第111話 交渉成立

 ジャスティンが何か言いたそうだが、俺はそのまま続けた。

「あの禁呪は危険だと感じましたので、出来る限り俺たちで止めてみせます」


「出来るのか?」


「俺一人では無理かもしれませんが、俺たちには仲間がいます。力を合わせればきっと!」


「ハーフ魔族の貴様らに仲間か……。よかろう、時間をやる。その間は人間と争うことをせぬと、この魔王が保証しよう」


「本当ですか!? ありがとうございます!」

「マジか! 助かるぜ、魔王のおっさん!!」


「おっさん?」

 魔王アデルベルトはギロッとジャスティンを睨んだ。


「あ、いや、その……ち……ち……」

 最後は俺でも聞き取れなかった。


「――――まあよい。話は以上なら、こちらからもう一つ条件がある」


「条件ですか?」


「そうだ。貴様らに魔族の一人を同行させる。貴様らの出した提案が達成されるまで、今後はそやつと行動を共にするのだ」


 同行者か。なるほど、監視役というわけだな。さすがに丸々信じるというわけにはいかないのだろうな。

「こちらとしては隠すようなこともありませんので、その条件について承知しました」


「よし、話はここまでだ。下がってよいぞ」


 俺たちは魔王に礼を言うと、謁見の間の出口へ向かった。

 途中、ローデヴェイクの表情を確認したが、魔王の言葉に納得しているのかは読み取れなかった。


「そうそう、次の報告にもちゃんと二人で来るのだぞ」


 振り返って魔王を見ると、明らかにジャスティンに向かって言っている。

 息子が来ることを期待しているのだろう。


 またこの親子には会ってほしい。

 俺はそう思いながらゆっくりと頭を下げ、謁見の間を後にした。




 魔王城を出ると、城門前に一体の上級魔族が待っていた。

 ベネディクテュスが言うには、彼が同行する魔族のディルク。


 レベルは70もあり、ステータスだけ見ればエルキュールと同等の強さだが、見た目はかなりの高齢で、物腰の柔らかい印象を受ける。

 武具は身に着けておらず、田舎の村人のような、茶色や緑といった自然色の衣服を着ている。


「そなたらがハーフ魔族のお二人ですな。私は魔族のディルクと申します。アデルベルト陛下よりお話は伺っていると思いますが、今後ともよろしくお願いいたします」


「あ、はい。ハーフ魔族のゲオです。よろしくお願いします」

「俺はジャスティンだ。よろしくな、じいさん!」


 ディルクは優しく微笑むと、ジャスティンへ深めの一礼をした。

 この感じ、ジャスティンの事情は理解しているのだろう。


「ディルクよ。お前の役目は分かっているな?」


「心得ております、ベネディクテュス様。この老体、彼らの行く末をしかと見届けて参りますゆえ、ご報告をお待ちください。陛下には、この大役をたまわり心より感謝いたしていると、お伝えください」


 ディルクはベネディクテュスに向きなおると、そう言って頭を下げた。


「それじゃディルクさん、ジャスティン、一旦クレシャスの町に戻りましょうか。ここよりはアルレッタに近いですし、クレシャスまでなら俺の魔法で飛べますので」


「ゲオのおっさん。やっぱクレシャスからは馬車で行くのか?」

 ジャスティンは少し嫌そうな表情で聞いてきた。


 ここ魔族の都レリアンティスまでは魔法を使ってポンポンと移動してきたので、地道な馬車の移動が面倒に感じているのだろう。

 もちろん『赤蜘蛛』やら禁呪やら、やらなければならないこともたくさんあるので、のんびり旅気分には浸れないのも事実だった。


「そうですね。直接アルレッタまでリターンで移動できる人が見つかりませんでしたので、俺が行けるクレシャスからは馬車になると思います」


「まあ、そうだよな。仕方ねえか……」


「それなのですが、移動手段は私に任せてもらえないでしょうか?」

 ディルクは会話に入ってくると、そう言いながら真上を指差した。


「上?」

 俺とジャスティンは声を揃えると、空を見上げた。


「なんだあれ、鳥か?」

「いえ、ジャスティン、あれはワイバーンみたいです」

 俺はステータス画面の種族を読み上げた。


「ほお、この距離であれがワイバーンと分かるとは、ゲオ殿は眼がよろしいようですね」


「ええ、まあ」

 俺はなんとなく苦笑いで答える。


「ワイバーン? ドラゴンの一種だっけ?」


「ジャスティン殿、その通りです。ドラゴンより小さく戦闘力が低い代わりに、飛行能力に長けている種族です。ドラゴンのように高い知能は持っていませんが、飼いならすことができれば、このように――――背に乗って飛ぶことが可能です」


 ディルクが手を上げると、3体のワイバーンが魔王城前の広場に降り立った。


「おお、すげえ、マジか!」

 ジャスティンは子供のように目を輝かせて、ワイバーンへ駆け寄った。


 ディルクの説明では、魔族の羽は長距離の移動にはそれほど向いていないため、ワイバーンなど飛行系の魔物を、移動手段として使うことがあるというのだ。

 中には魔物の扱いが苦手な魔族もいて、自分で飛んで移動することもあるが、魔物の移動速度や飛行距離には到底敵わないという。


 レリアンティスからアルアダ王国の王都アルレッタまでは、かなりの距離であることを考慮し、今回は魔王の計らいで最高の飛行能力を持つワイバーンの貸し出しが許されたのだそうだ。

 息子には太っ腹なのか分からないが、おかげで俺たちは想定より短時間でアルレッタに戻ることができそうだった。


 ただ、馬と同じでワイバーンも俺の事が怖いらしく、近づくと暴れだすので、ワイバーンに乗るのはジャスティンとディルクだけになった。

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