第20話 手加減

 俺は気になって確かめてみることにした。


 まずは目の前のコップを手にとってみると、当たり前だが壊さず普通に持つことができる。

 握りつぶそうと意識して力を入れると、パリンと音を立てて割れた。

 だからと言って大爆発が起こったりはしない。


 次にテーブルを押してみた。

 テーブルの脚と床が擦れる音を出しながら、ズズズッと動いた。


 やっぱり、普通に動かすことはできる。


 ためしにテーブルを叩いてみる。壊すつもりじゃなく、ちょっと音を鳴らす程度の気持ちで。

 すると壊れることなく、想定通りの音しか出さない。

 音の大きさで、人間だった俺が叩くのと、変わらない強さで叩くことができたのだ感じる。


 グーならどうだ?


 俺は拳を握ってテーブルを叩いた。

 ガンと、先ほどより強い音が鳴ったが、壊れるようなことはない。まったく加減ができない身体というわけではなさそうだ。


 もしかして、慣れれば普通に戦ったりすることができるかもしれない。

 別に戦いたいわけではないが、戦いになっても周囲を巻き込むようなことがないに越したことはない。


 俺はもっと実戦で確かめてみたくなった。

 実際に戦うとなると……。


 最近見つけた魔法に、いいのがあった。


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 テレポート

 一度でも訪れたことのある場所をイメージすると、一瞬で移動ができる上級魔法。

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 なんて便利なんだ。この世界も捨てたもんじゃない。


 戦うとしたらモンスターで試すしかない。俺は初めてスライムと戦った場所を思い浮かべた。


「たしか近くに大きな木があったな。――――テレポート!」



 魔法を唱えると、瞬間的に辺りの景色が入れ替わった。

 目の前には見覚えのある木がある。


「間違いない、この木だ」


 あの時は近くに赤い点があることに気づき、スライムを見つけた。

 スライムと遭遇したと思われる方向を見ると、巨大なクレーターが出来ていた。

 俺が殴った跡だ。


「町中でやるわけにはいかないな……」


 改めて自分の恐ろしさを自覚した。たからこそ、試してみる価値があるはずだ。

 俺は地図を開きモンスターを探した。


 一番近くに映った赤い点は、スライムだった。

 地域によってある程度どのモンスターが生息しているのかは、決まっているのかもしれない。


 ドラゴンのように飛んでいるモンスターは試しづらいので、ちょうど良かった。

 俺はスライムに近づいていくと、前回と同様、スライムもこちらに気づくと向かってきた。


 そして飛び上がって、ボヨンとぶつかってくる

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 スライムAはあなたに攻撃をした。

 あなたは0ダメージを受けた。

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 相変わらず問答無用で攻撃をしてくるが、俺じゃなくてもダメージを受けないんじゃないかと思える。


 少し間を置くと、スライムは再び攻撃をしてくる。

 ここだ。この前はここで俺は反撃をした。


 前のように無我夢中で殴ったりせず、しっかり加減を意識してスライムを殴ってみよう。

 俺は周りに影響がでないよう、念のため飛んできたスライムを下から突き上げるように拳を当てにいった。


 すると、またスローモーションのように時がゆっくりと流れ出した。

 俺は空中をゆっくり動いてくるスライムに、下から拳を当てる。


 ドゴオオォォォォォォーーーーーーン!!!!!


 激しい轟音とともにスライムは蒸発し、空に向かって衝撃破が放たれた。

 空を覆っていた雲も消え去り、澄み渡った青空が顔を出す。


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 あなたはスライムAに攻撃をした。

 あなたはスライムAに99999ダメージを与えた。

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 同じじゃん!


 まったく加減ができていなかった。

 周りを見回しても、前ほどではないが自分を中心にクレーターが出来ている。


 やっぱりダメなのだろうか。モンスター相手になると、どうしても強力な攻撃になってしまう。

 赤い点が相手だと攻撃になるけど、青い点が相手なら攻撃にならないとか。

 試すわけにはいかない……。


 そういえば、このログを見るのは久しぶりなことに気づいた。

 攻撃をしたり、魔法やスキルを使うとログが表示されるが、コップを持ったりするだけでは、とくにログは現れない。


 もしかしたら攻撃のようにログがでる行動は加減ができないが、ログが出ないような行動をするかぎりは、普通の人と変わらないことができるのではないだろうか。

 俺は地面を叩きながら考えた。


「もう一回試してみるか」



 改めてスライムを探した。

 また、スライムは同じように、俺を見つけるなり攻撃をしてくる。


 さっきは、ここで加減して反撃をしてみたが、攻撃をするのではなく飛んできたボールを触るだけ。

 俺はそんなつもりで、手のひらでスライムを受けてみた。


 するとスライムは、俺の手のひらに跳ね返り、無事のようだ。

 スライムから攻撃を受けたログは出るが、攻撃をしたログは出ない。


 よしよし、もう一度こい。


 スライムは再び飛び上がった。

 俺は手のひらではなく拳を握り、押し返すだけのつもりで拳を突き出した。


 ボヨン


 身体にぶつかってきたときと同じような音を鳴らし、スライムは跳ね返った。


 これだ!!


 俺はスライム相手でも、ログを出さずに拳を当てることができた。

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