18.青都勤務の皆さま(1)
***
藤黄&刈安と別れ、宮内の廊下を歩く。
今は薄墨、白練と一緒にいるが相も変わらず白練は暑苦しいままだ。用事は済んだのだが、いつまで同行する気なのだろうか。
もう行ってどうぞ、と言う訳にもいかず掛ける言葉を考えていると、意外にも最初に沈黙を破ったのは薄墨だった。ぽつりぽつりと独特のテンポで言葉を放つ。
「主様は、急に神使を2体も召喚して大変、そうだったけれど……。黄色が1体でもいて、結果的には良かったのかも」
「それは確かにそう」
「青都の黄は……たぶん、他色に情報共有、しないと思うから」
「え、マジか。難易度変わるじゃん」
小さく頷く薄墨を他所にここぞとばかりに楽し気な調子で会話に加わってくるのは白練だ。ノリがあまりにも良過ぎる。
「神使は色ごとに大まかな性格の方向性がありますが、黄色は刈安みたいなのが多いですね!」
「そうかな? 藤黄も山吹もあんな感じじゃないけど」
「いえいえ! 表立ってそういう態度を取らないだけですよ召喚士様! 連中は先天的に自分の持ち場を荒らされるのを嫌いますから! 現に、召喚士様がいらっしゃる社で、藤黄が何をしているかなど知らないでしょう?」
――確かにそうかもしれない。
不意に気付く。ただし、プレイヤーがログインしていない間にも神使が何かをしているかと言われれば、そうなのか疑いざるを得ない。彼等には当然生活の痕跡などないし、唯一見ていない間にも進行しているのは結晶の精製くらいなものだ。
そして意外な事に白練の意見に対し、薄墨も肯定的な反応を見せた。
「藤黄は教えてくれないかもしれないけれど、何をしているのか、主様も……把握した方がいいんじゃない? 山吹みたいに、どこかと、連絡を取る手段を持っている、かもしれない」
「誰と連絡取るの? ああ、山吹と?」
「分からない」
薄墨の言葉に嘘はない。けれど、藤黄の存在に対し何か引っ掛かっている様子が見受けられるのもまた確かだ。
「だいたい、主様……黄色神使の召喚、チケットって……何? 誰がそんなものを、簡単に発行できるのか、わたしには分からない」
「誰って……運営じゃないの?」
「運営、誰がわたしたちの事、運営しているの? 主神は……いないのに」
――ゲーム内のキャラクターがそういう矛盾を突いたら駄目なんじゃないかな……。
そう思ったし、何だかこれ以上踏み込んではいけないような気がする。何かとても怖い現象が目の前で起きているような気がして、発するべき言葉が見つからないのだ。
しかし、薄墨の思考もそこで行き止まりだったらしい。小さな頭を小さく振った彼女は、やがて観念したかのようにポツリと言葉を漏らした。
「黒は、いつだって重要な、事……を教えてもらえない。でも、大兄様なら、きっと何かを知っていると思う」
「そ、そうかな? 聞いたら教えてくれると思う?」
「分からない。大兄様は、誰の味方でもなくて……自分自身の味方だから」
「あー、気分次第かな?」
「そう」
――うーん、覚えてたら聞いてみようかな。
ただあまり気乗りしない。メタ的な話題というのもそうだが、何か越えてはいけない境界線の上に立っている、そんな気がしてならないからだ。
そうだ、と言葉が途切れたタイミングを一応は見計らってか白練が明るい声を上げた。彼だけがこの場で唯一、常に輝かんばかりのエネルギーを放っている。元気だから良いというものではないけれど。
「召喚士様はもう宮の神使には全て会われましたか!? まだでしたら、自分が案内します!」
「どうだろう……。瑠璃御前と白群には会ったかな。あ、あと刈安さん」
「まだ会っていない神使がいますね!」
案内を頼むべきか一瞬だけ考える。白練のテンションにメンタルが悲鳴を上げているからだ。が、今回もどうやらバカンス回ではないらしいので早期に情報を集めておくのも手間が省けていいかもしれない。
どうせ、青都勤務の黒神使がやらかすのだろうが、その黒に操られていたりと他にも物騒な神使がいるかもしれない。会っておいて損はないだろう。
「……えーっと、じゃあ、お願いしようかな」
「正気? 主様」
薄墨の視線が突き刺さる。明らかに棘のある言葉だったのにも関わらず、全くダメージを受けている様子の無い白練は大きく頷いて自らの胸を自らの拳で叩いた。
「お任せ下さい! さあ、まずはこちらです。もうすぐ、瑠璃様の執務室があるのですがその近辺に護衛の青神使2人がいるはずですから!」
「わあ、驚きのやる気……。どこからそのやる気は湧いて出てくるんだろう……」
「無論、我等の為に働かれる召喚士様のお役に立ちたいからです!」
「……あ、そう……」
やはり白神使、分かり合えない。エネルギッシュなのは結構だが、原動力が謎過ぎて裏があるのか勘ぐってしまう。だが、花実自身の知見によると彼は嘘を吐いておらず、脳がバグるような心地だ。そこは嘘であってくれ。無償で働こうとする人間は――白練は人間ではないのだが――色々と怪しいので、素直に怪しくあってほしい。
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