20.相違点

 ***


 やはり体調不良の原因は長時間のゲームだったのかもしれない。

 大人しくゲームを終了した翌日。いつもの何ら変わらない体調に戻っていた花実は、ゲームを起動。自室にてそう結論を出していた。


 今は最近ご無沙汰だったチャットルームにインしている。


『黒桐12:――こんな感じです』

『青水2:あら、頑張ってるじゃない。というか、ちょっと不思議なんだけど山吹がアドバイスをくれるようになってから、話の内容がアタシと違い過ぎない?』


 ――んん? どういう事だ、それは。

 青水の思わぬ言葉に花実は首を傾げた。確かに山吹が遠隔で手伝うようになってから、バナーが開始直前まで「?」となっていたりしたが、それと関係があるのだろうか。


『青水2:あんまり書くとネタバレになっちゃうから難しいけれど、アタシは相馬村には招待されなかったわね。一緒にいる神使も影響しているのかしら?』


 疑問ばかりが降り積もる中、それまで黙って事の成り行きを眺めていたであろう白星が不意にメッセージを書き込んだ。ちなみに、今日は奇跡的に黄月も含む4人が同時にチャットルームにいる。


『白星1:相馬村までの敵神使撃退数と、所持神使で話が分岐する事は前々から確認取れてるな』

『青水2:そうなの? え~、ストーリー全部回収しようと思ったらかなり難しいじゃない、それ!』

『白星1:そう言われてもな……』

『青水2:まあでも、うちには瑠璃ちゃんいるし、確かにそれを考えたら当然の流れだったのかもしれないわね』


 瑠璃――青都の都守だったはずだ。何気にここのチャットにいる皆々様は引きが良いらしい。白星も月白を引き当てていたし、自分には烏羽がいる。


『黄月12:いーよな~、ゲームしていい奴等はさあ。俺はまだ待機だよ、意味わかんね』

『黒桐12:それ何の為に雇ってるかもう分かんないですね』


 黄月が哀れ過ぎて、そのまま会話は消滅した。代わりに親友の剣についてチャットで聞いてみることにする。


『黒桐12:話は全然変わるんですけど、赤鳥さんって結局あの後、チャットに来たりしました?』

『白星1:いや、来ていないな』

『黒桐12:そうなんですか。いや、実は私の友達もゲームをやっていて、今音信不通なんですよね。まさか、ゲームと何か関係が……』

『白星1:それは、申し訳無いが関係は無さそうだが……。君もよく友達を捜した方が良い』


 案外ばっさりと切り捨てられてしまった。よく考えてみれば、白星は社員だったはず。あまりゲームを悪く言う訳にはいかないだろうし、きっと作ったそれに愛着もあるはずだ。こういった発言には気を付けよう。

 ――と思っていると、端末の上部に通知が入った。

 召喚が出来るようになったらしい。


『黒桐12:ガチャが回せるようになったみたいなので、ちょっと行ってきます』

『青水2:あら、よかったわね。いってらっしゃい』


 チャットを閉じて、端末を持ったまま廊下へ飛び出す。何故か、ガチャを回す機会が少ないので新しい仲間が加入する時の新鮮さが鮮度を保ったままだからだ。しかし、やはり当然召喚室が分からない。


「ちょっと、誰かー。誰か来て欲しいな!」


 声を上げながら歩き回る。神使の誰かが来てくれれば、部屋まで案内してくれるだろうと思ったからだ。それに多分、よく気が回る薄群青あたりがすぐ声に気付いて出て来るだろう――


「何ですか、さっきから。ええ、品性が足りないかと」

「あっ。そっちかー」


 烏羽が出て来た。廊下の角を曲がったら目の前にいた。


「ごめん烏羽、召喚する部屋はどこだったっけ? やっとガチャが回せるみたいでさ」

「また新しい神使が増えるので? もうよくないですか、この烏羽もいる事ですし。ええ、新人が増えると鬱陶し……失礼、騒がしいですから」

「でも烏羽一人だったら、この間ちょっと苦戦してたよね?」

「苦戦? 否、少し時間が掛かっただけです」

「はいはい、言い訳が苦しすぎるから早く案内してよね」

「ぐぬぬ……」


 何やかんやで部屋まで案内してくれた。というか、方向は合っていたようで目と鼻の先だったし、何なら行き過ぎそうな勢いだった。

 もうすっかり忘れたチュートリアルに従い、手順を行った後に部屋の外へ出る。

 強い光が発せられる事は分かっていたので、部屋を飛び出すと同時に花実は固く目を瞑って両手で顔を覆った。光というのは案外と目に痛いからだ。

 だが、光などものともしない烏羽は背後でポツリと言葉を溢した。


「――おや。これは、ええ、見知った気配です」


 どういう意味なのか、それを確認しようとしたが両手と目蓋越しにでも分かる強い光を感じ、何故か口まで噤んでしまう。ややあって、光が収まったので手を退けて目を開けた。幸い、しっかりと防御していたので眼球へのダメージはない。

 召喚した神使を視界に入れ、情報が脳で処理されている間に彼女は召喚恒例の口上を述べた。


「……初めまして、主様。わたしは薄墨。さっき会ったばかりだけれど、挨拶が、まだだったから……」

「あ、あー……。気まずくなってしまうのは黒適応の宿命なの? まあでも、よろしく」


 か細い声で名乗った彼女は薄墨。貴重らしい黒色の薄色シリーズだ。という事は、ようやく弊社にも2人目の薄色シリーズがやって来たという事になる。結晶の回収効率が上がるだろうから、端的にありがたい。

 そして今まで新入りが来る度にお局のような傲慢な物言いを繰り返していた烏羽だったが、どうやら薄墨はそういう対象では無いらしい。直前までどことなく不機嫌だった彼の機嫌が心なしか持ち直している。


「ええ、これは良い所にきましたねえ、薄墨。お前は前々から丁度良い頃合いに顔を出すので助かります」

「そう言って頂けて、光栄です……」

「ふむ……。しかし、そうですねえ……。次は私が強化対象だったのですが、このままでは薄墨はただの置物です。ええ、一つ解錠しなければ結晶の生成が出来ませぬ故」


 暫しの間、考え事をしていた烏羽はややあって頭を振った。


「仕方無い。ええ、私を強化するには足りませんが薄墨の結晶生成を解放するには足りるだけの結晶は蓄えていましたよね? 召喚士殿。ええ、それは薄墨に譲って構いません」

「あれ、珍しいね。譲るの?」

「ええ、ええ。譲りましょうとも! ……まあ、ここで薄墨を引き当てるあたり、なかなか『もって』いますねぇ、召喚士殿。ええ、薄色でも別の神使であればこうは言いませんでしたよ。これはなかなか……適応色なぞ誰かが決めたいい加減なものかと思っていましたが。成程そうか、こういう所か……」


 最後には独り言のように呟く烏羽を尻目に、薄墨に声を掛ける。早く結晶を与えて、能力を解法しなければ。

 なにせ烏羽の心は乙女心よりも移ろいが激しい。後回しにして気が変わったら面倒だ。

 何より実は明日からログイン勢に逆戻りである。大学関係の用事が詰まっているので、家にほとんどいない。だから薄墨の強化は後回しでも、烏羽強化分の結晶は貯蔵できたのだが――わざわざ言う必要も無いだろう。

 こうしてまんまとプレイヤー的には効率よく物事を進められて、花実としては大満足で今回のストーリーを終えたのだった。

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