第129話 聖地ソルズレイン③
「マリー様、大丈夫かな?」
「何言ってんだ、ヴィンス! 勇者のマリー様だぜ? 大丈夫に決まってんだろ! 魔王と戦いに行ったわけじゃないんだぜ?」
アランは鼻で笑い飛ばした。
「そりゃそうなんだけどさ……」
「何だよ、そんなに気になるなら神殿まで迎えに行ってみるか?」
「うん、そうだね! 何にも役に立ってないけど、迎えに行くぐらいはしないとね!」
「ま、たしかにここに居ても仕方ねえしな。中に入れなくても、神殿まで行ってみるか」
そう言って二人が神殿へ向かうのが見えた。
マリーに目を向けると、ちょうど神殿の中へ入るところだった。
聞いていたとおり、大主教は神殿にいるようだ。
中は雑音が多いのか、俺でも会話を聞き取れない。
王たちの到着もまだなので、ちょっと接触するのが早い気もするが、ここはマリーに任せるしかなさそうだ。
「ゲオ。マリー達の様子はどうだ?」
メイベルが近づいて来た。他の皆もその後ろから来ている。
「えっと、エイブラムのことは分からなかったみたいですが、マリーさんが大主教に面会できるようです。今ちょうど神殿に案内されてたところでした」
「ゲオのおっさん、そんなことまで分かるのか。やっぱすげえな」
ジャスティンが感心した表情で言う。
「まあ、眼と耳は良いので……」
「眼と耳は良いって、そういう問題か? ま、いいけどさ。ところで母ちゃんは神殿に行ったのか? 何だよ、王様たちが来るまで大人しくしてろって言ったのによ!」
「はは、さすがマリーだ。やることが早い」
今度はエルキュールが感心した表情をする。
ジャスティンの言いたいことも分かるが、今回は仕方ない。ソルズ教の神官から接触してくるとは少し想定外だ。
逆にそれを利用して大主教との面会にこぎ着けたマリーは、さすがだと言える。
「何だ、てめら!?」
突然、アランが強めに声を出した。
「ん? どうした、ゲオ?」
メイベルが俺の様子に気づき、声を掛けてきた。
「それが、アラン達に何かあったらしく」
俺は慌てて聖地を見渡し、声を聞き取った方角を探した。
一度眼を離したせいで、すぐには見つけられなかったが、アランとヴィンスは神殿の前にいた。
「てめえら、さっきの神官たちじゃねえか! これはどういうことだ!?」
二人は、また神官たちに囲まれていた。
マリーに対しては途中から友好的だったが、今は武器を構えている。
「どういうつもりか分かりませんが、僕らがマリー様の連れと分かってのことでしょうか?」
ヴィンスが抑えた声で訊いたが、神官たちは何も言わず距離を詰めようとする。
「チッ、問答無用ってわけかよ。ヴィンス、分かってるな? やり過ぎるなよ!」
「はは、まさかアランに言われるとはね。もちろん、ここで大ごとにするわけにはいかないよ!」
二人とも若いとはいえ王国戦士。武器を持った神官に囲まれても余裕があるようだ。
実際、アラン達の方がレベルがだいぶ高い。というか神官たちはレベル10ちょっとの一般人だった。
この様子なら心配する必要はないだろう。
「てめえらさ、武器も持ってない二人に、大勢で武器を構えるなんて卑怯じゃねえか? 神官なんだろ?」
アランは両手を挙げて、争う気がない姿勢を見せる。
武器は鎧と一緒に馬車へ置いていっていた。
トラブルに巻き込まれた時、携帯していた武器を見られたらややこしくなる。
こういう時のために手ぶらで乗り込んだので、アランはローブを
「やあぁーー!」
神官の一人が持っている武器でアランを斬りつけた。
「おっ、おい! 当たったらどうすんだよ!?」
アランは何なく避けるが、驚いた表情をヴィンスに向けた。
「……」
ヴィンスは、我慢しろと言わんばかりに首を横に振ったが、それを皮切りに他の神官たちも襲い掛かってきた。
多勢に無勢と思いきや、この世界ではそれをレベル差が越えていく。
アランとヴィンスは神官たちの攻撃を危なげなく受け流している。
「なんだこいつら、ちょっと弱すぎねえか?」
「うん、正規の訓練を受けたわけじゃなさそうだね。ただの一般人みたいだ」
「ならおかしくねえか? 俺たちが単なる若者に見えたとしたって、一般人が武器を持って襲うか?」
「たしかに……」
アラン達は受け身に徹しながら様子を窺っている。
反撃するわけにもいかず、何故襲われているのかも分からず、どうすればいいのか分からないのだろう。
そのとき、自分たちでは倒せないと悟ったのか、諦めたように神官たちの攻撃が止まった。
「ガキかと思ったら、さすが勇者マリーの従者だ、手ごわいぞ!」
「しかし、見逃したらやっかいだ。どうする?」
神官たちの言葉を聞き取った。
どうやら人違いや勘違いではなさそうだ。彼らは勇者マリーの連れと分かっていながら襲ってきている。
「アラン、この人たち何かおかしいよ。この世界に勇者マリーに敵対しようとする人間がいるなんて考えられない!」
「ああ、分かってる! だけど魔族なわけないし、どうなってやがるんだ!?」
2人から動揺が見えだした。
彼らが言うように、俺たちは魔王に依頼されてここまで来ている。
ソルズ教が魔族と関係するとは思えないのだ。
だからといって人間の英雄である勇者マリーに敵対する理由も考えられない。
「ゲオッ!!」
突然、隣にいるメイベルが叫んだ。
だが、俺は彼女の方を向くことはなかった。
メイベルが叫んだ理由が分かっていたからだ。
「お、おい、メイベル……。ゲオのおっさん、どうなってんだ?」
不穏な気配を読み取ってジャスティンが声を掛けてきた。
近くにエイブラムがいるわけでもないし、神官たちは宮廷魔導士とも違う。
しかしこの感覚は間違いなかった。
「この感じ…………禁呪を使おうとしてます」
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