第15話 町に残る理由

 俺を囲んでいる人たちは、怯えているとも怒っているとも感じる表情で、こちらを睨んでいる。


 ステータスを確認すると全員レベル一桁。

 どうみても一般人が、武器を持ってこちらに突き付けている。


「あんた魔族だろ? 魔族がこんな町中に居られると、恐ろしくてゆっくり寝ることもできねえ。出てってくんねえか?」


 俺と同じぐらいの年齢の男が、震えた声で言う。

 決死の覚悟でやってきたのだろう。


 魔族ではなくハーフ魔族なんだが、と言ったところで彼らにはきっと関係ない。

 偏見から来ているのかもしれないが、危険を及ぼすかもしれない者が近くにいたら、今の彼らのように感じるのは当然なのではないか。


 彼らが悪いわけではない。俺の存在そのものが、彼らにそうさせているのだからと、俺は自然に受け入れた。


「すみません、迷惑かけたみたいで」


 俺が立ち上がり、大広場から出ようと歩き出すと、彼らは武器を構えたまま、さっと道を開けた。

 俺は彼らを刺激しないようゆっくり歩きながら、目頭が熱くなるのを覚えた。


 大広場から出て、彼らから見えない距離まで離れると。俺は歩く速度を速めた。

 そして、走り出したい衝動を抑え、冷静さを保つことを心掛けながら、地図を表示させた。


 受付の男は、大広場か川沿いの土手ならと言っていたが、川もクレシャスの中を通っているようだ。

 近くに住宅がありそうなので、大広場の二の舞になりかねない。


 ここは諦めて、町の外で寝るか。


 さすがに町の外なら誰も何も言ってこないだろうし、街道からも離れるようにすればよい。

 俺はそう思い、町の入り口に向かった。


 ところが、町の入り口は閉まっていた。

 夜になると門を閉めてしまうようだ。


「そりゃそうですよね……」


 上を見上げると、高い城壁が目に入る。

 飛び越えてみるか?

 いやそんなことしたら、ジャンプした衝撃で回りが破壊されることもありえる。


 俺は久々にスキルウィンドウを開いてみた。

 時間がある時にでも、どんなスキルが使えるのか確認しようとは思っていたが、あまりにも多くて、見る気が失せていた。


 せめて何順で並んでいるのかが分かれば。


 俺は上から順にスキルの名前を確認していった。

 あいうえお順でもないし、似たようなスキルが固まっているわけでもなさそうだ。

 何の規則性もない中で、数百のスキルから目的のものを探すのは一苦労、どころか面倒くさすぎる。


 よっぽどの事が無い限りスキルを使わないつもりだったが、どうしても城壁の向こうへ行きたかった。

 空を飛んだり、瞬間移動のような魔法でもないか探してみた。


 壁抜け?


 --------------------------------------------

 壁抜け

 壁を通り抜ける能力。

 --------------------------------------------


 読んで字のごとくなスキルがあった。

 もっと探せば空飛ぶ魔法ぐらいあるかもしれないが、もういい。


 俺は城壁に手をついて、魔法を唱えるように声を出した。


「壁抜け」


 …………何も起こらない。

 もう一度言ってみるが、何も起こらない。


 壁抜けの意味が違うのだろうか。

 説明文に魔法とは一言も書いてないので、魔法とは使い方が違うのだろうか。


 さて、どうしたものか。

 そういえば魔法を初めて使ったときは、『神様』の声が聞こえ教えてくれた。

 ここも『神様』に教えてもらいたいところだが。


 『神様』カモーーーン!!







 ダブルタップするのじゃ。


「!?」


 やっぱり聞いてやがった。

 いつかあの髭をむしってやりたいが、今回はまあいい。


 俺は『壁抜け』をダブルタップすると、


 壁抜けを発動しますか?  Yes/No


 と小さいウィンドウで表示が現れた。

 ややこしい仕様になっているが、とりあえずYesをタップすると、ウィンドウが閉じログが流れた。


 --------------------------------------------

 あなたはスキル「壁抜け」を発動させた。

 --------------------------------------------


 これで良さそうだ。

 城壁を触ってみると、腕が素通りするので、そのまま通り抜けて、町の外に出た。


「なかなか便利ですな」


 俺は振り返り、通り抜けてきた城壁を見上げた。


 このまま逃げ出したい気分だ。

 皆に嫌われているし、居ても迷惑を掛けることになるだろう。


 それでも思い留まるのは、明日から仕事が始まるし、何よりディーナのことが気掛かりだ。

 少なくとも彼女をもう少し見届けるまで、ここから離れるわけにはいかないと思った。


「もうちょっと居てみましょうかね」


 俺はそう呟くと、寝床を探すことにした。

 どんなところでも、どんな態勢でも寝られる身体なので、人に見つからなさそうな場所でさえあれば良かった。


 今日は久しぶりに疲れたと感じる日だった。

 身体はチートなハーフ魔族でも、中身は普通の人間だ。精神を休ませる意味でも、寝る必要がありそうだ。


 俺は街道から離れた大きな岩を見つけると、陰に隠れ横になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る