第123話 第三王子の行方

 頭領は涙を流し、小便を漏らしながらすべてを白状した。


 まず、第三王子襲撃の依頼主はソルズ教で、教祖直々の依頼だという。

 教祖と会ったわけではないが、代理人がここまでやってきて、かなりの報酬額を提示してきたようだ。


 そして、第三王子は殺してはおらず、ソルズ教に引き渡していた。そこまでが依頼内容との話だ。

 付け加えると、魔族が襲ったように見せかけたつもりもないし、王国と魔族が戦うとも思ってはいなかったとも言っている。

 勝手に誰かが勘違いしただけだろうし、魔族と争いになっていることも知らなかった、と頭領は話す。


 普通なら真偽を疑う必要があるが、俺が訊いたのだ。嘘はないだろう。


「も、もういいか?! 知ってることは全部話した! 早くっ、早く連れてってくれ! 頼む、頼むよ! そのバケモノからオレ様を遠ざけてくれ!!」


 すがるようにジャスティンやエルキュールに助けを乞う。

 とても世界中で怖れられる犯罪組織のトップとは思えない姿だ。


「はは、ゲオっちも恐がられたもんだね」


「はい、まあ……。見た目の恐さだけは誰にも負けないようでして……」


 この扱いには慣れてきたが、こんな悪党に恐がられる筋合いはないんじゃないかと思う。


 それにしても何故ソルズ教が出てくるのか釈然としなかった。

 クレシャスの件があったので、ソルズ教と『赤蜘蛛』が繋がっているのは分かっていたが、今回はその時とは事情が違う。


 ソルズ教は異種族間の婚姻を禁止しているので、多種族が住み異種族のハーフもいるクレシャスを敵視するのは理解できるのだが、亜人を積極的に受け入れているわけでもないアルアダ王国を敵視する理由がないのだ。


 むしろ、人間の英雄である勇者マリーの出身国だ。どちらかというと友好的と考える方がしっくりくる。

 王族を襲うリスクを犯すほどの動機があるとは思えないのだ。

 王都に戻ったら、アルアダ国王にソルズ教との関係を聞く必要がありそうだ。


 何にしてもソルズ教へは向かわなければならない。

 第三王子を救出し、襲撃理由を聞き出す。


 それに魔王と結んだ条件のために、『赤蜘蛛』に依頼した張本人を魔王城まで連れて行かなければならない。たとえ魔族との戦いが意図しないものだったとしても、魔王には関係ないのだ。


「第三王子がソルズ教の聖地ソルズレインに連れて行かれたのは、間違いないかい?」


「も、もちろんだよ、エルフの旦那! 教祖ってのからの依頼なんだし、そんなようなことも言ってたしよ! なあ? 信じてくれよ! 嘘なんかつかねえから早く連れてってくれよ!!」


 頭領の話に、エルキュールは考えながら腕を組んで言った。

「ま、ゲオっちの前だから嘘はついてないんだろうね。となると、どうせ教祖とは会わないとダメだろうし、一度アルレッタに戻ったら、次は聖地ソルズレインかな?」


「そうですね。首謀者が誰か確認したいですし、ソルズ教とは色々ありましたので」


「ゲオのおっさんの言う通りだ! 聖地ってのがあるなら乗り込もうぜ! あいつらにはたくさん借りがあるしな!!」

 ジャスティンは手のひらに拳を当てて音を鳴らした。


 そう。ディーナの両親やジャスティンを閉じ込めていた収容所の件から、ソルズ教とは色々あったのだ。


「いい機会かもね。ボクもあそこは気になっていたし、そろそろ決着をつけよっか」


「そうこなくっちゃ、兄ちゃん!!」

 ジャスティンが嬉しそうに親指を立てた。


 それから俺たちは『赤蜘蛛』を全員引き連れて王都アルレッタを目指した。




 王都では『赤蜘蛛』を引き渡してから、報告のため王宮へ行くと、いつもの大部屋へ通された。


「さすがエルキュール殿たちですな。まさか『赤蜘蛛』を壊滅させるとはの」


「シェミンガム国王!?」


 部屋にはアルアダ国王だけではなく、シェミンガム国王と勇者マリーもいた。

 三人とも席には座っておらず、立ったまま俺たちを出迎えてくれた。


「マリー。キミが陛下を連れて来たのかい?」


「いや、私が頼んだわけじゃないよ。禁呪の話をしたら、自ら行くとおっしゃってね」

 マリーがエルキュールの質問に答えた。


「なるほど。でも陛下、護衛が見当たらないようだけど、国王ともあろうものが御一人ですか?」


「ほっほ。勇者マリー殿が同伴ですぞ。これほど安全な旅がどこにありますか。オリヴァー達は後から向かってもらうことにしましたしの」


「後から?」


「二人とも、そんなことよりまずはそっちの話を聞きましょうかね。真っ先に聞きたいのは第三王子の話なのだから」

 マリーは席に座ると、男たちを座るよう促した。


 マリーの意見はもっともだった。今一番の優先は、アルアダ国王に第三王子の行方を伝えること。

 第三王子の襲撃事件以来、彼の安否は一度も分かっていないのだ。国王である前に親として、息子のことをいの一番で知りたいに違いなかった。


 アルアダ国王に目を向けると、少し緊張しているように見えた。

 エルキュールは、『赤蜘蛛』から聞き出した、第三王子がソルズ教に引き渡されたことを静かに語りだした。

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