第三章
第81話 ジャスティンとメイベルが加わった日常
「ふん、ずいぶん賑やかになったもんだね」
朝食の時間、ブレンダがそう呟いた。
彼女の言葉は、大袈裟でもなく勘違いでもなく事実だった。
ジャスティンは結局、師匠であるエルキュールの部屋に住むことになり、メイベルはアリシアの部屋に。
俺とブレンダを合わせれば、総勢6人がこの店に住んでいることになる。
朝食になるとディーナたち家族の3人も来るので、朝から9人でテーブルを囲んでいるのだ。
「アリシアお姉ちゃん、一族の掟は大丈夫なの?」
俺たちが戻ってきてから、一緒に食事をとるようになったアリシアにディーナが尋ねた。
そう言えば、食事の必要がないアリシアは、一族の掟で人前では食事をしない設定にしたのだった。
同じ一族ということになっているメイベルが食べるので、アリシアも参加しないわけにはいかなくなった。
「はい。皆さんはもう家族ですので、皆さんと食べることは人前にはなりません」
「そうなんだ! やったー!」
アリシアよ、最高の返しだ!
不自然に思われるどころか、皆が幸せそうな表情をしている。
ジャスティンとメイベルを加えた、新しい日常は平穏に始まっていた。
事前に決めていた通り、ジャスティンはエルキュールに弟子入りし、町の外で訓練をしたり、二人で『悠久の地下迷宮』へ潜ったりしている。
また、町の外に現れるモンスターを、エルキュールと一緒に退治することが多くなり、持ち前のまっすぐな性格もあって、彼はクレシャスでもすぐに人気者になっていった。
ジャスティンには、同じハーフ魔族として格差を感じさせられるが、それ以上に誇り高い気持ちにさせてもらっている。
メイベルはアリシアと同じように、お店の手伝いや家事をしていた。
レベルが高いからか魔法生命体だからか、何をやらせても問題なくこなしている。10歳ぐらいにしか見えないメイベルが完璧に接客をする姿は、微笑ましいというより、見る人を驚嘆させていた。
俺たち3人で旅をしている時は何もしなかったというのに、アリシアがいると優等生を崩すことはないようだ。
そのアリシアだが、英雄としての仕事はお役御免にさせてもらった。
世界のバランスを崩しかねない彼女には、なるべく戦ってほしくないのだ。
俺のように加減が出来ず、世界を壊すなんてことはないと思うが、魔王のような世界にとって重要人物を、あっさり倒してしまったら歴史に影響を与えてしまう。なので、英雄的な仕事はエルキュールに納まってもらうのが一番と考えたのだ。
エルキュールやメイベルを筆頭としたアリシア崇拝組は、彼女の戦っている姿を見られなくなるので渋っていたが、アリシアに守ってもらうなんて、おこがまし過ぎるということで納得したようだ。
想定外だったのが、ディーナ・ジャスティン・メイベルが仲良くなったことだ。
種族も違うし、実際の年齢はバラバラなのだが、見た目の年齢の方が影響が大きいのか、いつの間にか3人で話すことが多くなっていた。
この前なんかは、ジャスティンの生活用品を揃えるために、3人で買い物に出掛けていた。ディーナとメイベルからすれば、ジャスティンの世話をしているつもりなのかもしれないが、彼が素直にそれを受け入れる様子は、幼馴染みの3人組、というイメージを周囲に与えている。
俺にとっての最近の癒しは、その姿を見ることだった。
「なあ、おっさんは強くなりたいとか思わねえのか?」
ある日、ジャスティンが突然そう聞いてきた。
「え? 強くですか?」
「ああ。採石場で働いてるみたいだけど、冒険者にでもなってレベル上げした方がいいんじゃねえか? ハーフ魔族なんだし、レベルを上げれば強くなれるんじゃねえの?」
「そ……そうですね……」
せっかく異世界に来たので、周りに迷惑を掛けずに戦えるなら、俺も冒険者になってダンジョンに行ったりしてみたいと思っていた頃もあったけど、最近はもうそんな気持ちも失せていた。
今はただ、皆と一緒に平穏に暮らしたい、ただそれだけだった。
「ジャスティンは、まだまだ強くなりたいですか?」
俺は答えを曖昧にしたまま、ジャスティンに聞き返した。
「もちろんだ! 何かを守ろうとしたら、強くなきゃ守れないだろ? 俺は力が足りなくて守れないなんて、もう嫌なんだ! 守りたいときに守れる力が欲しい!!」
「守りたいときに守れる力ですか……」
たしかに、守りたいときに守れない力なら意味がない。
そう考えると、戦えない俺は守る力を持ってないと言っていい。
ここにはアリシアがいるが、いつも彼女に頼るばかりじゃいられないだろう。どんな時でも自分の周りを守れる力が、俺にも必要かもしれない。
「ま、おっさんがやりたいようにやればいいけどさ。この町にいればエルキュールの兄ちゃんや俺が、おっさんも守ってやるからよ!」
「はは、そうですか。ありがとうございます」
ジャスティンから見れば、俺ですら守る対象らしい。
懐が深すぎて笑うしかなかった。
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