10.お迎え(2)

 ***


 いつものように門を通り、青都へとやって来た。

 とはいえ、黄都と同じシステム――つまり都守の自宅スタートである。まだ町並みは見られていない。


 そうして、地下であろうこの場所に着いた事に、何らかの方法で気付いているらしくすぐにお迎えの足音が聞こえ始める。小走りではあるものの、すぐにお迎えが姿を見せた。

 一番に反応を示したのは、珍しい事に薄群青だった。

 あんまり喜色を現さない彼はしかし、次の瞬間には僅かながらも穏やかな笑みを浮かべる。


「白群」


 呼ばれたお迎え――改め、白群という神使も分かりやすく優しげな笑みをその顔に形作る。


「あ、お前青都に帰ってきたのか! 久しぶりだな、薄群青!」


 親しげだ。弊社が黒適応の花実が運営しているだけあって、常日頃からギスギスしていたし黄都では紳士同士はビジネスライク、ここに来てようやくギスギスしていない関係性の神使を見た。

 神使同士は罵倒しあっているイメージが定着しかけていたが、やはり実際はそうでもなかったのだ。このアカウントが色々とおかしいだけ。


 内心で頷いていると、薄群青が親しげな白群とやらを紹介してくれた。


「あ、主サン。奴は白群。俺の対神なんスよ」

「対神! あー、だから仲良さそうだったんだ! 対神はみんな・・・・・・あ、いや、一部を除いて大体仲が良いもんね」


 脳裏に過ぎるは薄桜と薄藍のコンビ。そして烏羽と月白の組み合わせだ。

 まさに正反対な対神が同時浮上したせいで、花実の発言の勢いは完全に殺されてしまった。背後で烏羽が鼻を鳴らしているのが分かる。


「対神はよいのですが、そろそろ地上へと案内していただけませんか? ええ、地下はこう、何かと埃っぽいので」


 姑のような一言にしかし、白群は苦笑して首を横に振った。


「いやいや、言う程埃なんてないでしょう? 瑠璃様は綺麗好きでいらっしゃる。地下が埃被っているだなんて、そんな事になったら俺達は打ち首ですよ」

「ああ、そういえば瑠璃殿はそういう気質をお持ちでしたねえ。ええ、度を超した潔癖症だったような気がします」


 今更ながら、白群の様子を観察する。名前だけ聞くと『白』が入っていて、白系の神使だと思うかも知れないが驚いた事に青系に属するようだ。頭髪の色もそうだし、何より全身をそれらしい色で統一している。名前だけで所属を判断するのはよろしくないらしい。

 外見は高校生くらいの年齢に見える。対神である薄群青は中学生くらいに見えるので、二人が並ぶと兄弟のようにも思えてしまう。


「ああそうだ、ようこそ、召喚士様。さあ、埃は被っていないかもしれませんがいつまでも地下にはいたくないでしょう? 階段はこちらです」


 丁寧な物腰に、爽やかな笑顔。成程、青系神使はそういう路線なのか。今にして思えば、薄藍も挙動はかなり爽やかだった気がするし、薄群青もこざっぱりとした性格の持ち主だ。涼しげ、といえば例えが分かり辛いかもしれないが本当にそういう感じである。

 考え事をしていると、烏羽に結構な力で背を押された。


「何を突っ立っておられるのです? ええ、置いて行かれてしまいますよ、召喚士殿」

「うーん、青系神使の後に烏羽と会話をすると・・・・・・」

「すると? 何でしょうか」


 小首を傾げる烏羽をもう一度見て、花実は大きく頷く。


「なんかこう、烏羽はちょっと・・・・・・粘性があるよね!」

「はい? なに? え、粘性・・・・・・? もしかして、罵倒されているのでしょうか。ええ」

「罵倒っていうか、感想かな」

「なんの? 召喚士殿はその、あれですか? 軽率に命を放り出してしまうような考えをお持ちで?」

「いや、命は大事だから別にそういう思想は持ってないかなあ」


 案内役の白群に呼ばれたので会話は終了した。なお、烏羽はずっと首を傾げていて何だかちょっと面白かった。


「まずは召喚士様を、瑠璃様に会わせないといけないな」


 次に耳に入ってきたのは、白群と薄群青――対神の会話だ。

 白群のプランに対し、薄群青が首を縦に振る。


「まあ、宮に来て瑠璃様にまず会わないのはマズいでしょ。というか、この面子大丈夫?」

「どうだろ、分かんないな・・・・・・。俺も今、召喚士様と出会って初めて把握したというか・・・・・・」

「だろうなぁ。ま、主サンがどうにかしてくれるでしょ」

「ええ? 大丈夫か、それ。不安だな」


 ――不安なのはこっちなんだよ・・・・・・。

 前を歩く二人の不穏な会話が耳に入ってしまい、テンションが下がる。バカンス回ではないのか。既に何か騒動が起きそうな勢いの会話内容だ。

 そんなプレイヤーを気遣ったのか、紫黒が横から話し掛けてきた。


「そうだ、主様。青藍宮は外から見ると、大層美しい建物らしい。時間があったら、外に出てみない?」

「青藍宮?」

「都守・瑠璃がいる、この建物の事だよ。黄都は事務所って感じだから名前はなかったけど、瑠璃はそういう名前を付けているみたいね」

「そうなんだ」

「黒都の大兄様がおわす城にも、一応名前が付いているかな。まあ、行った時のお楽しみって事で」

「マジ? 烏羽、城持ってんの」


 都守が大きめの家を持っているのは黄都の時から分かっていたはずなのに、驚きが隠せない。一城の主という空気が、あまりにもなさ過ぎるせいだろうか。

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