第91話 アリシアの提案

「アリシアお姉ちゃんがディーナに魔法を!?」

 あまりにも想定外の提案に、ディーナも驚きの表情を見せた。


「はい。今回は無理でも、ディーナ様がお望みのように、いつか皆様のお役に立てるよう、今から魔法を学んでみるのも宜しいかと」


「それいい! お姉ちゃんが教えてくれるなら、ディーナ魔法を覚えてみたい! ね、ママ、いいでしょ?」

 ディーナは目を輝かせてエリーナに言った。


「そうね……。アリシアさん、ご迷惑じゃないかしら?」


「問題ございません。ディーナ様は魔法の才能がおありのようですので、差し出がましくて申し訳ございませんが、ご提案させていただきました」


「ディーナに魔法の才能が? そうですか……。アリシアさん、もし本当にご迷惑じゃなければ、うちの子に魔法を教えてもらえないでしょうか?」

 エリーナは改まって言うと、深く頭を下げた。


「承知いたしました。そのご依頼、承ります」

 アリシアは優雅にお辞儀を返した。


「やったー! アリシアお姉ちゃん、よろしく!!」


 なんとかディーナの気持ちは町に残る方向になったようだ。

 アリシアのことだから、この場を収める最善の方法だと思ってなのかもしれないが、魔法を教えるなんて言って大丈夫だろうか。

 もちろん何でもできるスーパー魔法生命体のアリシアなら、教える能力も疑う余地はないが、ディーナに魔法の才能があるなんて、ちょっとその場しのぎ過ぎやしないか気になった。


「よし!」

 エルキュールはパンと手を叩いて、

「話はまとまったようだね。ボクらが不在の間、ディーナちゃんはアリシアちゃんにお願いするとして、ボクらは五人でアルアダ王国に行くとしよう! 色々準備もあるから、明日の朝食後に出発はどうだろう?」


「はい、それで大丈夫です」

 エルキュールが俺を見たので、そう返事をした。


「ご支援感謝します。では我々は、明日の同じ時刻にお迎えにあがります」

 宮廷魔導士団団長は、二人の使者を連れて店を後にした。


「うっしゃ! 腕が鳴るぜ!」


「はしゃぐな。遊びに行くわけではないんだぞ? 相手は魔族だ。気を引き締めるんだな」


「うるせえ! 分かってるよ!」


 ジャスティンもマテウスも、すでに魔族と戦う気でいるようだった。

 だが、俺は彼らとは思いが違う。コーバスの話を考えると、魔族側が組織立って動いたわけじゃなさそうだ。

 使者は、魔族が先に協定を破棄したと言ったが、そんなつもりはないはずだ。

 戦争にはさせないことが目的。俺はそう決心していた。




 その夜、一人でいるアリシアを見つけると、ディーナへの提案について尋ねてみた。


「アリシアさん、なんでディーナに魔法を教えるなんて言い出したんですか?」


「ディーナ様はゲオ様にとって大事な御方です。少しでも安全性が高まるよう、自分の身を守る力をつけることが良いと以前から考えておりました。それに、あの場を切り抜けるために、多少早いですが良い機会だと判断いたしました」

 アリシアは頭を下げたまま答えた。


「なるほど、そういうことですか……」


 アリシアはディーナに対して、いつも優しい態度をとる。

 どうやら、俺にとってディーナが大事な存在なのを理解し、そうしているようだ。

 俺から頼まれたことだけではなく、アリシアは想像以上に色々なことを考えているのかもしれない。


「ところで、ディーナには本当に魔法の才能なんてあるんですか?」

 俺は気になっていたことを続けて聞いた。


「トーニオ様にもエリーナ様にも魔法の才能はございませんので、本来はなかったと思われます」


「本来はなかった?」


「はい。後天的に魔法の才能が携わったと思われます。ゲオ様の回復魔法には、潜在能力を高める追加効果があるため、そのせいかと」


 ん? 回復魔法?

 言われてみれば、初めて会ったときに回復魔法をディーナに掛けた覚えがある。


「『ヒール』の魔法のせいで魔法の才能が高まったってことですか?」


「はい。ゲオ様の魔法は、通常とは別の追加効果があるようです」


 魔法の説明には追加効果について書いてはいなかった。

 説明文にはない追加効果があるということか。そんなものがあるなら、攻撃魔法だけではなく、他の魔法もむやみに使わない方が良さそうだ。


「そうだったんですね……分かりました。もう一つ気になることがあるんですが、町の周辺に現れるモンスターをどうにかできないですか? もしディーナが戦う力を手に入れたら、いつか自分も戦うと言い出してしまいます。可能なら最初から現れないようにしたいんですが」


 アリシアなら良い案があるんじゃないかと、ここぞとばかりに聞いてみた。

 この件は、もともと俺が古代竜ジオルドラードを殺してしまったのが原因なんで、ずっと心に引っ掛かっていた。


「一つ手はございます。この地域一帯は、古代竜ジオルドラードの『領域展開』スキルによって、一定以上のレベルのモンスターが近づかないようになっておりましたが、ゲオ様が古代竜を退治することでスキル効果が消えてしまいました。同じように私が『領域展開』を使用すれば、以前のように強力なモンスターの出現を抑えることが可能となります」


「おお、さすがアリシアさん! それならアリシアさんにそのスキルを使用してもらってもいいですか?」


「ゲオ様の御命令とあらば、いつでも使用いたします。ただ一つ問題がございます」

 アリシアは顔を上げて、こちらに視線を送ってきた。

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