38.薄花からのお願い(3)
***
――ええー、ヤバい事態になってる!!
薄花の回想を聞かされた花実は心中で叫んだ。混乱するこちらをよそに、薄花は真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。
「召喚士様。早く逃げて。でも――もし、烏羽を意のままに操る力が貴方にあるのならば。瑠璃様を助けて欲しい……!!」
「……」
その烏羽は恐らく、召喚した烏羽ではなくストーリー上に存在している方の烏羽だ。このゲームは召喚できる味方が敵として現れる現象が容認されている以上、そういった事も起こりうる。
既に紫黒で体験済みだ。
――いや……どうして黒神使はそもそもガチャで引き当てる事ができるんだろ……。
前々から薄ら思っていた疑問が、輪郭を帯びる。そうだ。チュートリアルの時から何かが可笑しいとは思っていた。
そんなに黒神使もプレイアブル化したいのであれば、二章を作成するなりなんなりして仲間になる展開を作ればよかったのだ。
けれど現状では召喚された個体と、ストーリーにいる個体は別物だという無理矢理な説明がされている。後で整合性を取るのか、それともソーシャルゲームだからというメタ的な理由で放置されるのか。
「――うちの烏羽を捜そう。同じ烏羽なら勝負になるかも」
困惑する薄花を置き去りに、紫黒がおずおずとその案を否定する。
「召喚士様。こちらの大兄様は全ての能力が解放されていないわ。あちらの大兄様は当然フルパワーよ。勝てる見込みはあまりないわ」
「え、でも、みんなで掛かったらワンチャンあったりしない?」
しない、とこれまたきっぱりそう言い放つのは薄墨だ。小さな頭を勢いよく横に振り、花実の案が無謀であると進言する。
「無理……。少しの、間すら足止めできないと思う。召喚士様、が、見ている彼の者は……手の内を全て明かしている、わけじゃないから」
黒勢が強く反対している。
誰も嘘は言っていないので、事実その通りなのだろう。しかしここで簡単に瑠璃を見捨てる訳にもいかないはずだ。都守というのが死亡すれば、青都は陥落するのではなかったのか。
薄花に何と伝えようか考えていると、その沈黙を破ったのは薄群青だった。
「――瑠璃様は諦めましょ。無理ッス。それより、うちの烏羽サンを回収して社に戻るのが賢明じゃないスかね」
「……いやなんか、随分とあっさりしてるね? 薄群青」
「瑠璃様も勿論大事なんですけど、主神代理の主サンの方が優先順位は上ッスわ。それに……ここで助かっても、意味なんてないんスよ」
このあんまりな言いように薄花の様子を伺う。彼女は瑠璃を敬愛しているようだったし、憤慨するのではないだろうか。
が、やはり彼等は人間とは異なる生命体らしい。薄群青の言葉に対し、沈痛な面持ちの彼女は同意らしき言葉を絞り出した。
「烏羽が二人いるというのは突っ込まないでおこう。話を聞く限り汚泥の模倣という可能性もある。それに、貴方といた烏羽と、先程対峙した烏羽は――まるで別個体のようだったのも事実だからね」
「そうなんだ。いや、直接会ってないから分からないけれど……」
「召喚士様が飼っている烏を救出し、そして社へ送り返すのが僕の最後のお勤めみたいだね。縁があれば召喚してくれ。それじゃあ、作戦はどうする?」
すみません、と藤黄が口を開いた。
「召喚士様。フレンド召喚はまだお持ちですか?」
「持ってるよ」
「誰を連れていますか?」
「月白だね。いやー、役立ちそう!」
それはいい、と彼は安堵したように微かな笑みを浮かべる。
「であれば社の烏羽さんではなく、敵対している烏羽さんに出会った時は月白さんの力を借りて時間を稼いでもらいましょう。恐らくですが、彼等が戦って決着する事はありません。膠着状態にはできますが」
「フレンド召喚には時間制限があるから、その間に烏羽を見つけてトンズラ、ってわけね」
「はい」
作戦――というか、道中で敵対・烏羽に出会った時の取り決めをし、後は突っ込むだけだ。あまり制度は高くないようだが、紫黒に神使の居場所を洗ってもらう。
最悪のケースは烏羽と烏羽が出会ってしまう事だが、未開放能力があるとはいえそう簡単に消滅させられないだろうというのが総意だ。あの烏羽がわざわざ勝てない相手に粘るとも思えないし、どうにか生存の為力を尽くすだろう。
「――よし、それじゃあ烏羽救出作戦、始めよう!」
先程の盛り上がりから一変、静かなテンションで作戦が開始された。烏羽の人望の無さに涙を禁じ得ない。
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