」


「さようですな。勇者マリー殿が神殿内におられ、ここには英雄エルキュール殿も揃っておる。正攻法といきますかの。アルアダ国王、問題ないか?」


「もちろんですとも。息子のことはエイブラムを捕まえてからでも、ゆっくり聞き出しますゆえ」


「じゃあ決まりだね。ゲオっち、マリーがどの辺にいるかキミでも分からないのかい?」

 エルキュールが俺に振り返った。


「はい、ここまで近づいても何故か中の様子が分からなくて」


「そっか……。マリーなら万に一つも心配することないけど、ボクらは気を引き締めないといけないかもね。ここはボクとメイベルちゃんが先頭で行こうか」


「エルキュールさん、俺も行きます」


「ゲオっちも先頭で?」


「はい」


「……そっか、分かった。じゃあ三人で!」

 エルキュールの表情が少し緩んだ気がした。


「すみません、ありがとうございます」


「ゲオ」

 メイベルは近づいて来ると

「この神殿、アタシの『サーチ』魔法を使っても様子が分からないぜ。ちょっと用心が必要かもしれないな」

 と神殿へ視線を向けたまま、いつもより真剣なトーンで声を掛けてきた。


 彼女も俺と同様、いつもと勝手が違う気がしているのかもしれない。

 エルキュールが言っている通り、今回は気を引き締めていかなければならないと俺は感じていた。


 神殿の外にシェミンガム王国の騎士二名を残し、残りは神殿へ侵入することになった。

 比較的レベルの低いアランとヴィンスには残るよう勧めたのだが、断固として拒否された。


「ここまで来て一緒に行かないなんてありえないっす!!」


 ジャスティン相手にアランがここまで強く言うのは初めてで、二人の強い覚悟を感じ、俺たちに続いて入るジャスティン、マテウス、ディルクの三人からあまり離れない条件で同行を認めた。


「ジャスティンさん! 僕たちだって王国戦士です! 足を引っ張らず、ちゃんと皆さんについて行ってみせます!!」


「ヴィンスの言う通りっすよ! 俺らはジャスティンさん達と一緒に戦えることを、どれだけ誇りに思っているか! ぜってえ力になるので、しっかり見ていてほしいっす!!」


「あ、ああ、分かったよ」

 尊敬されることに慣れてないのか、たじろいでいるジャスティンの様子は物珍しかった。


「それではエルキュール様、参りましょうか」


「うん。アルアダ国王には焦っているとこ悪いんだけど、両王国の人たちはボクらが合図してから入ってきてね」


「承知しております。あの若者たちの言葉じゃありませんが、王国軍が勇者や英雄の足を引っ張るわけにはいきませんので、慎重にいかせていただきます」

 アルアダ国王は軽く頭を下げた。


 一国の王が軽々しく頭を下げてはいけないだろうに、救国の英雄相手には許されるのかもしれない。


「ゲオっち! メイベルちゃん! 行こうか!!」

 エルキュールが声を出すと、全員神殿の入口へ向かい移動を始めた。

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