第16話 初仕事
翌日、俺は早速チャド達のいる建物に顔を出した。
「おはようございます」
「よお、来たか。何度見ても恐ろしい顔をしてるな」
カシラが人の顔を見るなり言ってくる。
自分でもそう思うから別にいいのだが。
まずは着る物を支給された。
いくら魔族のような姿と言っても、ほぼ裸なのは見苦しいとのカシラの意向により、上下黒い革製品を渡された。
少しコスプレちっくな服装だが、怖さを際立たせるという意味では、今の俺には似合っていた。
「ゲオ、仕事が決まったぞ。今日はバーナードさんの交渉に俺と同席だ」
チャドが奥の部屋から出てきた。
俺はレベル10で弱っちいということになっている。
戦わなくていい用心棒なんて、もしかしたらとんでもなく楽な仕事を見つけたかもしれないな。
「はい」
俺は建物から出るチャドの後に続いた。
屋敷からは馬車で移動だ。
馬車の中にはバーナードとチャドが乗り、俺は馬の手綱を握っている御者と呼ばれる人の隣に座る予定だったが、馬が異様に怖がるので、走ってついて行くことになった。
町中を10分ほど移動すると、馬車は大きな屋敷の前に止まった。
「おいおい、君はホントに走ってついて来たんだね」
バーナードが馬車から降り、俺の姿を見て少し嬉しそうに言った。
バーナードは俺の想像と違っていた。
商人と聞いていたので、太った欲深い人物をイメージしていたのだが、やり手の起業家のような人物だった。
中折れハットやスーツに近いフォーマルな服装を、お洒落に着こなしている。
「奴が、『走るので大丈夫』と言ったときは、私も驚きましたが。ちょっと目立ってしまったところは申し訳ございませんでした。」
先に馬車から降りていたチャドが言った。
馬車は思ったより速く走らなかった。
人間の全速力ぐらいの速度で走っていたので、疲れを知らない俺には、ついて行くのはどうってことなかった。
ただ、チャドが言うように、巨体で恐ろしい外見の俺が、町の道路を馬車と一緒に走っていたので、目立たないわけがない。
目的地を先に聞いておいて、人が少ない道から行けば良かったと後悔した。
「はっはっは。よい! 逆に宣伝になって効果的だ」
「バーナード様がそう仰るなら」
チャドが頭を下げた。
屋敷に入ると、交渉相手と思われる男が、大きなソファに座り待ち構えていた。
「やっと来たなバーナード。まあ座れや」
随分とガラの悪い男だ。
脚をテーブルの上にあげ、両手をソファの背に乗せ、ふんぞり返っている。
後ろに立っているのは、チャドと同じような体格の人間の男と、獣人の男が一人、向こうの用心棒なのだろう。
どちらもレベル27だった。
「いやあ、ご無沙汰ですね、ダグラスさん。時間がとれず、なかなか伺えなくて申し訳ない」
バーナードは言葉尻と違い、あまり申し訳なさそうな言い方ではなかった。
「御託はいい、早速この前の話、と言いたいところだが。なんだ、その後ろの奴は? まさか魔族を雇ったって言うんじゃないだろうな?」
ダグラスがこちらに視線を向ける。
「まさかそんなこと。彼は世にも珍しいハーフ魔族ですよ。しかも上級種の」
バーナードが勝手に上級種を付け足した。
「上級魔族のハーフだと?」
ダグラスの表情が引きつっているのが分かる。
「ええ、ハーフと言っても上級種ですからね。その辺の戦士が束になっても勝てませんよ」
バーナードがダグラスを脅しているように見える。
どうやら、これが俺の使い方のようだ。
「……まあいい。で、この前の話は決めたか?」
ダグラスは軽く舌打ちをすると、話を戻した。
「もちろん、お断りさせていただきます」
「なんだとぉ!」
バーナードの返答に、ダグラスはテーブルをバンと叩きつけながら立ち上がった。
「お宅さんとは上手くやっていけそうにないので、別々にやらせていただきます」
「バーナードぉ、てめえ、どうなるか分かってて言ってるんだろうな!」
「さあ、どうなるって言うんでしょうね」
「きさまぁ!」
ダグラスの後ろにいた二人が、武器に手を掛けた。
攻撃してきたら、俺はどうすればいいんだ?
「待て!」
ダグラスが二人を制止し、こちらに視線を送る。
「今日のところは無事に帰してやる。だが今の言葉、すぐにでも後悔させてやるぞ」
どうやら俺が抑止力になったようだ。
バーナードはこうなることを分かって、俺を連れてきたのだろう。
「すみませんね、受けた方が後悔しそうなもんで」
バーナードは立ち上がり、帽子を少し浮かせて挨拶をしながら退席した。
今にも飛び掛からんと、刺さるような視線で三人は俺たちを見送った。
「よしよし。君のおかげで交渉がうまくいったよ」
バーナードは帰りの馬車に乗る前に、俺にそう告げた。
どちらかと言うと、うまくいかなかったように見えたのだが、少なくとも思惑通りなのだろう。
「ありがとうございます」
俺は一応お礼を言って、馬車を見送った。これで最初の仕事は完了だ。
帰りは道順が分かりそうなので、馬車に追走せず、普通に歩くことにした。
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