第95話 戦争準備

 アルアダ王国の会議出席者は、国王、第一王子、戦士団団長、宮廷魔導士団団長の四人。シェミンガム王国側は、国王、宮廷魔導士団筆頭、第二騎士団長、第三騎士団長の四人だった。

 十人座席の残った二つには、エルキュールとジャスティンが着き、俺とメイベルとマテウスは後ろに立って控えることとなった。


「エイブラム殿、そこで数百の魔族が確認されたと?」


 声を出したのはアルアダ国王で、エイブラムと呼ばれたのはシェミンガム王国の宮廷魔導士団筆頭。

 初めてシェミンガム国王に謁見した際、玉座の横に立っていた魔法使いだ。


「そのとおりでございます、アルアダ国王陛下。我々の調査では、そのエリアに数百の魔族が集まっているのを発見しております。これほど人間エリアの近くとなると、遭遇頻度も高くなり危険な状態です。第三王子の小隊も、位置的にはここの魔族によるものの可能性があるかと」


「よくぞ調べてくれた、エイブラム殿。数百とは言え、上級魔族の数によっては、我が王国のみでは確実とは言えません。シェミンガム国王、どうかお力をお貸しください」


「もちろんだとも、アルアダ国王よ。同盟国の窮地、このシェミンガム王国は助力を惜しみなどせぬ」


「感謝いたします」


 両国王は立ち上がり握手を交わした。


 結局、戦争を止めることは出来なかった。

 外にいる数千の戦力が、魔族エリアに向け、すぐにでも出発する。


 宮廷魔導士団筆頭のエイブラムが見つけたという、数百の魔族が何故そこにいるかは分からないが、シェミンガム王国・アルアダ王国同盟軍は、三方向から攻め込むことになった。

 上級魔族と唯一互角に戦えるエルキュールがいる俺たちは、先陣を切るアルアダ王国軍に参加する。最初に魔族の動向を確認できるので、俺としてはちょうど良かった。


 もう戦いを避けることは出来なさそうだ。

 ならせめて、本当に第三王子が捕らえられているなら、戦いが広がる前に見つけてみせる。


 俺はそう心に誓った。




 アルアダ王国の戦力は三千以上。シェミンガム王国は五千以上。合わせて一万人近くにもなる人数が、長い列を作って魔族エリアに向かった。

 俺たちは、その先頭を行くアルアダ王国第一王子の近くを走る、馬車の中にいた。


「ゲオっちが考えているとおり、ボクも魔族の仕業じゃない可能性があると思ってるんだよね」

 エルキュールが、前にいる御者に聞こえないように言った。


「なんだよ兄ちゃん。そう思ってるなら会議の時に言えばいいのに。じゃあ誰がやったってんだ?」


「さあ? そこまでは分からないけど、魔族が戦う気でいるなら、こんな遠回しなことをするわけないんだよね。戦力的に考えて、戦うなら正々堂々と正面から攻めてくるだろうし。あの段階じゃ何を言っても戦いは止められそうになかったから、会議では言わなかったけどね」

 エルキュールがジャスティンに答えた。


「そうなのか? 兄ちゃんの言う通りなら、止めた方がいいじゃねえの?」


「いや、さっき言った通り、もう止められそうにないよ。それよりも、ボク達が王国軍より先に魔族に接触して、小隊を襲ったのが魔族なのか見極めないと。違うなら何とか誤解を解く必要があるし、第三王子を連れ去っているなら、すぐに救い出せばいい。ゲオっちもそう思うでしょ?」


「は、はい。俺もエルキュールさんと同じ考えです」

 エルキュールが俺と同じことを考えていたとは、正直驚いた。


 魔族嫌いのエルキュールの姿が見る影もなくなっているのは、やはりシャーキーと決着がついているからだろうか。

 そうなると、今回の事件がシャーキーとの件より後で本当に良かった。


「師匠とゲオさんがそう言うなら、魔族とは戦わない方が良さそうですね。ジャスティン、お前は危なっかしいから、俺たちに任せて引っ込んでた方がいいだろう」


「は? 危なっかしいって何だよ! マテウス、てめえこそ魔族と戦いたがってたじゃねえか! 引っ込んでた方がいいのはどっちだ!!」


「フン、加減もできないお前と一緒にするな」


「なんだとてめえ!」


「こらこら、二人ともこんなところでやめなさい」

 エルキュールが呆れた顔で言った。

「そんなことより、今回はメイベルちゃんに頼ることがあるかもしれないね。できれば魔族との戦いが激しくならないようにしたいんだけど、何か手はあるかい?」


「そういうことならアタシに任せな! これだけの人数の戦いを止めるのは難しいが、大きな被害を出さないようにするぐらいなら、いくらでもやりようがあるさ」

 メイベルが頼もしいセリフを吐く。


「なら良かった。じゃあボクらは上手く戦いを避けながら、魔族の様子を確認しよう。とくにゲオっちかジャスティンなら、もしかすると直接話すことができるかもしれないね」


「ああ、やってみるぜ! なあ、おっさん?」


「はい、事情を聞けるよう、頑張ってみます」


 アルアダ国王たちは止められなかったが、俺たちの方向性は一致した。

 俺一人では何もできなかったかもしれない。しかしエルキュールたちの力を借りれば、なんとか最悪の事態は止められるかもしれなかった。

 少しだけ光明が見えた気がしてきた。

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