13.密会での忠告
***
白群に案内されるまま、花実達はゾロゾロと部屋の多い区画へと移動してきていた。かなりの数の部屋が立ち並んでおり、こちらの人数を鑑みても一人一部屋は取れそうな程だ。
「白群」
不意に薄群青が、自身の対神へと声を掛けた。キョトンとした顔のその人が振り返る。
「どうした?」
「主サンの部屋はあの来客用の大部屋でしょ。俺、先に主サンだけつれて行くわ」
「その方が早そうだ。お前、召喚士様の御一行みたいな顔をしているけど、実際は青都の神使だしな・・・・・・」
「そういう事。じゃ、主サン。おれと一緒に行きましょ」
流れるようにして、薄群青に手を引かれた。そのまま離脱するかに思えたが、全く唐突に烏羽が言葉を放つ。それは珍しくも嘘ではなく、そして恐ろしく低い声だった。
「薄群青殿――くれぐれも、召喚士殿に変な事を吹き込まぬよう。言動には・・・・・・ええ、注意した方がよろしいかと」
薄群青はやはりいつもと威圧感の違う烏羽にたじろいだのか、返事をしない。というか、出来なかったらしい。微妙な空気のまま、烏羽に案内を促された白群が行動を再開し、何事も無かったかのように止まっていた時間が流れ始める。
「・・・・・・うわあ、何スかあれ。こっわ」
「私も流石にちょっぴり恐かったよ。あれはかなり本気だったね」
「うーん、そうなんスかねぇ。烏羽サン、どうでもいい所で急に真面目くさった顔する事あるじゃないスか」
「いや、今回はガチだと思うし、何か無理して私に情報提供しなくていいからね」
花実はゾッとするような烏羽の真顔と、口から溢れた本音を思い深く溜息を吐いた。いつも飄々としているだけに、その豹変ぶりは不気味と言わざるを得ない。
そんなプレイヤーの様子を参照してか、肩を竦めた薄群青はぽつりと呟いた。
「主サンに前プレイヤーの話をチクったの、バレたんスかね?」
「どうだろう。私は烏羽とはそういう話をしていないけど・・・・・・」
「そうなんですか? まあ、別に主サンがそれを烏羽サンに話しても、話さなくても構わないですけどね」
嘘ではなく、本当にそう思っているようだ。
思う所がない訳ではないだろうに、その一言で話題を終了させた薄群青がようやっと足を動かし始める。のんびりとした足取りでありながらも、目的地をしっかり理解している迷いのなさだ。
「そうだ、主サン。俺、召喚士と青都まで来られたのはかなり久々なんスよ」
「え? ああ、そうなんだ」
「本当に久しぶりだし、この辺まで来ると俺の持ってる記憶なんてアテにならないんで・・・・・・気を引き締めて掛かった方がいッスね。俺も、この後何が起こってどうなるのか、あんまり分からないッスわ」
「今までは分かってたんだ・・・・・・」
「道筋って、途中までは同じだったりするんで」
――これは、メタ的な発言って事なのかな・・・・・・?
薄群青はそれとなくストーリーのヒントなどをくれたりしていたが、その補助輪が外れたという遠回しのシステムメッセージなのだろうか。ここからは真の意味でプレイヤーの力でゲームを進めろと?
今までも割とそうだっただけに、チュートリアルが終わったという実感が湧かない。このゲーム、謎の手抜きだとか仕様だとかがそこそこあるのはどうにかならないのか。
「と、取り敢えず今聞いた話は覚えておくね」
「それがいッスよ。ああ、あと、俺も一応青都の神使ではあるんで、何か知りたい事があれば・・・・・・分かる範囲で教えますよ。都の構造とか、青藍宮の構造とか」
「へえ、心強いね!」
「まあ、拠点ですからね」
「じゃあ早速、瑠璃の事を知りたいかな」
烏羽に次ぐ、2人目の都守。気にならないはずがない。花実の都守のイメージは烏羽で定着してしまっており、瑠璃の存在は非常に新鮮に思える。
一つ頷いた薄群青が淡々と話し始める。
「瑠璃様は青都の都守ッス。対神は赤都守の紅緋サンになりますね。そのうち、主サンも会うかもしれないけど、まあ今は分からないかな。
瑠璃様はかなりの潔癖症で、そして美の追究が趣味の御方ッス。なんでそんなのに執着しているのかは、個人的な話になるんで俺は知らないッスわ。それと、見て分かる通り烏羽サンとは超絶仲が悪いッスね。瑠璃様は月白サン派なんで、正反対の烏羽サンとは折が悪いみたいです」
「思想の違い? うーん、別に仲良くして貰わなくていいし、喧嘩さえしなければいっか!」
「主サンのそういうやや適当な所、嫌いじゃないッスよ。瑠璃様の表面上のデータはこんな感じッスかね。まあ、聞きたい事があれば随時」
「ありがとう。・・・・・・そういえば、都守で思い出したけど、黄都の黄檗って結局今どうしてるんだっけ? 不在とかでずっといなかったよね」
薄群青が困ったような顔で肩を竦める。
「あー、黄檗サンはね、特殊な神使なんスよ。黄色の連中を見て貰ったら分かると思うんスけど、それの元締めですからね。今は行方不明だけど、まあ生きてますよ・・・・・・たぶん」
――本当に生きてるっぽいな。
「たぶん」、だけが嘘だった。情報を敢えてぼかして伝えたのだろうが、最後の一言は言わない方が良かっただろうなと他人事のようにそう思う。
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