第82話 ハーフ竜族のマテウス①

「ところでゲオっち、聞いた?」


「え? なにをですか?」

 夕食を食べ終わったころ、アリシアに必死で話しかけていたエルキュールが、突然俺に話を振ってきた。


「この町にハーフ竜族が来ているらしいよ」


「ハーフ竜族? 人間とドラゴニュートのハーフですか?」


「いや、それがね、人間とドラゴンのハーフみたいなんだよね!」


「ドラゴン? ドラゴンてモンスターですよね? 人間と子供を作れるんですかね」


「ドラゴンはモンスターじゃないよ。もちろん人間や亜人とも違う。ドラゴンはドラゴンさ。でも、人間と子供を作ったって話は一度も聞いたことないけどね」


 ドラゴン。

 この世界に来たばかりの頃、一度だけ出会ったことがあった。

 その大きさはジャンボジェット機なんかよりも大きく、とても人間と子供を作るような種族には思えないが。


「おっさん達、もしかしてハーフ竜族の話してんのか?」

 ディーナと話していたジャスティンが、こちらの会話に入ってきた。


「はい。エルキュールさんにハーフ竜族が来てるらしいと聞きました」


「ドラゴンの血を引いているから、やっぱ強えのかな? ちょっと戦ってみてえよな!」


「こらこら、ジャスティンは強いんだから、簡単に戦ったりするものじゃないよ」


「いいじゃんかよ、エルキュールの兄ちゃん。別に殺し合いするわけじゃねえしさ」


 ジャスティンのレベルは41まで上がっていた。

 日々エルキュールと訓練しているとは言え、さすがは魔王の子と言うべきか、成長速度には目を見張るものがある。

 ジャスティン本人も、自分の成長に喜びを感じているようだった。


「どっちにしても明日、探してみよっかな。ハーフ竜族ってのを見てみてえし」

 ジャスティンはそう言うと、食べ終わった自分の皿を持ち、厨房部屋へ向かった。


「あ、ジャスティン待って! ディーナもお皿洗う!」

 ディーナも自分の皿を持って、ジャスティンを追いかけた。


 ジャスティンは意外にも家事をよく手伝う。

 最近は、ディーナと二人で家事をする姿を、よく見かけるようになっていた。


「ハーフ竜族だって見世物じゃないんだから……。まあ……危険な魔族が来てるわけじゃないし、大ごとにはならないだろうけどさ」

 去っていく二人を見ながら、エルキュールは、仕方ないなという顔をして言った。




 翌日、大ごととまではいかないが、ちょっとした騒ぎになっていた。


「ゲオ。おぬしんとこの半魔族が、噂の半竜族と決闘になってるそうじゃぞ」

 採石場での仕事中、親方のヴェンデルが騒ぎを聞きつけ俺に教えてくれた。


「ジャスティンが決闘!?」


 あいつは何をやっているんだ。

 さすがに決闘というのは大袈裟な表現だと思うが、そのハーフ竜族はジャスティンが戦ってみたいと思うような奴ってことか。

 魔王の血を引く者とドラゴンの血を引く者。面白い組み合わせではあるが……。


「いつもの広場のようじゃ。行ってきてもよいぞ」

 ヴェンデルが気を使ってくれる。


「すみません、じゃあちょっと外させてもらいます」

 エルキュールでもいるなら俺が行く必要もないだろうが、ハーフ竜族というのも気になるし、俺はヴェンデルの配慮に乗っかることにした。



「おまえ! ガキのくせに何だその偉そうな態度は!」

 広場に着くと、ジャスティンの叫ぶ声が聞こえた。

 彼の視線を追うと、水色の髪をした少年が立っている。


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 名前 マテウス

 レベル 43

 種族 ハーフ竜族

 HP 1281/1339

 MP 879/879

 攻撃力 666

 防御力 604

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 ジャスティンが言うように、見た目はまだ少年で、人間で言うと14、5歳というところだろうか。

 もっとリザードマンのような姿を想像していたが、外見はほとんど人間と変わりがなく、魔族とは違った真っ直ぐで短い角が二本生えていた。


「私には、お前の方がガキに見えるが」

 感情的なジャスティンとは対照的に、ハーフ竜族のマテウスが落ち着いた態度で言った。


「なんだとぉ!」

 ジャスティンは剣を振りかざし、マテウスに突進していった。


 こんな町中で、ジャスティンほどの高レベルな奴が本気で戦おうとしている。

 相手もジャスティンに近い高レベル者なので、どちらかが死ぬようなことはないと思うが、周りに被害が出る前に止めた方がいいだろうか。


 辺りを見回してもエルキュールは見当たらない。

 いざとなったら俺が止めるしかなさそうだった。


 しかし、二人の戦いは俺が思っていたものとは違う形になっていた。

 ジャスティンの猛攻撃を、マテウスは剣で全て受け流している。

 レベル差以上に剣の実力差があるようだ。


「ふん、ハーフ魔族というのは口だけのようだな」


「くっ、コイツっ!」


 明らかにジャスティンが軽くあしらわれている様子だ。

 ジャスティンの剣は一撃一撃が速く強い攻撃だったが、マテウスはそれを物ともしていない。

 相当実戦慣れしていると、俺でも分かった。


「ぐはっ!!」


 マテウスは剣で受けずに攻撃を避けると、ジャスティンの腹部に膝を入れた。


「お前、レベルは高いようだが、そんな力任せの戦い方だと私には勝てないぞ」


 気を失ったジャスティンに、マテウスの言葉は届いていないようだった。

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