第93話 アルアダ王国 王都アルレッタ
俺たちは、大きな街の入口に移動していた。
「こちらはアルアダ王国の王都、アルレッタでございます。まずは国王陛下の元までご案内いたします」
『リターン』を使った宮廷魔導士団団長が言った。
アルレッタは、王都と言うわりに落ち着いた街だった。
人口が少ないというより、歩く人々の雰囲気や街並みがそう思わせているようだ。
隣国シェミンガムの王都エバーディーンは、元の世界にはない色使いの建築物が多く、異世界情緒のある国だったが、茶色で統一された屋根や石畳の道のあるアルレッタは、イタリアやドイツなどヨーロッパを思い出させる趣きだった。
ヨーロッパ旅行に行ったことがあるわけではないが、こちらの方が何となく馴染みを感じた。
「なあ、魔族エリアまで遠いのか?」
王宮へ向かう道中、ジャスティンが3人の使者に尋ねた。
「ああ、行軍だとアルレッタから十日以上は掛かるだろう」
使者のうち、宮廷魔導士団団長以外の一人が答えた。
よく見ると、まだ若い戦士のようだ。
「十日以上か、けっこう遠いんだな。それで、いつ出発するんだ?」
「出発は、あんたらを連れてきてからという事になっている。すぐにでも向かうべきだと思うが、皆であんたらの到着を待っているってわけさ。そこまでして待ったんだ、本当に役に立つんだろうな?」
「アラン! 失礼だぞ!!」
もう一人の使者が、声を出した。
こちらもまだ若い戦士だ。
もしかしたら宮廷魔導士団団長の護衛として同行しているのかもしれない。
「だってよ、ヴィンス。エルキュール様はともかく、あとは子供三人と見た目だけで戦えないバケモノだぜ。わざわざ全軍を待たせるほどの事じゃないだろ!」
「やめるんだ、アラン! 我々がどうこう言うことじゃないだろう!」
「ヴィンスこそ良い子ぶるなよ! お前だって思ってんだろ? 全軍を待機させ、ヘンリー様が直々に出迎えに行くなんて、いくら何でもやり過ぎだって!」
「そ、そうだけど……いや、そういう事じゃないだろう! 我々王国戦士は、与えられた任務をしっかりこなせばいいんだ! アランは、いつもそうやって余計なことを考える! そんな余計なことを考える暇があったら、もっと腕を上げるべきだろ!」
「は? 今はそんな話じゃないだろう!? それに、ヴィンスが何も考えなさすぎなんだ! もっと考えて行動すべきじゃないのか?」
「やめなさい二人とも!!」
幼稚な喧嘩になってきた二人を、宮廷魔導士団団長が止めた。
「も、申し訳ございません、ヘンリー様」
「……」
ヴィンスはすぐに謝ったが、アランと呼ばれた方は何も言わなかった。
「ジャスティン殿、皆さま、たいへん失礼いたしました。二人はまだ若い戦士なゆえ、礼儀をわきまえてないと申しますか、血気盛んと申しますか」
「いいよ、べつに気にしてないし。俺たちが若く見えるのも事実だしな」
ジャスティンは気にしている素振りを見せず、宮廷魔導士団団長のヘンリーに答えた。
マテウス相手には、ちょっとした言葉にも噛み付くのに、今回はずいぶん大人の対応だ。
ライバル心むき出しのマテウス以外に対しては、かなり寛容なのかもしれない。
「そう言ってもらえると助かります。あとで二人には、ちゃんと言っておきますので、アランの言葉は忘れてください」
ヘンリー団長は俺たちに頭を下げた。
王宮の前には、大きな広場があり、かなりの数の騎士や戦士、魔法使いの姿が見える。
見覚えのある鎧を着ているのは、シェミンガム王国の騎士団だろう。
どうやら両王国の騎士団などがすでに集まっているようだ。
さきほどアランが言ったように、これほどの数の人たちが、俺たちが来るのを待っていたということだろうか。
わざわざ待つ必要があるのか、彼らが疑問に思うのもよく分かる。
それにしても戦力の多さが俺は気になった。どう見ても数千の数が集まっている。
まさに戦争準備と言ったところだが、これほどの戦力で攻めるというのは、いきなり過ぎやしないだろうか。
まだ開戦したわけでもない。そもそも魔族側が戦う気があるのかも怪しい。
それでこの光景は、少し異様な気がしてならないのだ。
「凄い戦力だね。ホントに全軍に近いんじゃない?」
エルキュールが広場を通り抜けながら、ヘンリー団長に言った。
「相手は魔族ですので、中途半端な戦力では被害が拡大してしまいます。我が王国全軍の八割程度、シェミンガム王国は半分程度の戦力を揃えています」
「ふうん、ま、本当に開戦するなら妥当なところだけどさ。本当に開戦するならね」
「エルキュール様の仰りたいことは理解していますが……」
ヘンリー団長は、それ以上何も言わなかった。
もう戻れないところまで来ているとでも言うのだろうか。
エルキュールも、それ以上質問することはなかった。
今ここで、これ以上議論しても仕方ないのだ。あとは、これから会うアルアダ国王に話を聞くしかない。
エルキュールもきっと、そう考えているのだと思う。
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