02.親友の行方(2)

 ***


 端末を弄ってチャットルームにインする。

 どうせ、プレイしないという仕事内容の黄月や、ストーリー最新話までクリア済みっぽい社員の白星はいるだろう。


『赤日7:本当にゲームを始めてから赤鳥の様子がおかしかったんだって! 前々からちょっと思ってたけど、このゲーム変じゃない!?』


 ――なんだ……?

 どうやら赤日がヒートアップしてコメントを連投しているようだった。遡って確認してはいないが、丁度聞きたかった赤鳥の事について話している様子。


 ログを遡って確認してみた。

 ざっくりまとめると、赤鳥がゲームのプレイ中に倒れて現在も入院中であり、このゲームから危険な何かが出ているのではないかと主張しているようだ。確かに頭に装着するタイプの装置だし、脳を酷使してはいそうな仕組みである。

 ただそんな専門家にしか分からないような事ではなく、意識不明で入院中という事実が親友・ゆかりと被ってしまう。

 赤鳥と親友の共通点と言えば、同じゲームをプレイしていた事くらいだ。詳しく聞けば、他にも共通項があるかもしれないけれど。


『黒桐12:すいません、ちょっと良いですか』

『赤日7:あ! 黒桐さんじゃん!』

『黒桐12:ログを読みました。実は私の親友も赤鳥さんと似たような状態に陥っているので、偶然ではないかと』

『赤日7:ほら! あたしの言った通り! 赤鳥は独り暮らしだから、発見が遅かったら餓死してたかもしれないじゃん!』

『黒桐12:そっちも独り暮らしなんですね』


 こんな感じでチャットが盛り上がっていたからか、あまりタイミングの合わない青水もこの場に居たようで会話に入って来た。


『青水2:ええ? ちょっと恐くなってきちゃったわネ。アタシも独り暮らしなんだけど』

『黄月12:あー、俺も俺も~。えー? 独り暮らしばっかじゃん、ウケる』

『黒桐12:私もつい最近、独り暮らしを始めましたね。え? 白星さんもですか?』

『白星1:まあ、僕も独り暮らしだな』


 奇しくもチャットメンバー全員が独り暮らしのようだ。これは偶然か? それとも独り暮らしの人物にだけ、このゲームのテスターをやらせている? 何の為に?


『黄月12:そういえばさあ、バイト先への提出書類あったじゃん。あれにそんな感じの質問あったよね~。もしかして独り暮らしばっかり選んでんの?』

『赤日7:あった! あったよ、そんなアンケート。なに? なにかの陰謀論とか始まっちゃってる?』


 ここで青水が思い付いたかのように白星に訊ねる。


『青水2:そうだ、白星ちゃんはゲームの運営関係者だったわよね? 何か知らないの?』

『白星1:悪いが、うちは下請けなんだ。守秘義務もあるし、ここでそんな話をする訳には……。ただ当然、人体に悪影響があるあれやこれやを容認したなんて言う、犯罪紛いの話は上がっていないな。そもそもそんな事が起きていても、下請けにそれらを説明するとは思えない』

『青水2:あら大変ね、会社員っていうのは。まあ、自営もなかなか大変だけどネ』

『黒桐12:自営業やってるんですか?』

『青水2:やだ、アタシじゃないわよ! いつかは自分の店を出すつもりだけれど、今は見習いって感じ!』


 何だか分からないが、将来的には自営業を目指すようだ。脱線しかけていた話を赤日が元の路線へと戻す。


『赤日7:ともかく、こんな危ないゲームは止めるべきなんじゃない? みんな独り暮らしだって言うし、何かあったら……』


 ここで聞きに徹するばかりだった白星が自ら意見を発信した。


『白星1:止めるのは問題無いが、急に仕事を放り出すのはマズいな。一応、ゲームのテスターというアルバイトな訳だし。トラブルの元になりかねないから、ちゃんとアルバイトそのものを辞めるべきだ』

『赤日7:それはそうだけど、でも……』

『白星1:あと、君達が使っているハードは特別性だ。持ち逃げされると困ると運営側も考えているだろうから、何としてでも回収しようとするだろう。唐突な音信不通はかえってトラブルになりかねない。あと君達は履歴書に自宅の住所を書いてしまっているはずだ』

『赤日7:言われてみれば確かに。うーん、あまり長時間ゲームをプレイしないようにしつつ、正規の形でアルバイトを辞めるのが最速になるのか……。分かった』


 結局、赤日はアルバイトを辞める手続きが終わるまではそれとなくゲームにログインするつもりのようだ。

 ――私はどうしよう。

 頭に装着するタイプのゲーム機。これが悪さをして、プレイヤーを昏睡状態にしてしまったのだろうか。けれど、12サーバまであってそういった報告は上がってきていない。極稀に起きる現象? 通常の企業であれば、一人そういうのが出た時点でプレイを止めろと言ってきそうなものだが。


 正直な話、このゲームは好きだ。斬新なグラフィックだったり、謎の技術だったりもそうだが一緒にストーリーを乗り越えた神使達をかなり気に入っている。ゲームを続けるか否かの判断は推しがいるかどうかに限るタイプなので、まだゲームに飽きたという気持ちもない。

 何より最近ではゲームが気になって仕方が無いのだ。あまりにも社の神使がリアル過ぎるからかもしれない。人をずっと待たせているモヤモヤ感が延々と付きまとう。


「……取り敢えずゲームに戻ろうかな、うん」


 結局、アルバイトを辞める結論には至らず花実は考えるのを一旦止めた。

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