11.やっぱり3人編成はキツい(1)
時間にして1分程度か。烏羽と要らない問答をしてしまったが、幸いにも濡羽達はまだトンズラしていなかった。というか、逃げる気が無いように見える。小さな村の中で逃げ回っても仕方が無いので、仲間を呼んだのかもしれない。
烏羽を遊ばせてしまったせいで、非戦闘員とも言える薄群青とサポーターの紫黒は警戒しつつも殴り掛ったりはせず、大人しく待機している。
黄都では2人がかりでも濡羽に勝てる要素が無かったので、当然だろう。今回は黒檀という新メンバーも横に控えている。
「――え。ちょっと待って。コレ大丈夫? 勝てる?」
ふと過ぎった疑問。
濡羽が単純に神使3人分の力を持つと考えて、それでも中途半端強化の烏羽が強いだろうと予想できる。が、先にも述べた通り黒檀がいるのだ。
彼はどのくらいの強さ設定なのだろうか。濡羽より強かったら、ワンチャン詰むのではないか。加えて薄群青はぴったりと花実に張り付いている。プレイヤーの守護が仕事と言わんばかりの保護者っぷりだ。
「召喚士殿……。ええ、流石に都守を舐め過ぎではありませんか。特殊能力が解放されておらずとも、配下の神使2体くらいすぐに葬りましょう」
呆れたように頭を振る烏羽の言葉に偽りはない。けれど、それは自身の力を過信していないとも言い切れず、結果が伴うと信じられる程ではない。危険そうなら一時離脱、強化し再挑戦も視野に入れた方が良さそうだ。
――と、不意に黒檀が動いた。
濡羽より前に前に出て来る。彼女の持ち武器が銃なのでそういう布陣なのだろうか。しかも防御姿勢を取るばかりで向かって来ないのは何なのか。
心中での疑問に答える形で烏羽がポツリと呟いた。
「時間を稼がれていますね。ええ、しかし一カ所にまとまってくれた方が、捜しに行く手間が省けると言うもの」
「最大2人、増える可能性があるんだけど。押し負けそうだから他が到着する前に倒した方が良いんじゃないの?」
「心配性ですねえ、召喚士殿。ええ、前まではこの烏羽をこれでもかとこき使っていたではありませんか」
「ねえ。ねえってば、そんな話してる場合じゃないって。だいたい、黄都に至っては全然戦闘に参加してないんだから、どのくらい強かったかなんて覚えてないよ! 白菫の事なら覚えてるけどね」
「はあ? 他の神使の名前を出さないでください、不愉快です。ええ、この烏羽を捕まえておいて――」
ガチャリ、という音と共に濡羽が例の火縄銃らしき武器の銃口を花実へと向ける。最初に反応したのは言葉を切った烏羽だったが、最速で行動を示したのは薄群青だ。
「主サン! もう、話してばかりいるから!」
小言を言われながらも、腕を引っ張られて退避する。向けられた銃の射線を遮るように、烏羽がふらりと割り込んだ。戦闘に参加する意思はあるようで少しだけ安心した。
そんな烏羽だが、濡羽を警戒しつつ、何故か一度――こちらを。もっと正確に言うのならば花実を飛び越えた背後を一瞥した。
何かいるのだろうか?
そう考えたのはプレイヤーだけではなかったようだ。苦い顔をした薄群青が、どこからともなく得物を取り出す。そう、この間ようやく解放した持ち武器だ。
「主サン、人影が見えたりしたら教えて下さいよ。野放しの神使が2体はいるんスから」
「りょ、了解……! というか、そういえば紫黒は?」
ふと見回すと姿が無い。烏羽の次は彼女が失踪したというのか。ただし、紫黒は黙っていなくなるような性格ではないので失踪させられた、という可能性も捨てられないが。未だに姿を確認していない別の神使が2人もいる事を考えると不安だ。
一方で烏羽と濡羽は睨み合っている。濡羽の持つ銃の口が花実の方を向いたままなので射線上から動けないのかもしれない。が、下手に動くと撃ち殺されそうなのでこちらからアクションを起こすのは悪手のような気がする。
そんな中、最初に行動を起こしたのはやはり烏羽だった。
RPGで言う所の魔法、それを指先一つで発動させる。指を指した先にいるのは銃を構えたままの濡羽だ。
それこそまさに水で出来た銃弾。硬い物を強く弾いたような音が一度だけ響いた。全く目で追えなかったが、やはり見た目通り弾丸のような速度で以て弾け跳んだそれは濡羽の持つ銃身を正確に撃ち抜いた。
目を見開いた彼女の両腕が跳ね上げられて浮く。反動で引き金を引いてしまったのか、乾いた音と共に銃弾が射出される。当然、それは誰もいない遥か頭上を飛んで行ったようだ。
その光景に目を奪われていると、視界の端で見覚えのある姿が踊った。両腕を上げた状態で無防備な濡羽へと、彼女が――紫黒が大きめの術式を足下に設置する。途端、術式内の地面が隆起、今にも破裂しそうな風船の如く膨らむ。
身の危険を悟った濡羽が顔を強張らせた。慌てて体勢を立て直すが一瞬だけ遅い。土塊のあぶくが弾ける。
土が舞い上がり、それに伴って細かい砂も巻き上げられたようだ。視界が非常に不明瞭だが、それを突っ切って烏羽が駆けてきた。凄まじい勢いに驚いて固まるが、そんな彼は花実の横を素通りして行った。
「なに……?」
僅か数秒で視界が晴れる。
「――……長丁場になりそッスね」
ポツリと薄群青が呟いた。
先程まで濡羽が立っていた所には、黒檀が立っている。巨大な体躯は土塊に引き裂かれ、傷だらけだ。が、堪えている様子は全く無い。濡羽を庇って飛び込んで来たのか、件の彼女はほぼ無傷だった。
そして身を隠していたが、攻撃の為に露出した紫黒も残念そうな顔をしている。不意を突いたまでは良かったが、思っていた程のダメージにはならなかったのだろう。
状況を分析している暇も無かった。紫黒の戦線を眺めていた、花実の背後。争うような音が聞こえて振り返る。
「一人増えてるし」
そう。この場にはまだ出て来ていない正体不明の神使がまだ2人いる。
その片割れであろう面識は一切無い神使と烏羽が取っ組み合いを開始していた。横を抜けて行ったのは新手がいると気付いていたからだろう。
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