23.瑠璃からの用事(3)
「――烏羽は刈安の消滅とは関係なさそうですけど。思えば確かに刈安の存在すら知らなかったでしょうし」
というか、結界の揺らぎ云々のフラグも挟んだ事だし、外から入って来たのではないだろうか。尤も、そうであれば味方の中に無自覚な裏切り者、もとい洗脳済みの神使がいるかもしれないけれど。
その場合だと怪しくなってくるのは薄花か。このメンツの中で最もそういった術が掛けやすいのは戦闘面で劣る薄色シリーズである。
雑な花実の擁護に対し、瑠璃は分かりやすく眉間に皺を寄せた。整った顔立ちは僅かな表情の変化をもくっきりと写し出すものだからだ。
「そうは言うけれど、刈安が勝手に消滅するはずもないわ。そんな不具合、わたくし達が完成するまでに主神が気付いて潰しているはずだもの」
「おやおや、とんだ買い被りではありませんか? ええ、我々黒を生み出すような主神ですよ? そのような設計の失敗もあり得るのでは?」
「あら。珍しく説得力のある言葉ね、烏羽」
都守達は睨み合っている。階級が同じというだけあって、烏羽を恐れない瑠璃の姿勢は争いをむしろ助長させるようだ。
ここでそれまで黙っていた薄群青が落としどころと言わんばかりに提案を口にした。
「――瑠璃様。埒が明かないと思うので諸々の調査を開始した方がいいんじゃないスか? 現状、誰の意見にも根拠がないッス」
「薄群青。貴方、誰の味方なのかしら?」
「そりゃ勿論、俺はいつだって主サンの味方ッスよ。この場で一番発言権が強いのは、主神代理の主サンだし」
――え? ごめんちょっと待ってね。私の味方がバリバリの嘘なんだけど?
思わず問い詰めそうになったのをそっと押し込む。ただ正直、イベントの進行より薄群青のスタンスが気になって仕方がない。君はいったい誰の味方なんだ、本当。
「主サン? そういう事なんで……って、俺の事を滅茶苦茶見てきて、何なんスか」
「あ、いや、えっと、何でもない……」
「嘘くさいな……」
――いや、嘘吐いてんのはそっち!
このタイミングとセリフ内の嘘はあまりにも不穏過ぎる。ただ突き方が分からず、花実一人だけがやきもきしている状態だ。
結局、場を取り持ったのはつい先程まで烏羽と剣かしていた瑠璃だった。
「……ともかく代理であられる召喚士様をあまり疑って掛かるものではないわね。それに、召喚士の事はあまり疑っていないのよ、わたくしも。代理だし……そうであっても、人の子である事に変わりは無し。人間がわたくし達の数を減らしても、然したる利にはならないわ」
「はは。されど人間でもありますぞ、瑠璃殿。何を考えているかなど、我々にはとんと理解できないでしょう。おお、恐い恐い……」
「理解できなのは貴方よ、烏羽。どういう方向に話を持って行きたいの? 息をするように矛盾するのはお止めなさい。場が混乱するだけだわ」
流石に烏羽に構うのも馬鹿らしくなったのか、仕切り直すように小さく咳払いした瑠璃が本題へと戻る。
「わたくし達、青の神使を除いて昨日何をしていたか聞くわ。調査への協力だと思って、出来る限り正確な情報を教えて頂戴。夕方以降で良いわ。何せ、藤黄が刈安と別れるまでは刈安は生存していたのだから」
「……藤黄、昨日って何時くらいに刈安と別れたの?」
花実の問いに一つ頷いた藤黄は問いに対しすぐさま回答を寄越した。
「主様の時間になおしますと、17時過ぎに刈安とは別れ、僕は部屋へ戻りましたね。これに関しては浅葱さんから部屋にまで送って貰ったので僕は疑いの対象から外れるかと」
「それは本当かしら? 浅葱」
藤黄の証言を聞いた浅葱がはっきりと頷き、補足の説明を入れる。
「はい。間違いありません、瑠璃様。刈安殿の部屋から一度も離れることなく、藤黄殿をお送りしました。この間に刈安に何かするのは難しいでしょう。また、僕はその後、客室付近に留まっていましたが藤黄殿とはお会いしていないので、部屋からは出ていないかと思われます」
浅葱の言葉には一片の嘘もない。認識違いは特技で見破れないが、少なくとも彼に人を欺こうという気が無いのは確かだ。
淀みなく答えた浅葱に、瑠璃がゆるりと首を縦に振った。
「ならば、藤黄は暫定、裏切り者ではないとするわ。召喚士様はどうかしら? 失礼だけれど、念の為」
「私は部屋にいましたよ。サービス……というか、えーっと、私も浅葱と話をしたはずです」
サービスに代わる単語が見つからず、浅葱に助けを求める。彼は恐らく昨日の夜は客室付近にずっといただろうからだ。
正しくプレイヤーの意図を読み取った浅葱は、花実を安心させるかのように微笑んだ。
「ええ。召喚士様に温かいお茶を運びました。その後、出て行く姿は見ておりませんので、可能性としてはかなり薄いですね。というか、戦闘に向かない黄とはいえど召喚の力以外は人間である召喚士様に、刈安をどうこう出来る力はないかと」
「それもそうね。ただまあ、公平を期して一応聞いただけよ。最初からその可能性は考えていないわ」
そりゃそうだ。刈安に殴り掛かった所で返り討ちだ。というか、返り討ちで済めばいい方である。
「薄群青は除外して……いや、考えてみれば簡単な話ね。浅葱。昨日、部屋にいなかったのは誰?」
面倒になったのであろう瑠璃の問いに、やはり浅葱は爽やかに答えた。当然、都守という上司に逆らうはずもない。
「――確認ができなかったのは烏羽殿、紫黒殿、薄墨殿ですね。猩々緋殿は客室に部屋が無いので分かりませんが」
――駄目だ! アリバイなしが凄く、凄く黒い!
花実は内心で頭を抱えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます