19.青都勤務の皆さま(2)
***
白練に連れられて宮内を歩く事数分。
気付けば少しばかり見覚えのある風景に様変わりしていた。ここは瑠璃の執務室近辺だったはずだ。しかし、大きな建物とはそれだけで巨大迷路の様相を成してしまうものである。
――2人組……。
廊下の先に男女が立っているのがはっきりと見て取れる。彼等は風体や色合いからして青系の神使のようだ。分かりやすくて助かる。
そんな花実の予想は大当たりだった。白練が大きく手を振って、やはり大きな声で両者に話しかける。
「浅葱! 薄花! 召喚士様をお連れしたぞ!」
「そんなに大きな声で叫ばなくても聞こえているけど」
ややぶっきらぼうにそう言ったのは女性――というか、少女姿の神使だ。外見の年齢からしてこちらが薄花だろう。薄色シリーズは少年少女しかいないようだし。
そんな彼女は名前とは裏腹に深い青のような色合いを湛えている。薄桜よりもすらりとして高めの身長に少女らしからぬ落ち着いた態度が印象的だ。長い髪を編み込んでおり、瑠璃と同様にお洒落さが垣間見えている。
一方で消去法的に浅葱であろう青年紳士は久しぶりの女性人気が高そうな、はっきり分かりやすい甘いマスクの整った顔立ちだ。柔和そうな雰囲気に加え、爽やかさや清潔さを兼ね備えているのも好印象である。
「こんにちは、召喚士様。ああ、そうだ。僕は浅葱。そちらは薄花だよ、聞いているのかもしれないけれど念の為、ね」
「どうも……」
――駄目だ、陽キャっぽいパワーに圧し負けそう!!
日常生活でこんなに整った顔の人間と話す事などそうそうないので変に緊張してしまう。とはいえ、神使など基本的には顔に無駄なパーツが無い集団なので美醜の感覚が狂いそうになるのだが。
何というか、烏羽のいい加減な雰囲気は遠慮を遠ざけるが、浅葱や薄花の精錬とした気配は配慮を覚えさせられるというか。そのような心持になるのである。
「ところで、僕達に何か用事だろうか? 基本的には瑠璃様の護衛をしているけれど、召喚士様がお困りであると言うのならば勿論手を貸すよ」
「違うぞ、浅葱! 召喚士様は宮内の神使と顔合わせをされるとの事だ!」
「え、そうなの? こっちから会いに行った方がよかったかな。不敬だね、こういうの」
ふん、と話を聞いていた薄花が鼻を鳴らした。
「考えが及ばなかった僕達も悪いが、召喚士様の方を動かそうとする白練にも問題があると思うね。部屋でお待ち頂くべきだったんじゃないかい」
――僕っ子! いそうでいなかった属性がここにきて……。
あらゆるキャラクターを網羅するのはソーシャルゲームの、というかガチャの逃れられぬ運命のようなものだ。ここでぶち込んでくるのね、という感想が脳裏を過ぎる。
「それもそうだ! 召喚士様、客室で休まれますか? あと紹介しなければならない神使が1人おりますが!!」
いやいい、と花実は首を横に振った。
「歩いて行った方が早いし、もうあと一人なんだよね? 散歩がてら自分の足で行くから気にしないで良いよ……。というか、青都はこう、サービスが凄いね……。今までにないくらい、丁寧に扱われてるよ」
花実の言葉に対し、薄花が肩を竦めて首を横に振る。
「それは黒神使ばかりでは、そうもなるよ。連中は主神の命令をきかないからね。むしろ召喚士様への反発が、転じて主神への反発になるという訳さ」
この言に対し、それまで黙っていた薄墨が眉間に皺を寄せて抗議の声を上げた。
「そんな、事は無い。わたしたちは、なんでも、主神に反発している訳じゃ……ないから。気に食わない事、だけだから」
「うん、もうそれがちゃんちゃら可笑しい話なのだけれど。まあいいや、色ごとに文字通り特色があるという事で。だから召喚士様。僕達、青は従順さ。我々は主神から生み出され、世界の調和を保つ者。貴方の協力には感謝している」
そう言って薄花は微笑んだ。成程確かに、黒と比べて非常に愛想がいい。一見するとぶっきらぼうにも見える彼女でさえ、愛嬌というものがあるように見受けられる。
「召喚士様」
続いて浅葱が口を開く。
「僕達は基本的に、瑠璃様のお傍にいるから。何かあったら言ってね。客人を持成すのも、僕達の仕事だから」
「ああ、どうも。よろしく」
親切心の塊だ。言動に嘘は無い。
考えてみれば薄群青もサポートは十全だったし、青系統は尽くしてくれる系という事なのだろうか? 黄の神使達は職人感が強いし、性格が偏り過ぎている職場だ。
「それでは召喚士様! 次へ参りましょう!」
「あとは誰に会っていないのかな?」
浅葱の問いに白練が大声で応じる。
「猩々緋だな!」
「ああ。彼なら、中庭付近で見掛けたよ。鍛錬帰りのようだったから、もう移動してしまったと思うけれど」
「承知。まあ、奴は行動範囲が分かりやすいからすぐに見つかるだろう! それでは召喚士様、こちらです!!」
「あ、うん」
――猩々緋……名前的に赤っぽい気がする。もし赤であれば、久しぶりの赤系統という事になるのだが、さてどのようなものか。
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