第86話 発見
「おい、『赤蜘蛛』を嗅ぎまわってるガキ共がいるみてえだぜ」
「なんだと? 例のモノが届くまで、まだ何日か掛かるんだろ? 我々の噂が広まると面倒だ。殺しとくか?」
ヴェンデルから『赤蜘蛛』の話を聞いてから二日後、俺は町の大広場で様々な声を拾えるよう耳に集中していると、ずいぶん物騒な会話が聞こえてきた。
会話の内容からして『赤蜘蛛』のメンバーのようだ。
「そうだな。疫病は何故かうまく広まらなかったし、次失敗するわけにはいかねえからな」
「ああ、不安要素は早めに潰しておくのが賢明だ。明日にでも五人で手分けしてそいつらを見つけだすぞ!」
どうやらまだ何か企んでるようだ。
そのおかげで町に残っていたのなら、こちらとしては逆に都合がいいが。
俺は『赤蜘蛛』と思われる奴らの声を聞き洩らさないよう注意しながら、居場所を突き止めるためにそれを辿った。
会話を発している場所は、人通りの少ない裏通りに佇む一軒家からだった。地図を開くと、中にいるのが四人だというのが分かる。
俺は様子を見るため、少し離れた場所から張り込んでみることにした。これほどの距離で人を識別できるのは、たぶん俺ぐらいだ。相手に見つかることはない。
ん? あれは?
一人の男がその建物に入っていくのが見えた。
服で半分隠れていたが、腕にあったのは赤い蜘蛛のタトゥーで間違いない。
レベルは32で、見たからに育ちが悪く粗暴さがにじみ出ている男だった。
あの建物が『赤蜘蛛』の隠れ家だな。
さっきの話からすると、今いる五人で全員か。
現れた男は思ったよりレベルが高かった。
他のメンバーも今の奴と同程度のレベルだとすると、領主グレタの兵やトーニオたち用心棒で相手をするのは危険だ。
俺は店に戻りエルキュールやジャスティンに話すのが確実だと判断し、一旦その場を離れた。
俺が戻った時、店はちょうど片付けの最中で、アリシア、エルキュール、トーニオは見当たらなかったが、捜索から戻り店の端に二人でいたジャスティンとマテウスに『赤蜘蛛』の話を伝えた。
「さすがおっさんだぜ! こういうの得意だよな!」
早速ジャスティンが食いついてきた。
「ゲオさん、お手柄です! 後は私たちに任せてください!」
やっと捜索が終わりそうだからか、マテウスも張り切っている様子だ。
「赤いタトゥーは結構目立つので、偶然見つけられて良かったです。知名度があるだけあって、かなり危険な連中のように見えました」
「へえ、おっさんがそう言うなら、結構レベルが高い連中なのかもな。だが俺とマテウスなら関係ねえ! 多少強くても俺ら二人なら問題ねえぜ! な、マテウス?」
「当然だ。鍛え抜かれた最強クラスの騎士や師匠でもないかぎり、私が遅れをとるようなことはない!」
どうも二人で乗り込む気でいるようだ。
できればエルキュールもいれば、より確実だったが、彼らが言うようにジャスティンとマテウスだけでも負けることはないだろう。
それなら、まずは被害が出る前に、二人と一緒に早い段階で捕まえた方が良さそうだ。
「では俺が案内しましょう。今なら五人とも建物内にいるようですので」
「おっさんも来るのか? 戦えねえんだから、俺らに任せてくれれば平気だぜ?」
「大丈夫です。たしかに戦えませんが、逃げようとする相手を捕まえるぐらいはできますので」
相手は五人だ。負けることはなくても逃げられることはあるかもしれない。
二人だけに任せず、俺も参加を申し出た。
「そういえば力だけは強かったんだっけ? 分かった、おっさんも頼むよ!」
「待ちな、ジャスティン! おまえらだけじゃ心配だ、アタシも行くよ!」
突然メイベルが割り込んできた。
「メイベル? 店の方は終わったのか?」
「ああ、お姉さまは買い出しに行っているが、片づけは終了だ」
メイベルがそう言うと、奥からブレンダ、ディーナ、エリーナが現れた。
メイベルも加わるなら、安泰どころか『赤蜘蛛』の本拠地に乗り込んでも壊滅できそうだ。
丁度いいタイミングだった。
「ねえねえ、何の話?」
ディーナがジャスティンの横に座ると、彼に尋ねた。
「え、えっと、この前の疫病の犯人を、ゲオのおっさんが見つけたみたいでよ。これから乗り込もうって話だ!」
ジャスティンはディーナが少しだけ苦手のように見える。
年齢はジャスティンの方が上なのだが、ディーナが一方的にお姉さん意識があるようで、彼の世話ばかりしたがる。
本当の家族とは二十年も会ってないジャスティンには、どう扱っていいのか困っているようだった。
「そっか、さすがゲオおじさんだね!」
ディーナに笑顔を向けられると、何だかフニャフニャした気持ちになる。
「ま、そういうこった。じゃあ、ちょっくら行ってくるぜ!」
ジャスティンが椅子から立つと、マテウスと俺も続いた。
「ディーナも行く!」
ディーナも同じように立ち上がり、そう言った。
「え!? お、おい、なに言ってんだ? 聞いてなかったのか? 遊びに行くわけじゃねえんだぞ?」
「分かってるよ! ディーナもジャスティンたちと一緒に行く!!」
その場にいる全員が、ディーナの言葉に驚いているのが分かった。
皆、ディーナが真剣に言っているのが伝わったのだ。
「ディーナ、あなた何言っているの!?」
「急にどうしたんだい?」
ディーナの母エリーナとブレンダは、慌てて引き留めるように言った。
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