07.黒系サポーター(1)

「――それで、烏羽サンに敵の場所を割り出して貰う話じゃなかったんスか?」


 妙な沈黙は薄群青によって破られた。ああ、と反応したのは烏羽だ。いつもの胡散臭い薄ら笑いに戻っている初期神使はしれっとそれに解答した。


「割り出すも何もないでしょう。ええ、拠点に引き籠もって安心しているのでしょうね。どこに、何体の神使がいるかなど最初から分かっていましたとも」

「ふぅん。じゃあ、今回は奇襲なんスね。いつも受け身だったんで、ちょっと新鮮ッスわ」


 そうだね、と応じつつ、先程見た烏羽の闇は頭から追い出す。多分、イベントの類いだろうと自らを無理矢理に納得させた。


「ところで、召喚士殿。前提についてお話する必要があると思いませんか? ええ、これは親切心で進言しているのですが」

「前提?」


 烏羽は小さく頷いた。分かっていなさそうなプレイヤーを見て、満足げな顔をしている。烏羽は優位に立つと途端に調子に乗るからだ。


「今回においては、出会う神使全てが裏切り者と断じて良いでしょう。ええ、汚泥の底に沈んでいたこの村に滞在している時点で、通常の神使ではあり得ない行動ですので」

「それは確かにそう」

「その前提を踏まえた上で、相馬村にいる我々以外の神使は5体です。ええ、手分けでもしますか?」

「手分け……。手分けは、無理だね。うちはアタッカー1枚編成で、分けると戦えないグループが出来ちゃうし。というか、輪力の供給路? を確保出来なくなるよね」

「おや、そのような話は誰から聞いたのです? ええ、まあ、この村は差ほど大きくはありませんし。多少離れていても、問題無いかと」


 どのみち、手分けは無理だ。烏羽がいない方が多大なる苦戦を強いられるし、何なら普通に押し負ける。しかも神使5体は悩ましい数字だ。

 今、正体が割れている神使は2人。濡羽と褐返だけだ。故に、3人は新規の神使がいるという事になる。ここに来て過剰な神使供給は止めて欲しい。濡羽戦ですら3対1でようやく互角だったと言うのに。


「というか、烏羽。神使5人は一カ所に固まっているの?」

「いいえ。2体、2体、1体で分かれているようですね。ええ、民家はもぬけの殻でしょうから、好きな家屋に住んでいるのかと」

「ええ? 盗賊か何かかな?」

「盗賊の方が、いくらか良心的かもしれませんねえ、ええ」


 そもそもの話、3人編成で手分けなど無理である。この間、フリースペースで会った運営は枠を増やすと言っていたが、それも口約束なので宛には出来ない。ゲーム性がリアル寄りなだけに、3人編成はキツいのが勿体ない。

 が、そんな事を言っていても仕方が無いだろう。手分けはしない、これは決定事項だ。枠が増えて5人編成になろうと、結局はアタッカーがいなければ同じである。


「手分けはやっぱり無理。ここから一番、近い場所にいる神使から会おう!」

「ふむ、よろしいでしょう。ええ、最も近場にいるのは1体で行動している神使ですね」


 それを聞いた薄群青が意見を口に出す。


「奇襲します? 折角、向こうさんは俺達に気付いていないみたいだし」

「それがいいでしょう。わざわざ今から襲います、と言って襲いかかるのも馬鹿らしいですし。ええ、それでよろしいですか? 召喚士殿」


 異論は無いと伝える。山吹も奇襲が成功するかもしれない、と言っていたので今回はそういうステージなのだろう。そもそも5対3で人数負けもしているので、真正面から戦わない方が良いのは自明の理だ。


「ふふ、では召喚士殿の承諾も得られた事ですし、早速向かいましょうか。ええ、どんな顔で出迎えてくれるのか愉しみですとも」


 そう言った烏羽は意気揚々と先頭切って歩き出した。この物語では途中で疾走する事など無いように祈るばかりである。


 ***


 ややあって、小さな民家の一つに到着した。中から明かりが漏れており、この廃村と化した村内で大きな違和感を放っている。どうやら、裏切り者側の神使が勝手に再利用しているようだ。

 それを見た紫黒がヒソヒソと小さな声で確認を取る。


「大兄様。ここにいる神使は1体のみなのですよね?」

「ええ。さて、誰が出て来るか愉しみですねえ、ええ。ふふふ……」

「主様。あの大きさの家だと、恐らく一部屋の設計よ。つまり、玄関に入ってすぐ居間……。戸を開けた瞬間、攻撃を仕掛けるわ。民家ごと中の神使を攻撃するのは、目立つもの」


 ――いや、民家ごと中身を破壊っていう発想が恐すぎる。

 時々、やけにリアルな人間と人外のズレを突き付けてくるのは何なのだろう。この台詞を烏羽が発したのであれば恐がらせる為、大袈裟に言っているのだと解釈する。が、これはあの麗しい少女である紫黒から発せられた言葉である。やはり、考え方が根本から違うのだろう。

 必死で取り繕った笑みを浮かべた花実は小さく頷いた。ともかく、民家破壊という強攻策は取らない方針のようなので全力で同意をするのが吉である。


「主サンは俺から離れないで下さい。中の神使が滅茶苦茶な抵抗をする事が予想されるッス」


 プレイヤーのお守り担当である薄群青がそう言って、花実の横に寄り添った。あまりにもいつもの光景だ。

 そうして、万全な体勢を整えた上で、ニヤニヤと嗤う烏羽が戸に手を掛けた。鍵とか掛けていないのだろうか。疑問である。

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