09.お迎え(1)
***
翌日。
現実での用事を多少なり消化した花実は、ゲームにログインしていた。勿論、そろそろストーリーを進めるつもりなので神使達を大広間に集めている。
時間がない。今日一日という時間はあるが、ストーリーがフルボイスという都合上、読み飛ばして後から読み返す事が出来ないのは問題だ。しかも、これまで確認した限りでは終わったストーリーを読むコマンドが無い。つまり適当に受け流すと、この後する事が分からなくて最悪詰むのである。
なかなかの欠点だが、今はいい。先にも述べた通り、ストーリーが長いのに今この瞬間しか時間が無いのだ。
「――と、言う訳で。そもそも5人しかいないので、そのままこの編成で次のストーリー進めます!」
高らかに宣言する。やや乗ってくれたのは紫黒だけで、その他は何とも冷静な対応だった。烏羽も真意の読めない笑みを浮かべるだけで、ノリの良さは皆無である。
「待って、主様・・・・・・。いくらなんでも、人数が少ないと思う。私や薄群青は・・・・・・先頭向きじゃない」
薄墨の進言に対し、同意の意を示したのは藤黄だ。
「そうですよ・・・・・・。僕、神使と戦って役立つように見えるんですかね?」
そんな新人達に対し、同じく薄色の薄群青は特に感情の籠もらない目を向けている。流石は初期から連れ回されていた戦闘不得手の筆頭。最早、プレイヤーの決定にまるで動じない。それどころか当然だろうという風格すら漂わせている程だ。
ともあれ、新入り達に現実を教えなければならない。花実は淡々と現状を伝えた。
「いやごめん、藤黄は特殊な加入の仕方をしたからカウントしないにしても、この間薄墨が来たばかりだから。うちの社はなかなかガチャも回せないし、何ならこのまま1週間はガチャ無し期間が続くからね。そんな時間、大学生活が始まろうとしている私には無いんだよなあ。よって、この面子で突撃します」
流石にゲームの世界に現実の話を持ち込むと処理できないのか、薄墨達は口を噤んでしまった。
代わりに笑みを浮かべた烏羽が口を開く。
「ささ、召喚士殿。連中は放っておいて、新しい地へと赴きましょう! 次はどこが汚泥に沈むのか楽しみですねぇ、ええ」
「嫌な事を言うなあ・・・・・・。まーた、行き先不明だし」
呟きながら、端末のバナーをタップする。当然、行き先不明のバナーだ。ただ、このパターンも2回目。予想通り、タップと同時に山吹から端末へと連絡がきた。着信音に乱される心を鎮めつつ応じる。
「もしもし」
『こんにちは、召喚士様ー。この間言っていた、瑠璃御前の件なんですけどー。今、大丈夫ですかぁ?』
青都の都守・瑠璃がプレイヤーを青都へ招待しようとしている、という話だったはずだ。記憶を掘り返しつつ、電話口の山吹に了承の意を返す。
「大丈夫だよ」
『御前がですねぇ、既に召喚士様をー・・・・・・招く準備が出来ているとの事でー・・・・・・。有無を言わさず、青都に来させる気みたいなんですよー・・・・・・』
「そ、そうなんだ」
『かなり強引なので、断りますー? でもー、青都は観光地としてー・・・・・・かなり有名でー・・・・・・心身共に休める場所ですよー・・・・・・』
「ああ、リゾート地的な場所なのかな」
『それはよく分かりませんけどー・・・・・・。旅行好きなら、行って損は無いと思いますー・・・・・・。私はごめんですけどね・・・・・・。まあそれはそれとしてー・・・・・・次、行った方が良い場所の選定も済んでいないのでー・・・・・・一時は動きがないと思われます。羽休めにどうでしょうか、青都はー・・・・・・』
――これは、バカンス回なのか?
期間限定イベントとかで起こりそうな内容だが、どうしたものか。山吹は選択をプレイヤーに委ねているが、これ行かないと言ったら本当にその話はそこで終わりになるのか? 試しにやってみたい気もするが、都マップに行けなくなるのも嫌なので無難な返事をする。
「折角、お招きされているみたいだし、行こうかな」
『合点ー・・・・・・。御前には近々赴く旨、伝えておきますー・・・・・・』
「りょ」
山吹との通話が終了する。それを聞いていたのであろう薄群青が、すかさず口を開いた。
「次は青都ッスか?」
「そうみたい。薄群青、青系の神使だし縁のある場所になるのかな?」
「ウッス。交代で都に戻ったり、余所の町村に派遣されたり色々ッスね」
「へえ。ちなみに、青都ってどんな場所なの?」
「都の中では一番景色が良いッスよ。瑠璃様が綺麗好きなんで、それが反映されてるみたいですね」
ええ、奴はそういうのが好きですよと同期のような立ち位置から烏羽が情報を吐露する。
「何の生産性も無いので、私は美など程々で構いませんが。ええ、瑠璃殿はそういうどうでもよい事に拘る! ええ、ええ、奴は度々、濡羽にもちょっかいを出します故」
「ああ、和風美人だよね。濡羽」
「この烏羽の身も危ういかもしれませぬ! ええ、瑠璃殿はこの髪が大層気に掛かるようなので」
見栄でも張って謎の自慢をしてきているのかと思ったが、瑠璃の件は嘘では無さそうだ。なので、花実もまた烏羽の仰々しい態度をそれなりに額面通りに受け取って返事をした。
「ま、名前通り烏の羽みたいに綺麗な色だもんね。サラサラだし・・・・・・。現実でも清潔感のある男の人ってモテるから、御前の目の付け所は悪く無いと思うわ」
「ええ? どうしたんです、急に。私のご機嫌取りですか?」
ニヤニヤと嗤う烏羽に対し、花実はその首を横に振ってハッキリと否定した。
「いや、烏羽の機嫌を取ってどうなるの? 時間の無駄過ぎるでしょ」
「厳しくないですか? ええ、ぞんざいな扱いにこの烏羽、困惑を隠せません」
本当に困惑しているようで、大変申し訳ないが面白かった。会話が途切れた一瞬を見計らい、薄群青が瑠璃について言及する。
「瑠璃様は、烏羽サンより話が通じる御方ッスよ。今回も歓迎するって言ってるんで・・・・・・変な喧嘩とか発生しないといいなあ・・・・・・」
「最後。最後、願望になってるんだけど大丈夫?」
「理性ある御方なんで。大丈夫でしょ。まさか殺し合いになる事もなさそッス」
「それは大丈夫とは言わないんだよなあ」
ともあれ、リゾート地枠の青都。純粋に楽しみだ。
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