第78話 依頼完了

 まず俺たちはャスティンに、どこを目指して旅をしているか聞くことにした。


「行先? そんなもんねえよ。適当に回ってるだけだ。そんなことより俺は強くなることが目的だ。収容所でゴーレムに勝てなかったばっかりに、みんなを助けられなかったからな。おっさん達が来なかったら、今でもあそこにいたかもしれねえ」


「なるほど、それで騎士オリヴァーに剣術を習いたかったんだね。じゃあ強くなれるならどこに居てもいいってことかい?」

 エルキュールは更にジャスティンへ質問した。


「ああ、場所なんて関係ねえ。強くなれさえすればな。世界最強の騎士がオリヴァーのおっさんって話を聞いたから、ここにいるだけだ。ま、人間では最強かもしれねえが、俺は本当に強い奴の戦いを見ちまったけどな」


「ははは、そんなこと……あるかもしれないね!」

 ジャスティンの視線を、エルキュールはドヤ顔で答えた。

 復讐を果たしたせいか、いつにもまして軽薄モードだ。


「そういえばおっさん、俺に何の用だったんだ? 俺を探してたんだよな?」


「ええ、実はクレシャスの町で一緒に住まないかと思って」

 俺は、ジャスティンの父が魔王であること以外、事情を一通り説明した。


「俺が人間と魔族の架け橋? そんな大層なもんじゃねえと思うけどなぁ。それに、おっさんと一緒に住むとか言われてもな。たしかにあの上級魔族よりも強い魔族なんかに襲われたら、俺じゃ相手にならないと思うけどよ……」


「あ、一緒に住むと言っても、同じ部屋ってわけじゃないです。同じクレシャスの町でって意味で。クレシャスは人間以外の種族が多いですし、ハーフ魔族の俺だけじゃなく、ハーフ獣人のディーナや、エルキュールさんだっています。きっとジャスティンも気に入ると思いますよ!」


「ん~、そうだなぁ。たしかに目的地なんてないけどさ。――――あっ! エルキュールの兄ちゃんが俺を弟子にしてくれるなら、クレシャスってとこに行ってもいいぜ!!」


「え? ボクの弟子!?」

 急な提案にエルキュールも驚いた様子だ。


「ああ! 兄ちゃんほど強い奴なんて、世界中探してもそうそういないしな!」


「ま、まあボクより強かったのは、先代勇者パーティのメンバーぐらいだけどね」

 まんざらでもなさそうに、エルキュールが締まりのない顔をした。


「なあ、兄ちゃん頼むよ! 俺を弟子にしてくれよ! 兄ちゃんみたいな強い奴に教わりたいんだ!」


「そうだねえ。――――そこまで言うなら!」


 おいおい、そんな安請け合いして大丈夫か?

 どう見ても今のは乗せられたように見えたけど。


「よっしゃ! 決まりな!!」


「ま、こうなったら仕方ないね。弟子なんてとったことないけど、ここはやるしかなさそうだ」

 エルキュールは諦めた表情で言った。


「エルキュールさん、ありがとうございます。ジャスティンも、これからよろしくお願いします」


「ああ、こちらこそよろしくな! まさかおっさん達と一緒に住むとはな。メイベルもよろしくな!」

 少し離れたソファに座っているメイベルにも、ジャスティンは声を掛けた。


「ああ、はいはい」

 あんまり興味なさそうにメイベルは返事をする。



 これで魔王に頼まれたジャスティンの保護は完了となった。

 なにせクレシャスは世界で一番安全な町だ。

 どんな強力な魔族が攻めてこようと、たとえ魔族全軍が押し寄せようと、きっと守り抜くことが出来る。


 あとはジャスティンが一人前に育つのを待つだけだ。


「それじゃ、早速出発しましょうか。クレシャスまで一か月半は掛かりますから」


「そうだね、国王に挨拶したらすぐにでも戻ろう! 早くアリシアちゃんに会いたいしね!」


 俺とエルキュールは早速、身支度を始めた。


「ゲオもエルも何言ってんだ! 目的は果たしたんだから、魔法で帰るに決まってるだろ! 馬車でモタモタ帰ってられるか!!」


「え? 魔法? 『テレポート』だと移動できるのは自分だけですし、全員使えるわけじゃないですので……」


「はあ? ゲオは何を言ってんだ? 帰還魔法の『リターン』に決まってんだろ! 全員一緒に帰らないでどうすんだよ!」

 メイベルが呆れる顔をした。


「『リターン』ならみんな一緒に帰れるんですか?」


「ゲオ、おまえはホントに無知だよな! 『リターン』は『テレポート』と違ってパーティメンバーも一緒に移動できるんだ。そのかわり自分の町限定だけどな! しっかり勉強しとけ!!」


「なるほど、そうだったんですね」

 魔法の説明欄に書いてあるのかもしれないが、種類が多すぎて俺はまだ半分も目を通していなかった。


「ゲオっち、そういうことだよ! でも、ボクが『リターン』を使うと、ボクの出身地に行っちゃうけどね。もしかしてメイベルちゃんが使えるのかな?」


「ああ! アタシが使えばアリシアお姉さまのいるクレシャスに飛ぶぜ!」


「おおおお!」

 俺たち三人は思わず拍手を送った。


 これでやっとクレシャスへ帰ることができる。

 二か月ちかく離れているが、変わりないだろうか。


 俺たちは国王やお世話になった人たちに挨拶を済ませると、メイベルの魔法でクレシャスの町へ帰還した。

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