06.強化祭(2)
「はいはい、じゃあどんどん行くよ。何せ私には時間が無いからね」
端末に視線を落とす。次の強化先は薄群青だ。
「薄群青は――ああ、これでラスト? 特殊能力解放、ってなってるけど説明がね。ないんだよなあ」
「有り難く頂戴するッス。これで、俺は本来の力を取り戻した事になりますね」
そう言いながら、烏羽に比べて控え目な量の結晶を摂取する薄群青。彼は社へ2番目に来て、以降はずっと前線を張っているのでこうして見ると感慨深いものがある。
というか、薄色シリーズの彼は烏羽と比べて能力の解放数すら少なめだ。本当に初心者がまず育てるべき神使なのだろう。レア度の概念は無いと言いつつ、平等でもないらしい。
「薄群青の特殊能力って何? まさか、それも秘密」
「いえ。俺の能力は対象の五行――いや、属性一つを一定時間使用禁止にする能力ッスね」
「え!? 強くない? 普通に便利に聞こえるんだけど」
「どうですかね。ま、結局はサポート向きッスよ。俺には火力が足りないんで、封じたところで決定打を与えられないし。それに、想像してみて欲しいッス。仮に俺が烏羽サンの水気を封じ込めたとして、それで勝てるように見えます?」
「・・・・・・ごめん、見えないや」
「でしょ?」
「ええー、いやでも、集団戦では超便利。言ってくれれば先に解放したのに! あ、もしかして能力解禁まで説明できない感じなの?」
「別に・・・・・・。聞かれれば普通に答えてたッス」
「あ、っす・・・・・・」
「俺達、薄色シリーズは割と特殊能力が変わってるのが多いッスね。ま、自衛は出来るかなってくらいかな」
薄藍も気配を完璧に消す系の力を持っていたはずだし、言われてみればそうだ。であれば、元々が屈強な烏羽は、大した能力を持っていないのかもしれない。
「――召喚士殿? 私の顔をそんなに見つめて、どうかされましたか?」
「いや、何も無いよ。じゃあ次、紫黒」
「ええ」
一つ頷いた紫黒が前に出て来た。これではさながら、表彰式か何かである。でもこの嵩張る結晶を持ってわざわざ神使の元へまで運搬するのがかなり面倒臭い。一カ所に集めて表彰式風にやるのが効率的なのである。
「はいこれ、結晶だよ。紫黒は武器解放だから・・・・・・あれかな? お札みたいな武器」
「そうよ。術武器――ええと、魔法武器って所ね。前、私と戦った時に見ていたと思うけれど、私はサポーター。符が戻ってきたから、今後はそういう立ち回りになるはずよ」
「りょ。サポーターね。まあ、アタッカーっぽいのが烏羽しかいないし、結局はアタッカーも兼任かな」
紫黒は苦笑している。そらそうだ。5人神使がいて、まともなアタッカーは烏羽だけという偏りっぷりである。
ここで手持ちの結晶が尽きた。
薄墨は来た当初に1つ目を解放したので、未強化は藤黄だけとなる。彼が来るのは完全に予想外だったのですぐに準備が出来なかった。
「ごめんね、藤黄。ちょっと君の分は確保できなかったよ」
「あ・・・・・・、僕は要りませんよ。黄はエンジニア枠らしいので。えー・・・・・・出来れば、枠が余っていても戦闘には行きたくないですね・・・・・・」
「ごめん、枠余りは個人的に許されないから新入りが来るまで強制的に編成だわ。いないよりマシ」
「でしょうね・・・・・・。僕が召喚士であっても、恐らくそうしますし」
藤黄に手を合わせて謝罪し、先程から存在感が限りなく薄い薄墨にも同様に断りを入れる。
「薄墨にも結晶がないや、ごめんね。次までには貯めておくから」
「主様・・・・・・。私は後回しでいいから、大兄様に結晶を回して・・・・・・。正直、能力を解放されても役に立てない」
「ええ? いやいや、そんな事言わずに」
「どうせ、大兄様も・・・・・・きっと、次で最後の解放くらいだし、そのくらい待つのは構わないから」
薄墨の殊勝な申し出に対し、感激の意を露わにしたのは当然ながら烏羽である。しかし、先述しておくがその内容は大嘘。実際には大した感情など無い事が伺える。
「ええ、ええ。流石は薄墨。気が利きますねえ、どこかの誰か共とは大違いです。さあさあ、召喚士殿、聞きましたよね? 次も私の強化で決まりですよ、ええ」
「薄墨はそれで良いって言っているけれど、藤黄は別に辞退はしていないからね」
「ええっ!? 止めて下さい、止めて下さい・・・・・・。そういう事に僕を巻き込まないで下さい・・・・・・」
藤黄は烏羽に一瞥されただけで恐ろしく萎縮してしまった。力関係が如実過ぎるのではないだろうか。シンプルにパワハラである。
まごつく藤黄を尻目に、烏羽が態とらしい猫撫で声を発した。
「藤黄もこう言っておりますよ。ええ、それに次はようやっと私の得物が戻ってくるそうではありませんか。ずぅっと徒手空拳で戦ってきたのですから、太刀がなくて寂しいのですよ、ええ」
――本当に武器を回収したいんだなあ。
寂しいのは嘘ではないらしい。そういう感情があった事にも驚くが、全幅の信頼を寄せている得物なのだろうか。全容はまだ分からないが、得物の種類としては太刀との事。
「いや、というかそもそもの話・・・・・・なんで君達って強くなるとかじゃなくて、元に戻るのが強化手段なの? 最初から強い状態で来てよ」
単純な疑問に答えたのはエンジニアを自称する藤黄だった。
「圧縮ファイルのようなものです。社にいる神使は主様から輪力を吸い上げて存在しています。が、この輪力は急激に減少すると大変危険です。過去、急速に輪力を失って心臓が停止した人間もいます」
「え? でもそれって、強化して能力を解放して行ったらいずれそうなるよね?」
「ああいえ、緩やかに使用量が増える事に関しては問題ありません。なにせ、召喚士の体内には我々を養って余りある程の輪力があります。が、急激に1、2%を持って行かれると体調に異変が起こる事もあるそうですね」
「ふぅん・・・・・・。まあ、最初から神使が強すぎたらゲームにならないしね。分からないけど分かったよ」
一応、設定なるものはあるようだ。ともあれ、適度な所でゲームを切り上げる理由は必要だし、結晶の数を絞る事ですぐクリアするのを防ごうという魂胆なのかもしれない。
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