第85話 疫病の原因
「やっと疫病の原因が分かりました!」
自分で見つけたわけじゃないだろうに、朝からトーニオがドヤ顔を見せた。
彼はいつも、全員が食べ終わった頃に話し出す。
「結局なんだったんだい?」
「それがですね、ブレンダさん。三日前に町中の人が突然治った理由は分からないままですが、疫病の広まった原因は、給水設備や町中の井戸や川に沈めてあった『呪われた魔物の臓器』でした。これも何故か全て浄化されていたんですが、教会の聖職者が言うには、それが間違いなく原因だったようです!」
呪われた魔物の臓器……、想像するのも嫌だな。
すでに浄化されていたのは、メイベルの魔法のおかげだろう。
「ディーナの父ちゃん。それって誰かがやったってことだろ? それを沈めた犯人はもう分かってるのか?」
トーニオの熱弁を唯一真剣に聞いていたジャスティンが尋ねた。
「ジャスティン君、良い質問だね! 残念ながらまだ分かってなくて、現状は領主のグレタ様が全力で調査中だ。我々バーナード用心棒組も手伝ってはいるが、今のところ手掛かりはないんだよね」
「そっか……。でも、わざと疫病を流行らせるなんて許せねえよな! このまま放っておくわけにもいかねえし。なあ、マテウス、俺たちも犯人捜そうぜ!」
「ん? ジャスティン、私に言っているのか?」
マテウスは急に振られて少し驚いている。
「そうだよ、マテウスって言っただろ。こういう時のために俺たちは強くなってんだから、力にならないとな!」
「こういう時のためにって、犯人捜しと強さは関係ないと思うが……。まあ、意図的に疫病を流行らせた奴を野放しにもできないし、私も手伝おう。師匠、構わないですよね?」
「もちろんだ! キミたち二人なら危険な目に合うこともないだろうし、ジャスティンが言うように町の人たちの力になってあげて!」
「よっしゃ! 兄ちゃんの許可も出たし、決まりだな! ゲオのおっさんも、何か分かったら教えてくれよな?」
「は、はい」
今度は俺に言ってきた。
こういう時のジャスティンは、周りを巻き込みグイグイと引っ張っていく感じがする。
ただ、彼に言われなくても、疫病をばら撒いた者がいるというなら、捜し出してやろうと俺も考えていた。
疫病で苦しんだ人はかなりの数に上っていたのだ。幸いメイベルの魔法で死者は出なかったが、見逃せる話じゃなかった。
誰が何のためにやったのか、解明する必要があった。
それからジャスティンとマテウスは、その日のうちに犯人捜しを始めた。
俺は仕事があるので同じようにはいかないが、採石場の仲間に聞き込みをしたり、それらしい噂話をしている者がいないか聞き耳をたてたりした。
最初、手掛かりぐらいはすぐにでも見つかると誰もが思ったが、その名前が出るまで、五日ほど掛かっていた。
「ゲオよ。『赤蜘蛛』の話は聞いたか?」
親方のヴェンデルが、俺の持ち場まで来てそう言った。
「赤蜘蛛? 虫の話ですか?」
「なんだ、おぬし。『赤蜘蛛』を知らんのか!? 世界最悪の犯罪組織と言われている『赤蜘蛛』じゃよ」
「はあ、そんな危ない組織があるんですね。知りませんでした」
「何をのん気に言っておる。その『赤蜘蛛』のメンバーをクレシャスで見掛けたという話が出ておるのじゃ!」
「この町で?」
ヴェンデルの様子を見る限り、メンバーを見掛けるだけで大ごとのようだ。
「そうじゃ! 『赤蜘蛛』はここから遥か北、シェミンガム王国の更に北にあるアルアダ王国の辺境の地に拠点があると言われておる。なのにこんな遠くまで来るというのは、何か企んでおるに違いないじゃろ!」
「!? つまり、疫病を広めたのが?」
ヴェンデルは俺の言葉に、黙って首を縦に振った。
いくら世界最悪の犯罪組織と言っても、たまたま訪れていることだって有り得るのではと思ったが、ヴェンデルは確信しているようだ。
俺としては半信半疑だが、調べてみる価値はありそうだった。
「ヴェンデルさん、ありがとうございます。『赤蜘蛛』のこと、ジャスティン達と話してみます」
「ああ、気をつけるのじゃぞ。『赤蜘蛛』はその辺の盗賊団とは違うのでの」
「はい、肝に銘じておきます」
ここのところ捜索に行き詰まりを感じていたので、これで少しでも進展すればいいと思いながら、ヴェンデルに頭を下げた。
その夜、ジャスティンとマテウスに話をすると、二人も今回の原因が『赤蜘蛛』で間違いないと確信している様子だった。
この世界では誰でも知っている犯罪組織で、金さえ貰えば誘拐や殺人から戦争まで引き受ける、とんでもない集団のようだ。
町全体に疫病を流行らせるなんて大掛かりで卑劣なことは、彼らなら打ってつけだという。
「奴らは赤い蜘蛛のタトゥーがトレードマークだったよな? 何としても見つけだしてやるぜ!」
ジャスティンは自分の掌に拳をぶつけ、怒りをあらわにした。
ジャスティンたち二人は『赤蜘蛛』だけに的を絞って捜索を続けるようだ。
それなら俺も『赤蜘蛛』をキーワードに聞き耳を立てることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます