16.宮内の探索と人捜し(3)

 ***


 15分くらい宮内を彷徨っただろうか。

 不意に背後から大声で呼ばれた。


「召喚士様!」

「……え? いや誰?」

「そう! 俺です!!」


 ――ヤバい神使出て来ちゃったな……。本当に誰? 存じ上げないんだよなあ。

 まずそもそも頭髪は限りなく白に近い、男性の神使。白系の神使とはほぼ縁が無いので、当然目の前の彼の事など全く知らない。会った事もないと断言できる。

 正義感に満ち溢れていそうな彼は、ようやっと名乗りを上げた。


「青都にてお勤め中の白練です、召喚士様!」

「うーん、間違いなく初対面! 何で我が物顔で出て来られたのかな、この人……」


 本当に初対面だった。会った事があるのに忘却していた、という訳ではなかった模様。それならそうと言ってくれ、こっちがおかしいのかと思ってしまうではないか。

 そして彼、デフォルトで声が大きい。何だか黄都での白菫を思い出すが、白男性神使は全員こんななのか? フレンド召喚で会った月白や、黄都の白花はそうでもなかったので余計に疑問だ。


 が、当然そんな疑問に答えをくれる訳でもなくあくまでマイペースに白練は話を続ける。


「先程からずっと宮内をぐるぐると散策されているようですが! 何か困り事でもあるのでしょうか? 自分が解決してみせましょう!」

「主様……うるさいし、無視、した方がいいと思う」


 明らかに嫌そうな顔をする薄墨。やはり白黒は天敵同士なのだろうか。露骨な態度に驚きを隠せない。

 ただ一方で白黒の確執など一切関係ない藤黄は、薄墨の言葉に対してすかさず反論した。


「いえ、主様。多少煩いですが、この人に黄神使の事を聞いてみましょう。……青都勤めらしいですし」


 ――もうそんなの、自分で聞け。

 そう思わなくもないが深刻な人見知りらしいので、どうするべきか花実は逡巡した。が、考えるまでもなく藤黄の意見を採用するべきだと思い至る。よくよく考えてみたら、薄墨の意見は感情論でしかなかったからだ。


「仕方ない、この神使に聞いてみようか。藤黄」

「ああ、良かった……。まだこの広すぎる青藍宮を歩かされるのかと思いました」


 安堵する藤黄。肩を竦めて「まあそうなるよね」、という態度の薄墨と場は混迷を極めている。


「えーっと、名前は白練だったっけ? ちょっと聞きたい事があるんだけど、いいかな」

「勿論にございます! 何なりとお申し付け下さい!」

「うわ、思ってたやつの倍は暑苦しい……。えーっと、青都にいる黄色神使を捜しているんだけど、どこにいるか知らないかな?」


 白練は人の良さそうな、満面の笑みを浮かべて大きく頷いた。リアクションまで大きいのは予想の範疇だったので驚きはない。


「知っていますよ! この白練が、責任をもって召喚士様を案内しましょう! さあ! こっちですッ!!」


 基本的にローテンションなメンバーで構成されている弊社だが、そのローテンションメンバーの中にはプレイヤーである花実も含まれる。休みの日に一日中ゲームをしている時点でお察しの通りだが、陽キャの空気には当然付いていけないものだ。

 既に精神に多大な疲労を覚えつつ、元気を軒並み吸い取られた花実は首を縦に振ってお願いの意を示した。この大声に張り合って自分まで大声を出していては身が持たないと敏感に感じ取ったのだ。


 心なしか、藤黄と薄墨にも疲れが見える。早急に黄神使の所にまで案内して貰い、解散する他無いようだ。


「こちらですよ、召喚士様!」

「ああ、うん……。ありがとう、よろしく」

「勿体なきお言葉!!」

「え? もしかしてこのままずーっとそのテンションなの? ええー、つ、疲れるー……」


 案内を始めれば少しは落ち着くかと思われた白練だったが、全然そんな事は無かった。このテンションのまま、タクシーの運ちゃんくらいの頻度で口を開き始める。


「召喚士様は刈安に何のご用事で?」

「刈安?」

「青都に駐屯している、黄神使の名前です!」


 ――刈安、って言うのか……。あー、チケットの名簿にいた気もするし、いなかった気もする。まあ名前も覚えてなかったから、顔も覚えてないや。

 その程度の花実に対し、藤黄は苦笑した。


「刈安さんか……」

「何その反応。え? 何かあるの?」

「ちょっと頑固な所があって……。職人気質ってやつでしょうか」


 ――マズイ、苦手なタイプかもしれない。

 リアルにいるとあんまり話が合わない性格のようだ。とはいえ、これはゲーム。現実でなければ上手くやれるかもしれない。


「という事はつまり、召喚士様ではなくそちらの神使が、刈安に用事があるという事ですね!」

「あ……。うん、そうだね」


 藤黄と会話を挟んでしまったせいで、白練に聞かれていた事を答え忘れていた。失礼な態度だ、気を付けなければ。


「それならば問題ないかと思いますが、一応部屋に付く前にこの白練から忠告を! 刈安の部屋にある物は勝手に触らない方がいいですよ! 信じられないくらい怒り狂うので!!」

「うわあ……。そういう感じなのかあ……」


 刈安とは顔合わせだけして、藤黄を置き去りに逃亡しよう。花実は固く心に誓った。

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