17.宮内の探索と人捜し(4)

「――召喚士様ッ! ここです!」

「しーっ! 声が大きい! 会う前から不機嫌にさせちゃったらどうするの!?」


 黄神使・刈安の部屋に辿り着いた事を大声で伝える白練に対し、花実は目を怒らせてそう窘めた。何もしてないのに不機嫌な頑固爺系の性格と、ふらふらしている大学生なりかけの自分では相性が悪いとよくよく理解していたのである。

 目をパチパチと瞬きし困惑している様子の白練をよそに、一連の流れをまんじりともせず見ていた薄墨が肩を竦めた。


「主様も、結構うるさい……」

「ごめん、つい……」


 全く空気の読めない白練が再び声を発する。


「召喚士様。戸如き、この俺が開けますよ!」

「いやいや、戸如きなんだからそんなお気遣いなく」


 ――が、この神使本当に話を聞かない。絶対に地雷であろう元気一杯の声で中に声を掛けた挙句、返事を待たずして戸をオープン。これには流石の花実も閉口した。言葉が見つからなかったのだ。


「刈安殿! 召喚士様をお連れしたぞ!!」

「あかん、印象は最悪だよコレ……!!」


 成程、適応色とはこういう事か。黒系神使も大概性格に難があるが、白系は性格に問題があるとか無いとかではなくシンプルに合わなさそうだ。話を全く聞かない所もそうだし、何より嘘も何も無くて逆に人間味を感じないのも減点ポイントである。

 俗世から切り離された崇高な存在、と言えばそれが近いのだろうか。思えば白菫も白花もどこか人間離れしたイメージが最後まで拭えなかった。


 などと現実逃避している場合ではない。存外と静かに――恐らくは藤黄が捜していたであろう神使、刈安がぬっと姿を現す。

 それは老齢の男性だった。眉間には渓谷のように深い皺が刻まれ、機嫌が最悪そうな顔つき。どこをどう取っても、どうしても苦手な部類の相手だった。表面上は穏やかに見える烏羽の方がマシまである。


 やがて、最初に口を開いたのは不機嫌そうな刈安その人だった。


「――うるせーぞ、白練の小僧。俺が良いって言うまで勝手に開けるな、馬鹿たれが」


 ――ああー! 田舎のおじいちゃんの友達感!! でもうちのおじいちゃんも、孫以外にはこんな態度取ってそう!!

 ゲーム内で現実起因の既視感を覚えてしまい、内心で項垂れる。急に現実を思い出させるのは止めて頂きたい。単純にテンションが下がる。


 対してきっとメンタルが鋼で出来ているのであろう白練は全く変わらない態度で、状況を全く同じように説明した。


「刈安殿! 召喚士様がお見えだぞ!」

「聞こえてたわ、馬鹿にしてんのか。で? 何の用――ああいや、用があるのは藤黄だろ? 報連相ヘタクソが」

「そういえば、そうだったかもしれない! 失敬失敬」


 呼ばれた藤黄が一歩だけ進み出る。意外にもオドオドとしている様子はなく、少なくとも白練と相対した時よりは落ち着いている様子だ。


「お久しぶりです、刈安さん。えーと、僕は……まあ、色々と話を聞きに」

「お前も説明がヘタクソじゃねーか。しっかりしろ、どいつもこいつも。ったく……。で? 召喚士様は他に用事があんのかい?」


 急に話を振られた。普通に緊張する類の相手なので、花実は慎重に言葉を選び返事をする。


「いえ……。藤黄の付き添いで……」

「そうかい。悪かったな、うちのが面倒を掛けて。そんじゃ、藤黄だけ置いて青都にでも繰り出してな。俺はこいつに共有しなきゃならない情報がある」


 ここで不思議そうな顔をしたのは藤黄だった。今まではその藤黄が一方的に用事があるだけだったが、どうやら刈安も藤黄に伝えるべき事があるらしい。


「え、それはどんな情報ですかね……。専門的な話は要らないんで、えー、我が主にも教えておいて欲しいのですが」

「ふん、それもそうか。ま、俺に何かあった時の為の保険と思って教えておくか」


 納得した様子の刈安は至って事務的に事の経緯を述べた。


「ここ、青都にも当然結界が張ってあるんだがよ、数日前にその結界に揺らぎが発生した。そんで、現地に様子を見に行った白群が結果を報告したんだが「特に何も無かった」らしくてな。まあ、勿論そんなはずはねーから調査中ってだけの話さ」


 心中で納得する。

 どうやらリゾート地扱いの青都でもバカンス回などは存在しないらしい。当然か。何せ終末系RPGだ。バカンスなどとお花畑全開の話をしている訳にはいかないだろう。


 渋い顔をした藤黄が、神妙そうな表情に移り変わる。


「――それは……もっと詳しく、話を聞きたいですね」

「だからそう言ってんだろ。しかしつまんねー話さ。召喚士様は人間、それも随分とお若そうじゃねぇか。お外で遊んでていいぜ、どうせ聞いてたって分かりゃしないからな」


 それもそうだ。輪力だの結界だのの話をされても、現実を生きるプレイヤーにはあまり関係が無いので覚えられる気がしない。恐らくは後程、藤黄が簡単に説明してくれる事だろう。しかし、このエピソードにまで至ったプレイヤーで黄神使を持っていなかった場合はどうなるのだろうか。今は全員に一人配布されているが、他色の神使が代わりに説明をするのだろうか? もしくは、刈安が簡単に説明するとか?

 このゲーム細かいところにも話の分岐がありそうだ。

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