14.宮内の探索と人捜し(1)
***
「高級リゾートのお高いホテルみたいだなあ・・・・・・」
自室に一人きりとなった花実はポツリとそう呟いた。格式高い和風旅館のようでもあり、リゾート地にドンと建っていそうなただならぬ強者感も覚える程だ。
それにしても、このゲーム技術をゲーム以外にも活かせないものか。このご時世だし、VR旅行とか流行っても良さそうなものだ。このゲームであればグラフィックも美麗だし、まるでそこに本当にいるかのような臨場感だし、一儲け出来そうである。
――と、不意に廊下へ繋がる戸が結構な力でノックされた。
「はーい?」
恐らくだが、青勢じゃないと思う。彼等はもっとこう、客に丁寧だからだ。そしてその予想は見事に大当たりだった。
「召喚士殿。烏羽が参りましたぞ、開けてください」
ここで満を持しての初期神使の登場だ。別の部屋に案内されておきながら、もうこっちに合流しようというつもりらしい。行動がダイナミックである。
外に立たせておくわけにもいかないので、花実は戸を開けて、外に立っていた烏羽を招き入れた。そんな彼はいつものように胡散臭い笑みをその顔に浮かべている。
「ええ、先程ぶりですねえ、召喚士殿」
「本当に一瞬前だったよね、別れたの。何か用事?」
「用事がなければ、召喚士殿の様子を見に来てはいけないと?」
「えっ、うん」
態とらしいショックを受けたような顔をする烏羽をスルーした。いつもの事だったので、アクションを極々自然に流してしまったのだ。
当然、衝撃を受けたような表情も完全に小芝居なので、何事も無かったかのように初期神使はプレイヤーに宛がわれた部屋をぐるりと見回している。遠慮は勿論ない。
「ふむ。召喚士殿の部屋の位置と、あとどのような部屋なのかを確認しに来たのですが・・・・・・。ええ、良い部屋です。瑠璃殿のそういった感性だけは悪くないのですが」
「仲が悪いよね、瑠璃と」
指摘に対し、烏羽はやはり大袈裟に肩を竦めて見せた。
「私はあのような神使、気にも掛けておりませぬ。ただ、奴が月白寄りの思考であるが故に、この私にああやって突っかかってくるだけの事ですとも。ええ」
「うん、自分で絡まれに行ってたよね?」
「からかえばなかなかに面白いので。とはいえ、それ以外はつまらない存在ですよ。ええ、月白の豪奢な腰巾着と言ったところでしょうか」
「豪奢って・・・・・・。確かに、煌びやかっていうか、華やかだもんね」
ところで、と烏羽が薄く嗤う。面倒臭い事を言い出すであろう仕草に、花実はすぐさま身構えた。
「適当なところで、青都での休暇なぞ切り上げませんか? ええ、どうせやる事など無いのでしょう?」
「それはストーリーの内容によるのでは?」
「そのような屁理屈、この烏羽は好みませぬ。ええ」
――屁理屈は嫌いじゃないらしい。
通常であれば分かり辛い嘘だ。どうしてそう、思っている事と正反対の事を口にするのだろうか。言葉を額面通り受け取るような人物であったならどうしたのだろうか。
「とにかく、勝手に社に戻ったりはしないから。予定通り、山吹から新しい情報が入るまでは滞在!」
「ええ? どこで待とうが、情報の内容が変わる訳ではありますまい。瑠璃殿の視線が鬱陶しいので、長居したくないのです。ええ」
「日頃の行いのせいだね。たまには自分の振る舞いを省みた方が良いよ」
なおもブーブーと文句が多かったので、仕方無く部屋から叩き出した。青都の前に、花実自身も自室を探索したかったので仕方が無い。
***
「――・・・・・・はっ!?」
烏羽を体よく部屋から追い出してから、数時間ほどが経過しただろうか。
いつの間にか畳みで転た寝していた花実は、眠っていた事に気付いて飛び起きた。まさか、ゲームの中で寝落ちするとは。色々とややこしい状態だ。
リアルでの癖で外を確認する。時計より先に、外の明るさを気にしてしまうからだ。
太陽は高く上り、時間としては正午過ぎ――否、2時過ぎくらいだろうか。日差しが少しばかり目に痛い。
「――ん?」
窓から外を見ていると、黒々と艶の言い烏と目が合った。烏は大変賢い鳥だ。とはいえ、それ以外の事はよく知らないけれど。
――取り敢えず、折角青都に来たし青藍宮から見て回ろうかな。
都も勿論気になるのだが、青都に聳え立つこの青藍宮もかなり立派で、探索したい欲が湧いてくる。外に出るのはまだ先になりそうだ。
髪を手櫛で整え、いざ部屋の外へ。どこへ行こうかと考えて――そして花実は、ぎょっとして足を止めた。
「主様・・・・・・どこへ行くの?」
「う、薄墨!?」
戸の前にちょこんと立っていたのは、新入りの片割れ・薄墨だ。何を考えているか分からない、光のない双眸がこちらを見ている。
「え、いや、青藍宮を探索しようかと思って」
「一人歩き・・・・・・よくない。わたしも、一緒に行くから」
「そう? 正直、どこに向かえば何があるのかも分からないから助かるかな」
青藍宮は傍目見た限りでもとても広い。右も左も分からない状態なのは間違いないので、内部構造を把握しているかはさっぱり分からないが顔見知りがいてくれるtpありがたいものだ。
それに薄墨は来たばかりで、あまり親睦も深められていないし、ここいらでどんなキャラクターなのかを把握するのにも丁度良いだろう。
こうして、薄墨を連れた花実は今度こそ青藍宮の探索に繰り出したのだった。
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