07.2人目の主人(1)

 今日の一大イベントだった強化祭が終了。花実は端末から時間を確認した。


「――あー、それと、今日は今から現実で用事があるので解散」


 驚きの声を上げたのは烏羽だ。


「ええ!? もう行ってしまわれるのですか? まだ数十分しか社にいませんよ、ええ」

「そんな事を言われてもな・・・・・・。そろそろ大学生活も始まるし、提出書類もそろそろ書かないとマズいし。そういう訳だから、みんな散って散って!」

「ああ、今日もつまらない一日になりそうです。はい」

「後味が悪くなるような事を言わない。暇なら掃除でもしてなよ、何か埃被ってきてるよ。使っていない部屋が」

「戻って寝ます」


 それだけ言うと、烏羽は即座に姿を消した。暇だと言うから妥協案を提示したのに、余程掃除が嫌だったと見える。

 烏羽がいなくなると、次々に神使達は大広間から出て行った。そう、こういう時に面と向かって駄々をこねるのは烏羽だけ――の、はずなのに。


「薄群青? どうかしたの?」

「あー、いや、ちょっと主サンの耳に入れておきたい話があるんスけど。聞きます? 心底急いでいるなら、また今度にしますけど」

「え、そういう言い方をされると気になるなあ。ちなみにどんな話?」


 周囲を見回した薄群青に手招きされる。内緒話をするかのような距離感で、ヒソヒソと彼は問いに応じた。


「俺、烏羽サンの2人目の主人の事を知ってるんスよ。この間、気にしてたでしょ? 主サンにこっそり当時の話を教えようかと思って」

「・・・・・・」

「でも、急いでるならまた今度にします?」

「――聞く!」


 ワクワクする話が始まったのを察知し、花実は強く頷いた。苦笑した薄群青が、プレイヤーの部屋がある方向を指さす。


「そんじゃ、主サンの部屋で話すッス。烏羽サンに見つかったら、何されるか分かんないし」

「確かに烏羽は何してくるか分からないタイプの恐い人感がある」


 ***


 部屋を移動してきた。戸をしっかりと閉め、鍵も掛ける。これだけで神使は戸を開け閉め出来なくなるらしいから優れものだ。セーフゾーンというやつだろうか。


「それでそれで? 烏羽の、えーっと2人目のプレイヤー? 何で2人目?」

「あー、主サン、黒檀サンの事を覚えてますか? 相馬村でぶつかった・・・・・・」

「うん、覚えてるよ」

「あの人が言ってたでしょ。召喚士の事。あの人が、1人目」


 ――では2人目からはプレイヤーという事か。

 どうも、1人目の召喚士はストーリー上に存在するキャラクターのようだし、その人物に関してはプレイヤーではないというのが現在の花実の見解である。


「なるほどね・・・・・・」

「そ。んで、2人目のプレイヤーは青適応だったんで、俺も初期の初期から社にいたんスよ。この社では最初に烏羽サンが来たらしいけど、2人目の時はかなり後半戦で参加した記憶があるッス」

「アカウントの情報って、結局薄群青同士で共有してるの?」

「・・・・・・ええ、まあ。勿論、プレイヤーの個人情報は話せないッスよ。まあ、大した事知らないけど」


 真実のようだ。しかし、アカウントの記憶共有については前々から分かっていた事だったので、今更深く突っ込む事はせず先を促す。


「そう、それで――その時の召喚士サンは男。適応色は青で、まあ青の割合がかなり多かったッス。プレイスタイルは効率的な人だったッスね。何と言うか、ゲーム慣れ? しているというか。連れて行く面子も火力重視で、ガンガン進めて行く感じッス」

「先にメインストーリーを進められる所まで進めるタイプかな」

「そんな感じ。例に漏れず、薄色シリーズは結晶作成の能力だけ解放して後は放置だったッス。ま、正しい運用方法なんで別に構わないけど」


 そういうプレイスタイルも勿論ある。この手のタイプはメイン攻略後、着手していなかった低レアの育成に励んだりと効率的且つ自分なりの楽しみを見つけてプレイする人が多い気がする。


「そんで、烏羽サンが来たのは後半も後半。パーティとかは出来上がった後だったッスね。俺が個人的な感想を述べるのなら、攻守共に隙の無い上手い編成だったと思うッス。控えもそこそこ強化されてたし」

「ゲーム上手な人じゃん」

「そうなんだけど――そんな時に、烏羽サンが召喚されたんスよ。召喚士サンは大喜びだったッスね。都守が5体しかいないの、もう知ってたし」

「まあまあ、かなりレアなのは否定できないからね」

「うッス。しかも、まあ、都守は雑に強いとかで掲示板? とかでも賑わってたんスよ、あの時は。それで召喚士サンは烏羽サンを最優先で育てたッス。幸い、薄色もたくさんいたから結晶も有り余ってたし、貯める癖があるから瞬間的に烏羽サンは能力を取り戻したッス」


 育成アイテムを渋る勢は一定数いる。花実はあまりそれに該当しないが、常に高レアリティ一人分の素材をストックしていたりと、管理方法はプレイヤーそれぞれだ。

 蕩々と話を続ける薄群青の声に耳を傾ける。


「だけど、烏羽サンの我が儘は止まらなかったッス。能力を全部解放しても、編成に入りたいだの青とは気が合わないから別のパーティを組めだの――まあ、とにかく色々口出し? みたいな事もしてたかな」

「ああー、言いそう」


 だが烏羽の我が儘は基本的に本当に『そう』して欲しい訳ではないらしい。何せ嘘ばっかり吐くし。何より個人的な特技にはなってしまうが、彼の本当にそういう行動を取って欲しい時が分かるので面倒事には着手しないのが、花実のスタイルである。

 ともかく、今は薄群青の話を聞いているので続きを促した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る