第125話 聖地ソルズレインへの準備
「じゃあボクらのやることを整理しようか」
エルキュールは立ち上がって皆を見渡した。
「まず第一に、おチビちゃん……今はだいぶ大人になっているだろうけど、アルアダ王国第三王子を無事に連れ帰ること。襲撃の理由は未だ分からないけど、生きている可能性があるんだ。彼を見つけることが第一優先だね」
エルキュールが視線を向けると、アルアダ国王は大きく頷いた。
「次に、その襲撃を『赤蜘蛛』に依頼した者を捕まえること。『赤蜘蛛』のヤツらは教祖に頼まれたと言っているけど、教祖本人が直接依頼したわけじゃないから、ここは慎重に行動しないとね。魔王との条件でもあるし、これも絶対クリアしないと駄目な目的だよ」
今度は魔族のディルクがエルキュールの話に頷いた。
「最後にエイブラムの禁呪だ。これも魔王との条件にはあるけど、それ以前にボクらから見ても見過ごせる事じゃないと思う。あんなもの、復活させていい魔法じゃないよね。魔王に頼まれるまでもなく、今後は一切使えなくするようにしたいところだ」
勇者マリーが目で同意を表した。
「ボクらはすぐにでも聖地ソルズレインへ向けて出発しようと思うけど、シェミンガム国王がここまで足を運んでいるってことは、何かあるんですね?」
「ほっほ、エルキュール殿の言う通りですの。今、第一騎士団のオリヴァーが戦力を整え、こちらに向かっております。彼らが到着次第、アルアダ王国軍と共にわしらも聖地へ向かいますぞ」
「そっか。シェミンガムからすれば宮廷魔導士のエイブラムが、アルアダからすれば第三王子がいるから、傍観者ってわけにはいかないですね。でもオリヴァー君まで動かすって、両国はソルズ教を潰すつもりでいるんですか?」
「いや、そこまでするつもりはありませぬ。エイブラムや一緒にいなくなった宮廷魔導士たちが抵抗する可能性があるゆえ、それなりの戦力で向かおうと思っておるところで」
「ただし」
マリーがシェミンガム国王を補足した。
「聖地と呼ばれるぐらいだから、何の関係もない一般信者がたくさんいるからね。大軍で押し寄せて、変にパニックになったり怪我人が出たりしないよう、陛下たちには少数精鋭の戦力になるようお願いしてあるわ」
「なるほどね。じゃあボクらは先に着いても、騒ぎにならないよう様子見しておこうか。と言ってもソルズ教の性格上、人間以外の血が混ざっているボクらは目立つから、あまり動けないけどね。」
「そこは、私も一緒に先行して、信者のふりでもして潜り込むわ」
「マリーが?」
「ええ、私も早めに向かっておきたいし、念のため最上級魔族ですら倒せる禁呪に備えてね」
「禁呪か……」
マリーの言葉に皆が沈黙した。
確認できたかぎり今までエイブラム達が使用した禁呪は、強力な魔族相手のみだった。
魔族以外に対して禁呪を使うなんてことはないと考えたいが、もし我々に対して使うようなことがあれば、エルキュールでも即死かもしれない。
抵抗できるのは魔王候補以上のレベル、つまり人間では勇者マリーだけだろう。
それを見越してのマリーの発言だ。
「たしかに禁呪を使われたらマリーの、勇者の力が必要になるのは事実だね。エイブラムがそこまで愚かじゃないことを願いたいけど、分かった、マリーも一緒に行こう!」
「ええ、よろしく頼むわ、エルキュール殿。ジャスティンもね!」
マリーはジャスティンに手を払われることを意にも介していない。
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あなたは『勇者パーティメンバー(仮)』の称号を手に入れた。
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称号取得のログ?
勇者と一緒に行動するだけで称号が貰えるようだ。
さすが勇者というのは特別な存在。あとで称号の詳細を見ておこう。
「ほっほ、わしらの出番はないかもしれんのぉ、アルアダ国王よ」
「ええ、シェミンガム国王。勇者殿と救国の英雄殿が手を組まれたなら、我ら凡人の出る幕はありませんな」
二人の国王は、楽しそうに顔を見合わせた。
それから俺たちはジャスティンの母、勇者マリーを加えてソルズ教の聖地へ向かうことになった。
聖地ソルズレインは、アルアダ王国の王都アルレッタからは西方。
国境を越え、どの国の領地にも属さない深い森の奥に築いているとのこと。一般人にはあまり知られていないが、国王たちやマリーなど、一部の人間は把握していたようだった。
初めてソルズ教を知った時は、異種族間の婚姻を認めない宗教と聞いていたが、どうも人間以外の種族を認めない考えのようだ。
崇高な人間の血に、獣人など亜人種の血を混ぜるなという意味で、異種族間の婚姻を認めないということらしい。
言い換えると、正々堂々と人種差別を推し進める教えだ。
何とも度量の狭い話だが、宗教の自由、言論の自由がある国から来た俺からすれば、それはそれで認めないといけないのかもしれない。
ただ、考えるだけ思うだけではなく、何かしら行動に移し他人を傷つけるというなら、それが俺の仲間たちに及ぶというなら、俺は決して容認するつもりはなかった。
例え俺の力を使うことになっても。
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