05.強化祭(1)

 ***


 色々とやらなければならない事があった花実は、神使全員を大広間に集めていた。流石に人数が5人にもなると寂しかった空間が、少しは賑わいを見せている。それでもやはり、このスペースにこの人数は少なすぎるとは思うけれど。

 プレイヤーの姿を見るなり、眉根を寄せて心配そうな声を上げたのは紫黒だった。


「主様、強制ログアウトされたそうだけれどもう大丈夫なの? まだ騒ぎが起きてから1日程度しか経っていないわ」

「体調は問題無いけど・・・・・・。なんで急にログアウトさせられたんだろう? それは分からないや」


 呟きにおずおずと応じたのは新顔の薄墨だ。


「多分、必要な輪力の値を下回ったからだと・・・・・・。体調不良も、そのせい」

「必要な輪力の、値?」

「そう・・・・・・。輪力は人間が生命維持をする為にも必要。だから、安全値を下回ったら、ログアウトする仕組みが・・・・・・ある」


 ――初耳なのだが?

 そんなものはゲームの説明にはなかったし、今薄墨がチュートリアルをしてくれなかったら永遠に知らないままだっただろう。薄墨はそんな話をしてくれたが、同じ薄色の薄群青は何も教えてはくれなかった。

 ちらっとそんな薄群青に視線を送ってみる。意図を悟ったのか、肩を竦めた古参の薄色は首を横に振った。


「話す機会が無かったんで。全部説明したって、主サンも覚えられないでしょ。俺も何から話したら良いか分かんないし」

「それもそう」


 冒頭から世界観を詰め込まれ過ぎたら、「早くゲームをさせろ」と言うに違いない。かなりメタな発言ではあったが彼の言う事は尤もだった。


 ゲーム的な事情は理解した。

 ――それで? 本当は何故、ログアウトしたのだろうか。

 世界観を壊さない説明は有り難いが、実際の理由が分からないとまた強制ログアウトを踏むかもしれない。

 今回のトリガーは何なのだろうか。機体が熱くなりすぎたから? それとも、脳波だとかを汲み取って、プレイヤーの体調不良を察知したから? 後者に関しては聞いた事も無い技術なので、あまりそうであるとは思えないけれど。


 取り敢えず今回の事はレポートに書いて提出しておこう。強制終了も立派なバグだし、無視するのはマズいだろう。違うなら違うでも構わない訳だし。


「――召喚士殿。考え事も良いですが、そろそろ我々をここに集めた理由をお話頂けませんか? ええ、ずっと拘束されるのは、ねえ?」


 烏羽の煽るような声音で我に返る。

 そう、やらなければならない事が山積みなのである。ゲームを数日サボっただけなのだが致し方ない。


「そうだった。えーっと、まずは新しい仲間。藤黄くんです。みんな仲良くしてね」


 とはいえ、適応色黒の根城。この新人紹介が毎度の事ながらまあ、盛り上がらない。藤黄に一瞥くれた烏羽が態とらしく溜息を吐く。


「この間、薄墨が入ったばかりなのですが。ええ、社の物を勝手に触らないように。まさか黒社に黄がちけっとなどと言う方法で入って来るとは・・・・・・」

「お、大兄様・・・・・・! そのような言い方は・・・・・・もっとオブラートに」


 青い顔をする紫黒を尻目に、薄墨は新しい後輩に一瞥くれただけでノーコメント。薄群青は「おー」、という気のない声を上げながら手を数回叩いただけ。

 大盛り上がりしろとは言わないが、めでたい雰囲気は出して貰いたいものだ。

 渦中の藤黄はと言うと、反応に困っているらしく本当に困った顔をしていた。大変申し訳ない。


 このまま藤黄を晒し者にしている訳にもいかないので、花実は速やかに次の用件へと移った。


「それじゃあ、次はみんなの強化タイムだね。私が長く留守にしていたから、結晶もたくさんあるし。薄墨が生産してくれるから、更に貯まってるからね」

「おや! そうです、そういうのを待っていたのですよ、ええ」

「前回の相馬村では戦力があまりにもギリギリだったし、ここで本腰を入れてみんなを強化していこうかな」


 実は前回のストーリーである相馬村での手間取りは、なかなかのトラウマとなっている。いよいよ以て、真面目に育成へ着手しなければいずれゲームオーバーになるという確信を得たのだ。

 なので烏羽を中心に、全体の強化を進めたい。結局の所、烏羽が多対一に持ち込まれれば他の強化していない神使達にも危険が及ぶのだ。こちらも集団戦を駆使していかなければならない。


 考えていると、烏羽がその大きな手を差し出してきた。いつものように結晶を強請る、図々しい動作だ。何故か様になっているのも大変不思議である。


「ささ、では召喚士殿、結晶を頂きましょうか。ええ、ええ、次はこの烏羽の能力を解放するという約束でしたからね?」

「勿論。はい、これが必要個数分ね」

「確かに受け取りましたとも。ええ、召喚士殿は約束を破るような方ではありませんなあ」


 烏羽は上機嫌でその結晶を使用、何が変わったのか傍目には分からないが、今回の解放で特殊能力が使えるようになったはずだ。


「――それで? 特殊能力って何が出来るの、烏羽」

「おやおや、おやおやおや! 気になりますか? ええ、ええ、その気持ち分かりますとも!」

「いや、勿体ぶらなくて良いってホント」

「んふふ、このような何も無い場所で披露するのも無粋でしょう。ええ、ええ、楽しみにしていて下さい」

「はあ? 何かあった時に困るじゃん、それじゃあ」

「何を仰る! 私が召喚士殿の言う通りに戦った事が一度でもありますか? ええ、無いでしょう? 私のたいみんぐで使用しますよ」

「腹立つなあ・・・・・・。まあいいや、次おしてるし」

「ええ!? もっと私に興味を持って下さい!」

「め、面倒くせ~!!」


 つい本音が溢れてしまった。烏羽は横でウダウダと何か言っていたが、時間が無いのでスルーして次へ行くことにする。

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