第13話 到着

 クレシャスの町は、俺が想像していたより大きな町だった。


 遠くから見ると、高さ十メートル以上はありそうな城壁に町全体が囲まれていて、町の中央に大きな屋敷がある。庁舎のようなものだろうか。

 中に見える建物の数を見ると、かなりの人が住んでいそうだった。


 町に近づくと、入り口付近に仮設テントのようなものが建てられ、人々が並んでいるのに気づいた。


「ゲオおじさん、あそこにいっぱいいるよ!」

 ディーナが興味を持ったようだ。


 よく見ると、並んでいるのは人間以外の種族が多いようだった。

 ファンタジーの定番、エルフ・ドワーフ・獣人だけでなく、よく分からない種族も見かける。

 ステータスを覗くと、翼人や鬼人と表示されている。


「あなたたちも移住希望ですか?」

 仮設テントから出てきた男が、こちらに近づいて話しかけてきた。


「えっと、この町が人間以外の種族も受け入れてるって聞きまして」

 俺が答えると、その男は一瞬驚いた表情を見せた。


「そ、そうですか……。魔族の方ですか?」


「いえ、俺はハーフ魔族です。こっちがハーフ獣人です」

 俺はディーナを紹介した。


「ハーフ魔族……。聞いたことはないですが……」

 男は少し考えると、

「あちらが移住者用の受付ですので、並んでお待ちください」

 と、仮設テントを指した。


「どうも、ありがとうございます」

 俺は頭を下げた。


「こんにちは!」

 ディーナは笑顔で手を振った。


 男は困惑の表情でこちらを見ている。

 あなたの気持ちは分かります。


 列の最後尾に並ぶと、一斉に視線を向けられた。


「おいおい、あれ魔族じゃないのか?」

「魔族のくせに人間エリアに住み着くつもりか?」

「魔族なんかの近くに住みたくないわ」


 小声で話すのが聞こえてくる。


「こんにちは、ディーナです!」

 周りの雰囲気など関係なく、ディーナは皆に話しかけている。


 俺を見慣れた彼女だ。外見を見て気後れするようなことはない。

 並んでいる間、彼女は順番に挨拶して回っていた。


「ゲオおじさん!」

 ディーナは戻ってくるなり、話しかけた全員の名前を、嬉しそうに俺へ教えてくれた。


「そうですか、皆と知り合えて良かったですね」

「うん!」


 皆、横目でこちらを見ている。

 俺たちの関係を不思議に思っているのが、手に取るように分かった。


「では次の方」


 やっと順番が回ってきた。

 どうやら先ほどの男が受付をしてくれるようだ。


「お待たせしました。お二人のお名前と種族を教えてもらっていいでしょうか?」


「えっと……、ゲオ、ハーフ魔族です」

「ディーナです! 獣人と人間のハーフです!」


「ゲオさんに、ディーナさんですね。この町にお知り合いは?」


「いえ、まったく」


「そうですか。クレシャスはどんな種族の方も受け入れてるだけじゃなく、仕事や住む場所もご紹介しております。お二人にもご紹介するということでよろしいでしょうか?」


「へえ、そうなんですね。ぜひお願いします」


 元の世界でいうと、難民を受け入れてる国みたいなものなのだろう。

 島国の日本にはない寛容さを俺は感じた。


「ハーフ獣人のディーナさんは、住み込みで働けるカフェレストランをご紹介します。ディーナさんは愛嬌がおありのようですし、受け入れ主の希望にピッタリです!」


 カフェレストラン、そんなオシャレな響きのものがあるのか。


「ハーフ魔族のゲオさんは……、仕事は用心棒でどうでしょうか? 商人のバーナードさんがちょうど探しておりまして。ちなみにレベルはいくつですか?」


「レベル? あ、えっと10です」

 500ね。


「10!? 本当にハーフなんですね。普通の魔族がそんな低いわけないですし。ま、その外見なら勤まると思いますので、どうでしょう?」


「そうですね、用心棒でお願いします」


 そういえば職安で仕事を紹介されたときも、言われるがまま受けていたのを思い出した。

 仕事を選ぶような立場じゃないことは分かっていたが、結局合わなくてすぐ辞めることが多かった。


「で、住むところなんですが……」


 資料のようなものをめくりながら、受付の男は言葉に詰まった。


「すみません、ゲオさん。住居はちょっと保留にさせてください。夜までには見つけてきますので」


 男は申し訳なさそうに言った。

 こんな姿の俺を受け入れる場所なんて、見つけるのは難しいのだろう。


「それではこちら、地図と住民章です」


「住民章?」


「はい、これを服に付けておいてもらえれば、町を自由に出入りできます」


 なるほど、通行証みたいなものか。

 ヨーロッパの家紋のようなデザインなんだな。


 俺はじっくり住民章を見ると、働いてお金をもらったら服を買おうと決めた。

 寒さや暑さも感じない身体で着るものなど気にもしなかったが、住民章をパンツに付けて歩くのも気が引けた。


「地図に書いてあるとこに行けばいいんですね? ありがとうございました」


 俺は地図と住民章二つを受け取った。


「お二人とも、良いクレシャス生活を!」


 男は笑顔で見送ってくれた。


「どうも」

「お兄さん、さようなら!」


 俺たちは受付を去り、町の入り口に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る