08.都それぞれ(1)
***
五都の初期ポップ地点は地下で固定されているらしい。この召喚用術式とかいうインテリア破壊の化身を通常の部屋に置く訳にもいかないだろうから、仕方がないけれど。
窓がない部屋を見回す。石造りの頑丈そうで、そして広い部屋だ。天井が低いのが気掛かりではあるが。
「誰か来るのを待った方がいいかな?」
「勝手に地上へ移動しても、何も言われないとは思いますけどね。紅緋サン、そういうのあまり気にしないんで」
「そもそも、都守はちゃんといるの? 黄都はいなかったじゃん」
「いるでしょうね」
薄群青はそう言って肩を竦めた。
更に何事か質問しようとした所で、烏羽がウッキウキの調子で話始めた。
「おやおや、出迎えも無しとは流石細かい事を欠片も気にしない赤都――うん?」
はしゃいだ調子が急に削がれる。どころか、烏羽は珍しく困惑したような表情を浮かべた。途端、響き渡る大きな声。大声で話をしている、という事ではなくシンプルに声が大きい感じの話し方だ。
「やあやあ、よく来たな! 迎えを寄越そうかと思ったが、もう面倒だったので俺が直接出迎えに来てしまった!」
「……え? あ、どうも」
体格が滅茶苦茶良い、というかもう大男。典型的な体育会系の空気を纏っており、人もよさそうだ。燃えるような頭髪を一つにまとめており、同じ色の瞳に褐色の肌。夏のビーチで映えそうな外見である。
勿論――初対面だ。あまりにも馴れ馴れしいので、どこかで会ったかのように錯覚したが全く知らない神使である。
そこでふと気付く。
連れて来た神使達があまりにも静かというか、変な空気である事に。烏羽に至っては若干引いたような顔をしている。
そんな空気などまるで意に介さず、突如現れた神使はあまりにも堂々と名乗った。
「申し遅れたな、俺は紅緋。都守だ!」
「……え?」
「待っていたぞ! 存外すぐにこちらへ足を向けてくれて有難い!」
――いや、ステージボスかもしれない奴が初手で出て来ちゃったよ……!
紅緋本人は歓迎モードではあるし、そこに一点の嘘偽りも無い。思っていたのと大体同じイメージでもある。しかし、こんな序盤で手ずから迎えに来るのは想定外だ。
薄群青達が困惑していたのも、この都守らしからぬ振る舞いにリアクションを取れなかったからだろう。気持ちは分かる。これは偉い人からのサプライズであり、リアクションを間違えると首が飛びかねないという緊張感がある。
「貴方って本当、そういう所ありますよね……。ええ」
「久しぶりだな、烏羽! お前も良き主に巡り合えたようで何よりだ!」
「――なんて?」
「そんな事より、移動しないか? 地下は掃除もあまりしないし、埃っぽいだろう? 我々はともかく、召喚士をそこに置いたままにしておくのは良くない事だ! そうだろう?」
烏羽との会話が成立しているようには見えない。というか、紅緋がどんどん話を進めてしまい、そして後戻りしないようだ。
――どうしよう、撤退した方が良いかな。
紅緋のフレンドリーさや歓迎の意志に嘘は無いが、それにしたって真意が一切読めず得体の知れなさが勝る。
固まっていると、不思議そうな顔をした紅緋に声を掛けられた。陽キャ特有の人見知りをまるでしないその態度、恐すぎる。
「どうした?」
「あ、いや……」
「都守を前にして緊張でもしているのか? 大丈夫だ、俺は烏羽よりもずっと気が長い! それにお前には頼みがある、黒桐」
「わ、私の名前……!?」
「うん? そうだとも。召喚士などたくさんいるからな、誰の事だかもう分からんだろう。であれば、折角名があるのだからそれで呼んだ方が分かりやすい」
――もしかして、初代召喚士ネタを持ってくる気か?
既にストーリー上に初代召喚士という名前が不明の女性が存在している、その事実を遠回しにプレイヤーへ伝えようとする動きに見えてきた。
ともあれ、すぐに襲い掛かってきたり発言の中に嘘がある訳でもない。ここで撤退するのも時間の無駄な気がしてならないので、紅緋に付いて行ってみる事にした。頼みがあるそうだが、内容も普通に気になる。
初代絡みのストーリーが展開されるのかもしれない。
当たりが付けば気が軽くなったので、自然と足取りも軽くなった。紅緋の後に続き、階段を上って1階へ。
「か、風通しが凄い……」
黄都の事務所みたいな依拠、瑠璃の住まう青藍宮と来て赤都は巨大な田舎の祖父母宅のような造りだった。先の2つは気密性の高い、簡単に人が出入りできないような密封された建築物だったが、ここは吹き抜け。あらゆる窓は開けられ、涼しい風が通っている。今にもセミの鳴き声や、川のせせらぎが聞こえてきそうだ。
花実の呟きのような一言を拾った紅緋がはは、と笑う。
「閉め切っているのはどうも好かんからな。ここは俺の家のようなものだし、神使でも民でも好きに出入りすりゃいいさ。どうせ見られて困るような物もない!」
彼からは危険な思想等の匂いがしない。発言にもいちいち引っ掛かるような嘘は無く、現状において態度に裏表があるようにも感じられない。こんなどうでもいい世間話にもあっさり乗ってくれる。
警戒心を徐々に解かれているような気がするが、それは紅緋が意図してそうしているのではなく花実自身が勝手に危険はないと判断させられているような、不可思議な感覚だ。
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