第121話 『赤蜘蛛』との戦闘

 ドンッ!!!


 砦の正面口を、エルキュールが魔法で破壊した。


 侵略者はたった六人。

 俺なら逆に警戒してしまうが、『赤蜘蛛』は自分たちに自信があるのか、ハチの巣を突いたように武器を持ったガラの悪い男たちが溢れだしてきた。


「なんじゃお前らぁ! どこのもんじゃぁ!!」

「ここをどこだと思ってんだ! 誰だろうが皆殺しだ!!」

「ガキばっかじゃねえか! とっ捕まえて売っぱらっちまうぞ!!」


 威勢よくエルキュール達へ凄んでくる。どこぞの世界のヤクザやマフィアのような連中だ。

 しかし、少しも意に介さずエルキュールは進み出ると、


「ジャスティン、マテウス。殺しちゃダメだけど、怪我はさせていいからね」

 と剣を抜いた。


「なんじゃとコラァ!!」

「なめてんのか!!」

「ぶっ殺すぞ!!」

 男たちが襲い掛かってきた。


 チンピラのような連中だが、レベルはそれなりに高かった。

 名の知れた犯罪組織だけあって、ほとんどがレベル30以上、中には30台後半も見かける。


 ただ、今回は相手が悪かった。


 まず、このレベルでの戦いでは、とくにエルキュールの強さが際立っている。

 彼の戦い方はスマートで、剣を交えることがなく相手の攻撃を全てかわし、剣と魔法の攻撃を交互に一撃で仕留めている。


 『赤蜘蛛』からすれば、成す術もないとはまさしくこのことだ。

 手加減しなくていいのなら、エルキュール一人で簡単に全滅させることができるだろう。


 ジャスティンとマテウスも相手を圧倒していた。

 二人の戦い方は対照的で、ジャスティンは相手の攻撃を全て真正面から受け止め、力と速さでねじ伏せる。

 一方のマテウスは、剣舞のように華麗な動きで次々と斬り倒していく。


 しかも、普段仲の悪い二人が戦闘中はしっかりと連携している。

 それぞれが独立して戦うのではなく、お互いの動きを意識しながら位置取りやタイミングを計っている。

 師匠エルキュールの教育の賜物なのだと言えよう。


「やっぱすげえぜ、この人たちはさ!」

「うん! 僕らはとんでもない人たちと一緒にいるんだね!」


 アランとヴィンスが、尊敬や憧れといった感情を目に浮かべている。


「とくにジャスティンさんとマテウスさんは何なんだよ! あんなにいがみ合ってるくせに、この完璧な連携! くうぅーーっ!!」

「そうだよアラン! 信頼し合って戦うお二人こそが僕らが目指す究極の姿だ! いつかああなる為に、僕らは修練に励むんだ!!」


 キラキラとした目でアラン達は二人を見つめる。


「なあ、おまえらこのまま指を咥えて見てるつもりか? せっかく来たんだ。しっかり役に立ってこい!」

 メイベルは支援魔法を唱えると、背中を叩いて二人を送り出した。


「あ、ども! よし行くぞ、ヴィンス!」

「おうとも、僕たちも負けてられないよ!」

 二人も戦線に参加する。


 王国戦士と言ってもアラン達はたぶん新兵。

 世界に悪名を轟かせている『赤蜘蛛』を相手するのは少し早い。

 しかし、相対する敵の数が増えないようメイベルが敵を引き付けているうえ、支援魔法によりかなり能力が向上されているため、彼らと互角に渡り合うことができた。


「ど、どうなってんじゃこいつあ?!」

「何だ何だ何だっ!?」

「こいつらいってえ何もんだ??」


 圧倒的に数的有利なはずだったが、次々と戦闘不能者が増えていく。

 突然の来訪者によって起きた異常事態を、『赤蜘蛛』は少しずつ理解しだしていった。


「何事だ、てめえら! 何が起きてやがる!?」

 両肩に赤い蜘蛛のタトゥーが入った大男が現れた。


「と、頭領!?」

 戦闘中の『赤蜘蛛』メンバーから、焦りと恐怖が滲み出た。


「てめえら何の有様だ! 大軍が攻めてきたなんて話聞いてねえぞ!!」


「そ、それが来たのはたった六人なんですが、こいつらとんでもなく強いようでして……」


「はあ? たったの六人だあ? たったの六人にこのザマか!? てめえフザケてんのか?」


「い、いえ! 滅相もございません!」


「じゃあ何か? ホントにたった六人にやられたってのか? しかもほとんどガキじゃねえか」


「へ、へえ。申し訳ございません……」


「この、役立たずどもがぁぁっ!!」

 大男は持っている大斧をメンバーの一人に振り下ろした。


 ガチン!!


 金属と金属が衝突する音が鳴り響く。


「おいデケエの。お前、自分の仲間に何やってんだ!」

 ジャスティンが大男の攻撃を受け止めた。


「何だてめえ? ん? よく見りゃあ魔族じゃねえか。てめえこそこんなとこで何やってやがる」


「お前ら全員捕まえて、王子様ってのがどうしたか――――」

 ジャスティンは大男を押し返すと、

「吐かせにきたぜ!」

 と剣先を向けた。


「なっ!? さすがガキでも魔族か……なんて力だ。それにしても何がどうなってやがる? 魔族にエルフに王国戦士。金髪は人間か? 水色の奴なんざ種族も分からねえぞ」

 大男は辺りを見回す。


「す、すみません。あっしらも何が何だか……」

 『赤蜘蛛』のメンバーが怯えて答える。


「チッ、まあいい。どうだろうと、こいつらを生きて返すわけにはいかなそうだしな。このオレ様が直々じきじきに殺してやる」


「ふん、お前には出来ねえよ」

 ジャスティンが剣を構えた。

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