第18話 夜襲

 日が落ち始めるころ、俺は再び用心棒の職場に戻った。


「ゲオ、夜はあの五人と一緒に屋敷の警護をしてもらうぞ」

 チャドが、まだ顔も名前も覚えてない五人を紹介してくれた。


「分かりました。よろしくお願いします」

 俺は五人に頭を下げた。


 それにしても六人がかりで一晩警護が必要なほど、この辺は治安が悪いのだろうか。

 バーナードは商人としてそれなりの成功者と思われるので、襲われるターゲットになりそうなのも、分かる気はするが。


 見栄とういうか、金持ちのステータスというのもあるかもしれない。

 まあ、どんな理由にせよ、俺は与えられた仕事をこなすだけでしかなかった。


「ゲオさん、よろしくお願いします」


 警護は二人一組でコンビを組み、三か所に配置させられた。

 俺の相棒となったフランクは、引きつった表情で挨拶をしてきた。


「フランクさん、こちらこそ」

 俺は挨拶を返した。


 バーナードを始め、カシラもチャドも肝が据わっているようで、俺の外見に気後れしている様子はない。

 しかし、それ以外の用心棒のメンバーは、町の人々と同様に俺への視線には恐れが入り混じっている。


 俺が人間だった世界なら、どう見てもならず者にしか見えないフランクに、俺の方がビビるところだが、この世界では立場が反対のようだ。

 さすがにそういう反応に少しずつ慣れてはきても、いい気がするわけではない。



 俺とフランクの担当は敷地の正門前。

 警備員のバイトをやったことのある俺は、懐中電灯を持って見回るようなことを想像していたのだが、ただひたすら立っているだけの仕事だった。


 フランクと会話が弾むわけでもなく、スマホで時間を潰すこともできない、なんとも退屈な夜になりそうだ。

 フランクはというと、横眼でチラチラとこちらをうかがっている。


 警護なのだから、辺りを警戒しないといけないのだが、俺のことが気になりそれどころではなさそうだ。

 よっぽど俺のことが怖いのであろう。少し同情する。


 夜が深くなると、物音ひとつしなくなった。

 昨夜の記憶では、夜はまったくと言っていいほど人出はない。


 電気のないこの世界、家の窓から漏れる光や、星明かりぐらいしか闇夜を照らすものがない。

 俺は、ただただ暗闇をじっと見つめて立っているだけだった。


 状況に慣れてきたのか、フランクが眠そうな表情をするようになった頃、遠くから怒鳴り声が聞こえた。


「てめら、ダグラスんとこのモンだな!」

 耳を澄ますと、言っている内容が聞き取れた。


「ゲオさん、今何か声が」

 フランクも気づいたようだ。


 俺は地図を開くと、屋敷の裏手に多くの青い点を確認した。

 俺たち以外の警護は四人のはずだが、それ以外に十人近くの青い点が映っている。


 ダグラスと言っていたな。

 昼間のあいつらが襲ってきたのかもしれない。


 俺はダグラスの捨て台詞を思い出していた。


「ゲオさん、行きましょう!」


 フランクは事態を察し、応援に行こうと言ってきた。

 たしかに、これが襲われている状況なら、相手の数を考えると、すぐにでも応援が必要だ。


 俺は地図で、正門付近には青い点が見当たらないことを確認すると、フランクと一緒に屋敷の裏側へ向かった。

 行ったところで戦うわけにはいかないが、放っておくわけにもいかなかった。


 屋敷の裏手では、暗闇の中、すでに戦闘が始まっていた。

 目に集中すると、相手は十一人で、こちらの四人が囲まれている状態なのが見えた。


 ダグラスの後ろに立っていた二人はいないようで、どれもレベルは20前後。

 チャドがいれば何とかなりそうな相手だったが、警護側の四人もレベル20そこそこ。

 このままだと敗北は間違いなさそうだ。


 不利な状況に臆することなく、フランクはすぐに剣を抜き斬りこんでいった。

 俺にはビビッていたが、こういうところは用心棒なのだろう。


 それでも五対十一。倍以上の差があるのは変わりない。

 地図で応援が来そうか確認するが、集まってくる青い点はなさそうだ。

 チャドたちは気づいてないのだろうか。


 状況は刻一刻と劣勢が強まっていった。

 相手は傷つくどころか、まったく疲れを見せていないのに対し、こちらは五人とも流血しており、ステータスを見るとHPが100を切っているやつもいる。


 さすがに殺したりはしないだろうが……。


 傍観者のままでいるわけにはいかなそうである。

 俺は昨夜見かけたスキルを使ってみることにした。


 --------------------------------------------

 閃光

 使用者を中心に周辺を数秒だけ照らす。

 --------------------------------------------


 『閃光』をダブルタップし、Yesを選択した。

 すると照明弾でも撃ったかのように、パッと辺りが明るくなった。


「な、なんだ!?」

「誰かいるぞ!」

「ま……、ま……、魔族だ!!」


 襲ってきた奴らが俺の姿に気づき、みるみるうちに恐怖の表情へ変わっていくのが分かった。

 俺は無言で相手に近づいていく。


「まさか、上級魔族?!」

「そんなの聞いてねえぞ……」

「やべえ、俺は降りるぜ!」


 一人が逃げるように走り去っていくと、それを皮切りに虫を散らすように他の奴らも逃げ出していく。

 地図でも俺たち六人以外は見当たらなくなった。


 俺たちの勝利だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る