05.社での日常(5)
「――というか、そんな事はどうだって良いのです。ええ、貴方達が初代と呼ぶ彼女についての話題でしたよね?」
話を盛大に逸らされていた烏羽が、意地悪く笑いながら元の話題へと軌道修正する。彼の意図は理解できないながらも、あまりにも底意地の悪そうな態度に花実は小さく溜息を吐いた。絶対に碌な事を言わない。全文嘘ならまだマシだろうが。
もうこれは話を聞いてあげるまで解放されないと悟り、投げやり気味に続きを促した。烏羽との対話は頭から尾まで全て嘘で時間だけがただただ奪われるパターンがあるのは結構しんどい。
「分かった分かった。聞いてるから、早く話して」
「雑過ぎません? もっと親身に聞いて下さいまし! ……まあ、いいでしょう。ええ、ええ、この烏羽が召喚士殿の疑問に誠心誠意お答え致します」
「お願いしまーす」
「よろしい。ええ、何せこの烏羽、そこの薄群青よりも初代殿とは濃密な関係ですので」
「そっかー。それは凄いなー。もう話終わった?」
「召喚士殿、召喚士殿。まだ始まっておりませぬ。ふむ……彼女はそもそも、主神が連れてきた召喚士でした。ええ、確か自身の事を女子大生と言っておりましたね」
――私と同じくらいの歳だったのかな?
召喚士が神使視点で言う所の異世界から連れて来るという設定上、ゲーム内キャラクターの初代召喚士の設定がプレイヤーと近くなるのは当然だろう。特に引っ掛かる点は無いし、嘘を吐いている訳でもないので適度に相槌を打つ。
「じゃあ私と同じくらいの年齢って事になるね」
「ええ。背格好もどことなく似ていますねえ。……性格の方も似て――ないか。ええ。似ている似ていないで思い出しましたが、相性は悪くありませんでした。彼女には適応色など割り当てられていませんが」
自分で話始めておいて、烏羽はやや感傷的な思い出に浸るような表情を浮かべる。話している内に懐かしくなってきたのだろうか。
「私よりハイスペックだったらしいね?」
「――と言うより、貴方程、ぽんこつではありませんでしたねえ。ええ。あまりこういった感情は持たない質なのですが、少しばかり懐かしいですね」
適当に茶化してみたが、勝手に話始めた彼は勝手に上の空である。
――ええー、私より上手くやってたんじゃない、初代。
若干ショックである。チャットでも黒適応は珍しいなどと持ち上げられ、烏羽ともそれなりの期間よろしくやれていたので天狗になっていたとも言える。
しかし、小説にゲーム、アニメそれら全般に言える事ではあるが公式には勝てない。ゲームのカオナシ主人公など最たる例だ。所詮、我々プレイヤーなど後付けの存在なのである。
「ちょっと、召喚士殿! この烏羽の話を聞いておりますか? 適当に聞き流すなど、傷ついてしまいます。ええ」
「……ごめん意識飛んでた。で?」
「何たる不遜な態度! このように扱われるなど、耐えられません」
「はいはい。他に情報は無いの? 黒檀が言ってたセリフからこの話題に派生したんだから、烏羽も何か知ってるんじゃないの?」
ふむ、と神妙そうな顔だけはしてみせる烏羽。なお、感情と表情は一致していないようだ。嘘である。
それを見てハラハラしている様子の薄群青にこっそり教えてあげたい。シリアスぶってるだけだよ、この神使はと。
たっぷり悩むふりだけして見せた烏羽が、ややあって口を開く。
「この烏羽を以てしても、奴の話には心当たりがありませぬ。ええ、お力になれず申し訳ない」
「じゃあ、この話は終わりだね」
「……そうですか。ええ、そうですか」
――勿論、烏羽の言葉は大嘘だった。事情を知っているのだろう。
ただもうこの地雷を突きたくなかったし、初代と烏羽の関係性など正直あまり聞きたくない。この性格が終わってる都守の主人をやれるのは私だけ、感が薄くなりそう。ゲーム相手に何を言っているのかという話だが。
「怒ってます?」
「はい? いや怒ってないけど」
「それにしてはいつもより私の扱いが雑では!? 機嫌を直して下さいまし。ええ」
「いや……ああそうだ、次は赤都らしいよ」
いなすのが面倒くさくなってきたので適当に話題を変える。途端、わざとらしく烏羽がそれに飛びついた。
「ほう、赤都。このたいみんぐで! ええ、良いではありませぬか。どういうつもりの行先なのかは分かりかねますが」
「そんなのこっちが聞きたいよ」
「早速向かいましょう。ええ、流石に最近は退屈が過ぎます」
「現金過ぎない? ま、いいや。紫黒達にも伝えないといけないし、私も社の散歩中だから一時待ってて」
「ええ!? 貴方が手ずから伝言に? そのような事は薄群青にやらせればいいではありませんか」
「コミュニケーションは大事だから、私が行くの」
どれだけ早く次のステージに挑みたいのか。伸びて来た烏羽の手を避ける。
なおも騒いでいた奴を完全に無視し、特にあてもないが歩き始めた。
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