第122話 ジャスティンVS赤蜘蛛頭領

 大男はレベル42。

 今まで出会った人間の中ではトップクラスで、世界最悪の犯罪組織と呼ばれる『赤蜘蛛』の頭領と呼ばれるだけはあった。


 しかし対するジャスティンもレベルは同じ。

 見た目は少年だが、能力的には一歩も引けを取らない。


「ガキがぁ! 死ねえぇ!!」


 大男は重そうな一撃を振り下ろす。

 が、ジャスティンは避けずに剣で受けた。


「おいおい、俺が小せえからって手加減しなくていいんだぜ?」


「なんだとぉ?? このクソガキが! 望み通り全力で叩き潰してやるわ!!」


 大男はさらに大きく振りかぶって、渾身の力で叩きつける。

 それでもジャスティンは大斧を剣で受ける。


「くっ!?」


 大男が焦りの色を見せた。

 きっとこいつは、今まで力で周りをねじ伏せて生きてきたのだろう。


 恵まれた体格を活かし、力だけで自分勝手に振る舞ってきたはずだ。

 俺の偏見かもしれないが、奴の言動を見ていれば、それは正しい憶測で間違いない。


 そんな奴が、全力の攻撃を目の前の少年に思いもよらず受け止められたのだ。

 焦りと悔しさで平静にいられるわけがない。


「こっ、この生意気なガキがぁぁっ!!」


 大男は顔を赤くしながら、ジャスティンの剣を叩き折るように同じ攻撃を続ける。

 何度も響く武器と武器の衝突音に、皆が戦闘を止め、二人に注目しだした。


 片や興奮した大男と違って、冷静なジャスティンは相手の力量を計るように、大斧の攻撃をただ受け止める。

 同じレベルでも普通の人間と、魔王と勇者の子では数値以上の差がどこかにあるのかもしれない。防いでいるだけのジャスティンが優勢に見えた。


「ジャスティンめ。馬鹿の一つ覚えで全部真正面から受け止めおって」

 マテウスが不服そうに言った。


「ま、あれはあれでジャスティンのスタイルだから、別にいいんじゃない?」

 エルキュールはジャスティンの戦い方を尊重しているようだ。


「もう、充分だろ?」


「く、くそがぁぁ!」

 ジャスティンの静かな物言いに、大男はよけい感情が逆撫でされている。


 大男がもう一度大きく振りかぶると、ジャスティンは振り下ろされるより早く踏み込み、叩き斬った。


「ぐわぁっ!?」


 一発でHPは2割ほどまで減り、大男は膝から崩れ落ちた。


「降参しろ。殺す気はねえ。」

 ジャスティンは大男の目の前に剣先を向ける。


「……」

 何も返事をしないが、大男の戦意がなくなっているのは誰にでも明らかだった。


「どうなっとんのじゃ……こんなことが」

「そんな……頭領が一撃で」

「俺たち『赤蜘蛛』が……負けたってのか」


 残っていた『赤蜘蛛』のメンバーも、武器を捨て降伏を表した。

 頭領が負けたことで、一気に士気が下がったようだ。


 反対にアランとヴィンスが興奮している。

「すげえ……、すげえ……、すげえ! ジャスティンさんすげえ!!」

「見た? アラン!? 凄いよ、ジャスティンさんの戦い!!」

 俺が褒められたわけじゃないのだが、何だか嬉しくなってきた。


「次はアタシの番だな」


 『赤蜘蛛』の連中を全員砦の前に集め、メイベルが魔法で拘束した。

 地図を見ると砦内には誰も残ってない。

 圧倒的な数的差がありながらも、あっけなく戦いは終了した。


「ま、悪事を働く野蛮人なんてこんなもんだろうね。ジャスティン、マテウス、メイベルちゃん、お疲れさま。 あ、アラン君もヴィンス君もよくやったね。しっかり役立っていたよ!」


「ありがとうございます!!」

 エルキュールの言葉に、二人は声を揃えて頭を下げた。


「うん、怪我もないようで良かった。さすがはメイベルちゃんってとこだね。あとは尋問して終わりかな? 王子の無事を確認しないと」


 エルキュールの言う通り、残すはアルアダ王国第三王子の行方と、彼らを襲った理由を聞きだせばいいだけだ。


「なあ。一応確認するけどさ――――」

 ジャスティンが頭領の前まで進んで、


「知ってること全部話す気はあるか? 俺たちはお前たちを裁くつもりはねえ。こっちが聞きたいこと全部言うなら、王国に引き渡すだけで済むんだけどさ」

 と、しゃがんで尋ねた。

 脅すようにではなく、まるで同情しているように言った。


「ふん。言っとくが……何をされようが何も吐かねえぜ。オレ様たちは……天下の『赤蜘蛛』だ……」


「ふ~ん、そっか。ホントにそんなこと出来るなら、それはそれで構わねえけどさ。な、おっさん?」

 ジャスティンは立ち上がって振り向いた。


 よし、俺の出番だ。


 俺はジャスティンに呼ばれると、『赤蜘蛛』の頭領に近づいて行った。


「なっ、なっ、何だよあれ!?? 聞いてねえぞっ!!?」

 俺に気付くと、頭領の顔が一気に青ざめた。


 こいつが『赤蜘蛛』の頭領。

 わざわざクレシャスの町まで来て疫病をばら撒き、アルアダ王国第三王子を襲って人間と魔族の戦いのきっかけを作った。


 誰かに頼まれてやっただけだとしても、とても許せる気持ちにはなれない。

 俺は怒りの感情を抑えず、強く頭領を睨んだ。


「ひぃぃぃっ!!」

 震えることも忘れ、大きな身体を硬直させている。


「お前が『赤蜘蛛』の頭領だな。知っていることを洗いざらい話してもらおうか?」

 人を脅すなんてまったく向いてないと思うが、俺は唯一の特技を発動させた。

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