03.お知らせ
チャットを終了した花実はぐったりと溜息を吐き、ゲーム内端末に視線を落とす。悩ましい事ばかりだが、白星の言う通りバイトをバックレる訳にもいかない。赤日のやり方が最も安全なのだろうが――
「ん? あれ!?」
ふと違和感を覚え、端末の画面をまじまじと見つめた花実は思わず声を上げた。
何と大変珍しい事に運営からのお知らせがメールボックスに入っている。今まで一度たりともこのボックスにメールが入っていた事がないので、あまりにも見慣れない光景だ。
初めての運営アナウンスに震えながらも、メールを開く。現れた内容は更に驚きを誘うものだった。
『5体編成可能となる調整を行いました
テスターの皆様、こんにちは。運営事務局です。
本日の調整にてストーリーに神使を5体まで連れて行けるようになりました。こちらから派遣いたしました黄神使のエンジニアによるアップデート後より編成が可能となります。
以下のバナーより神使を一体選択し皆様の社でのバックアップメンバーとしてご活用下さい。』
「えっ!? は? はい、配布!? え? マジで選べるの? 正気か?」
色々と情報量の多い文章を読んだ後、花実は別の緊張で震える指を以てして、お知らせ下部のバナーをタップした。
黄系と思われる神使の画像が出力される。当然、山吹も藤黄も選択肢の中にいたし全然会った事の無い神使もずらっと並んでいる。ただ当然、黄檗の二文字は見つけられなかった。
――誰にしようかな。山吹か藤黄だろうけど、山吹は生存してるからな・・・・・・。ここは藤黄を選択するべきなのでは?
そもそも山吹は召喚するなら藤黄を、とストーリー中に発言している。であればそれに従い、藤黄を選ぶべきだろう。もういっそ、接点が全く無い神使でも良い気がしたが、烏羽然り顔の好みだけで選ぶと後でえらい目に遭いそうなので止めておく。
ウキウキの気分で藤黄を選択。確認画面の「はい」をタップした。
瞬間、端末の画面が切り替わる。いつもはリアル体験を強いられる召喚の儀だが、部屋ではなく端末の画面に召喚陣らしき物が映し出されたのだ。最初からそうしろと思わなくもない。
「主サン!? ちょっと、部屋で何やってんスか!?」
部屋の外から薄群青の慌てたような声が響く。あまりにも鬼気迫っているので驚いたが、そりゃ本来発光するはずのない部屋が輝いていたら、神使でも驚くだろう。
目が潰れるような光が収まり、黄都で散々お世話になった藤黄が現れる。取り敢えず、召喚後の台詞を聞いてから薄群青に事情を説明しよう。そう思って立ち上がろうとした瞬間だった。
あまりにもリアルな立ち眩みに襲われる。
「主様、大丈夫ですか!?」
自己紹介をしようとしていたであろう藤黄が慌てたように駆け寄ってくるが、言葉が出て来ない。外では薄群青が何かを捲し立てるように叫んでいるが、最早よく聞き取れなかった。
これが意識を失って倒れる感覚か、と最後にどうでもいい事を考えたのを皮切りに視界が暗転した。
***
「――嘘でしょ・・・・・・」
我ながら皮肉の利いた発言をしつつ、身を起こす。
ここは自宅。ゲームからログアウトしてしまったようだ。
――具合が悪い。
明確にどこが、どういう風に悪いだとかそういった事はない。とにかく気怠い。激しい運動後のような倦怠感が付きまとっている。身体がもう今日は動かない方が良い、と断じているかのようだ。
頭の装置を外す。ぐったりとした頭でそれをまじまじと観察した。
見た目はVRに用いられるようなそれと似ている。ただ、ゲーム売り場で昔体験したそれらよりも、このゲーム機の方がずっと軽い。中身が詰まっているのか疑問に感じるくらいだ。
眼前を完全に覆う造りになっているが、目に当たる部分にレンズなどは嵌っていないようだ。というか、ゲームを終えた時にいつも感じているがゲーム中は眠っているようなものなのではないだろうか?
今まで深く考えた事は無かったけれど、この装置は本当に脳などに影響を及ぼさないのだろうか。冷静になって考えてみれば、危険なゲーム機のような気がしてならない。
「いや、怠い・・・・・・。もしかして風邪でも引いたかな」
独り暮らしを始めてから独り言が増えた。それはそれとして、常備している体温計で体温を測る。ややあって音が鳴ったので見てみれば、35度台というあまりにも低すぎる結果だった。
熱があるのも辛いが、逆に体温が低すぎるのも恐い。
今日はもう、ゲームは止めて身体を休めようと花実はゲーム機をベッドから下ろした。次、目覚めてベッドから下りる時に踏み潰さないようにしなければ。
どうでもいい事をつらつらと考えながら目蓋を下ろす。新生活による疲れだろうか。目を閉じればすぐに夢の世界へと旅立つ事が出来た。
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