第124話 エイブラムとソルズ教
「そうでしたか、あやつはソルズ教に……」
一通りエルキュールが話し終わると、アルアダ国王は声を漏らした。
「目的は分からないけど、引き渡すようわざわざ依頼したんだ。生きている可能性は高いと思うよ」
「エルキュール殿……」
「ここは生きていると信じて、聖地に行ってみるしかないね。ただ、一つ聞きたいことがあるんだけど、アルアダ王国はソルズ教と敵対でもしているのかい?」
「いえ……とくにソルズ教の活動を禁止しているわけでもありませんし、何かいざこざが起きたこともありません。我が王国は宗教の自由を保障しておりますので」
「そっか、じゃあ何でソルズ教が依頼したんだろうね――――。心当たりはあるかい?」
「いえ、私には何一つ……」
アルアダ国王は元気なく言った。
「そのことなんだけど」
ずっと黙って聞いていた勇者マリーが声を出した
「こっちで調べたことを先に聞いてもらっていいかしら」
「マリー? 禁呪のことで何か分かったのかい?」
「ええ、順を追って話すわ。私は禁呪を使ったというエイブラムや宮廷魔導士団と会うためにシェミンガム王国へ向かったけど、到着してみるとエイブラム達はすでに行方不明になっていたわ。ですね、陛下?」
「ああ、マリー殿の言う通りじゃ。エイブラムを含め多数の宮廷魔導士が行方不明になっておる。いなくなったのは皆、魔族との戦いに参加した魔導士ばかりじゃった」
「おいおい、あの魔法使い達いなくなったのかよ! なんかすげえ怪しいじゃん!」
「ジャスティン。あんたの言う通り、ここで行方をくらますなんて何かあるのは間違いないわね」
マリーは隣に座る息子の頭を撫でようとするが、ジャスティンは照れくさそうにその手を振りはらった。
「か、母ちゃんもそう思うだろ? でもよ、それとソルズ教がどういう関係なんだよ?」
「あら、あんたにしては鋭いこと言うわね」
マリーは懲りずに手を振りはらわれながら、話を続けた。
「私はそのまま王都エバーディーンで禁呪について調査をしていると、禁呪を研究している教団があることを知ったわ」
「教団? 母ちゃん、それって」
「そう、ソルズ教よ。ソルズ教は昔から呪いの類の研究をしていたけど、まさか禁呪にまで手を出していたとはね。もちろん簡単に進展する研究ではなく、長い間なんの成果もなかったみたいだけど、一人の魔導士が手助けするようになって一変したわ。――――世界最高の魔導士と言われる、エイブラムが禁呪に興味を示したのよ」
「!?」
部屋の空気が変わる。
マリーの話で、禁呪を使ったエイブラムと、第三王子襲撃を依頼したソルズ教がつながった。
その場に居る誰もが陰謀めいたものを感じ取ったようだ。
「エイブラムとソルズ教の関係について陛下は?」
エルキュールはシェミンガム国王へ向いた。
「禁呪については初耳じゃが、ソルズ教との噂は耳には入っておりましたの。とはいえ、それだけで何かの罪になるわけでもなく、さほど気にはせんかったが……」
まさかこんな事になっているとは、とでも言いたいようだ。
俺たちから見るとソルズ教はかなり印象の悪い教団だが、世間一般ではそれほど悪評が広まっているわけではなく、ごく一般的な宗教の一つなのだ。
とくに人間の人口率が高いシェミンガムやアルアダ地域では、ソルズ教の教えに違和感を覚える者は少ないようだった。
「なるほどね。マリーの話の通りなら、ここへきて所在が分からなくなったってことは、第三王子襲撃の件は最初から知っていたんだろうし、ソルズ教にかくまわれている可能性が高そうだね」
「ええ、私もエルキュール殿と同意見よ。実際、シェミンガムの王都から北西へ向かう魔法使いの集団を見たって証言もあるわ」
「エバーディーンから北西? 聖地ソルズレインのある方向だったね」
「なんだよ、母ちゃんと兄ちゃんの話を聞いてると、そのエイブラムって奴が悪いの確定じゃん! 王子を襲ったのが魔族じゃないって知ってたんなら、嘘ついてたってことだろ? たしかあいつが魔族の集落を見つけたって言ってたしさ。おっさんも聞いてたよな?」
ジャスティンは話を俺へふってきた。
言われてみれば、エイブラム達の調査で多数の魔族を見つけたと言っていた覚えがある。
第三王子の襲撃がソルズ教だと知っていての言動だとすると、
「はい、エイブラムが言っていたのを俺も聞いていました。今思えば、ソルズ教から目を逸らせるために、魔族のせいにしたのかもしれません」
「だよな! あの魔法使い許せねえ! とっ捕まえに行こうぜ!!」
ジャスティンは立ち上がって声高に言った。
「この子ったら子供みたいに叫んで」
マリーがジャスティンの袖を引っ張った。
それにしても勇者マリーが調べてくれたおかげで、話が分かりやすくなった。
アルアダ王国第三王子を取り戻すためにも、魔族との戦いを仕向けた魔導士エイブラムを捕まえるためにも、俺たちが目指すべきはソルズ教の聖地、ソルズレインに絞られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます