第97話 アランとヴィンス

「ご報告いたします! あの森を抜けたところに、かなりの数の魔族がいることを確認いたしました!」


 モンスターとの戦闘後、全軍その場で待機していると、第一王子の元に偵察から報告が入った。俺が地図で見えていた魔族を、偵察も見つけたのだろう。

 報告を受けた第一王子は、エルキュールや、第一軍、第二軍の主だったメンバーを集め、作戦の再確認をした。


 まず俺たちのいるアルアダ王国軍は魔族に対して正面から攻め込み、その間にシェミンガム王国軍が二手に分かれて挟み撃ちにする手はずだ。

 圧倒的にこちら側の数が多いのだが、アルアダ国王が言っていた通り上級魔族の数次第ではどうなるか分からない。

 油断はせず、しっかり作戦を立てて攻め込むことになった。


 アルアダ王国軍は、この第一王子が率いる第一軍から、戦士団団長の第二軍、国王の第三軍、宮廷魔導士団団長の第四軍が順番に攻め込む。

 俺たちは最初に攻め込む第一軍に属しているのだが、エルキュールはその中でも先陣をやらせてくれと名乗り出た。


 上級魔族がいた場合は即座にエルキュールが対応できるように、というのが建前だが、俺たちの思惑としては戦闘が大きくなる前に魔族と接触したかったのだ。



「エルキュール様! ジャスティン殿! マテウス殿!」

 作戦会議が終了すると、二人の戦士が俺たちに近づいてきた。


「おや? キミたちはヘンリー団長と一緒にクレシャスに来ていた――――」


「はい、その節は失礼いたしました。私は戦士ヴィンス、こっちは戦士アランです。戦いが始まる前に、どうしても皆さまとお話がしたく、お声がけ致しました。ほら、アラン!」


 ヴィンスに肘でつつかれたアランは、

「こ、この前はあんたらに失礼なこと言って、す……すみませんでした!」

 と、ジャスティンに向かって頭を下げた。


「先ほどの戦いを見て、我々の認識が間違っていたことに恥じております。エルキュール様だけではなく、ジャスティン殿マテウス殿がこれほどの戦士でしたとは。アランなんて、年下のように見えるお二人の戦いぶりを見て、感動して涙を流してたぐらいです!」


「バ、バカッ! ヴィンス、なに言ってんだ!?」


「だって本当のことだろう?」


「アハハハハ、そっか、それでキミたちはわざわざ詫びにきたってことだね! ま、ジャスティンもマテウスも、そんなこと気にしてないと思うけど、ね?」

 エルキュールがジャスティンとマテウスを見た。


「当たり前だろ。あの時も気にしてないって言ったしな」

「当然です。竜族の血を引くこの身、そんな器の小さいことは申しません」


「だってさ。キミたちも気にしなくていいよ」


「皆様、ありがとうございます! ……お許しいただいたついでに、実は一つお願いがございます! エルキュール様たちが先行されるという話を伺いました。どうか我々のご同行を許可願えないでしょうか?」

 ヴィンスとアランが揃って膝を着いた。


 どうやら彼らの用事の本命は、そちらのようだ。

 二人の目を見れば、エルキュールたち三人に敬意を持つようになり同行を願い出たのだと、俺でも分かる。


 それにしても二人とも第一軍所属の戦士なのに、第四軍である宮廷魔導士団団長ヘンリーにクレシャスまで同行してきたし、アルアダ王国軍の中で期待されていたり、積極的な行動力のある二人なのかもしれないな。


 将来のある若者を見て、俺は何だか一人で嬉しくなっていた。

 彼らに情があるわけでもないのだが、どうもこの世界に来てから、父性が強くなってきた気がする。


「ん~、ボクは別に構わないけど、それを許可するのはアルアダ王国軍だからね」


「それは大丈夫です! 隊長には、エルキュール様に許してもらえるなら許可すると言われておりますので!」


「ふうん、なら仕方ないか。いいよ、その代わりボクらの指示には従ってね」


「ありがとうございます! アラン、やったね!!」

「ああ、一緒に戦えるぜ!!」

 ヴィンスとアランが嬉しそうに声を上げた。


 エルキュールはどういうつもりで二人の同行を認めたのだろうか。

 戦闘が目的ではない俺たちにとって、二人は邪魔な気もするので、俺はエルキュールの意図が読めないでいた。


「じゃあ、早速ボクらは出発だ。後から来る第一軍の本体が合流するまでに、魔族の強さと規模を把握しときたいからね」


 エルキュールがそう声を掛けると、俺たちはアルアダ王国軍より一足先に魔族エリアへ向かった。




 それから、森に入り二時間ほど進むと、三体の魔族と出くわした。

 先行部隊だろうか。皆レベル30台後半の中級魔族で、こちらの数も少ないことを確認すると、武器を構え戦う態勢に入っている。


「どうやら待ち伏せされていたみたいだね。やっぱり魔族側は、人間側が攻めてきていることに気づいていたみたいだ」

 距離をとったまま立ち止まると、エルキュールがそう言った。


「ど、どうしますか?」


 ヴィンスの声が震えていた。

 アランを見ると、柄にやった手が震えている。

 魔族と戦うのは初めてなのだろう。若い二人から恐怖が伝わってくる。


「ゲオっち。ジャスティン。まずは二人に頼んでいいかい?」


 エルキュールの言葉に、俺とジャスティンは黙って首を縦に振ると、両手を挙げて歩み出ていった。

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