06.スマホのスマホらしい使い方(3)

「――ええ、ともかく。召喚士殿の輪力管理は紫黒がするように。というか、輪力が無くなった際の不調に気付かないという事も無いでしょう。すぐに分かりますとも、ええ」


 鶴の一声ならぬカラスの一声で輪力論争が強制的に幕を下ろす。恐らく輪力に関する話題に飽きたのだろう。分かりやすい事だ。


「じゃあ取り敢えず、烏羽には神使の位置を特定――」


 花実の指示を遮るように、端末が着信音を鳴らす。驚くので止めて欲しい。一瞬、現実の方のスマホが鳴ったのかと思うから。


「あ、はい。もしもし」

『召喚士様、山吹ですー……。相馬村には到着したみたいですねー……。えーっと、地図を送っているのでー、それを見ながら進んでみてくださいー……。一応、地図に印を付ける機能とか足してみたんでー、使い方が分からなかったら連絡してくれればー、説明しますー……』

「ありがとう。え、神なのかな……」

『既存の機能に機能を足しただけなのでー、大した事ではないんですよねー……。ああ、それとー、私への連絡方法なんですけどー……。端末画面の左下に、追加しておいたのでー、それを触って貰えればすぐ、私に繋がりますよー』

「了解」


 通話終了。

 花実はすぐさま、まずは画面の左下を確認した。黄色いアイコンが追加されている。恐らくこれをタップすれば、山吹と会話ができるのだろう。ここに来てヘルプ機能をブチ込んでくるとは。よく分からない運営方針だ。

 加えて、地図機能もいつの間にか追加されている。これは試しにタップしてみると、現実でも使うようなマップが表示された。現代っ子の力が試されるも、適当なマップアプリと使った感じは同じだ。今更、山吹に聞く事も無いと予想される。


 それでは、烏羽に改めて神使の居場所を教えてもらおう――そう思って、初期神使を視界に入れて花実は絶句した。

 分かりやすくふて腐れている。小学生だってもう少し自制心があるぞ、と思ってしまうくらいには心が狭い。ただ、ここでご機嫌取りをすると取り返しの付かない事になりそうなので、あくまで気付かないフリをして最初の目的に戻ることにした。


「烏羽、神使の居場所を教えて?」

「召喚士殿……。教えて、ではありませんよ、ええ! 話の途中で別の何者かと話すなど、私に対して失礼ではありませんか? ええ、ええ、このような扱いを受けたのは初めてです!」

「そんな事無いでしょ。こういうシチュエーションとか、割と結構あると思うんだけどな」

「ある訳がないでしょう。私を無視して別の者の言葉に耳を貸すなど」

「暴君かな? 貴重な体験が出来てよかったね、烏羽」


 正気かコイツ、と思いつつ妹分である紫黒に目を遣る。彼女は気まずそうな顔で、プレイヤーから視線を外した。なるほど、都守という事でこのような横暴が許されていた可能性が浮上した。

 しかしここに来て、更なる可能性が示唆される。


「全く、何が貴重な体験ですか。ええ、かつて私を召喚するに至った召喚士共でさえ、私の意見を優先しましたよ。都守である私に、このようにすげない態度を取るのは貴方だけですとも」

「マジ? まあ、プレイヤーの中にもレアリティ至上主義者はいるしね。私だって初期推しとかいう宗教に加入してるし……。というか、私以外に烏羽を引けた人ってどんな感じだったの?」

「おや? 興味があるのですか? ええ、それはもう、冴えない連中でしたよ」


 ――烏羽から別プレイヤーの話が聞けるのって、貴重かも。出来るだけ乗せて、色々と聞いてみよう。

 ちなみに弊社で一番、余所プレイヤーの話をするのは薄群青である。輩出率が高いからだろう。そしてAIが一番成長しているくさいのもリアルだ。


「冴えない? 私も大分、冴えないタイプに分類されると思うけどな」

「ま、ご理解されているのであれば何より。ええ、連中はそもそも黒適応ではなかったので、てんでお話になりませんでしたよ」

「ふぅん。都守って色が違っても、一応輩出はされるんだね」

「輩出……。嫌な響きですが、ええ、よろしいでしょう。そう、そもそも人間の中に黒適応者が全くいませんので、ええ、私を喚べた人間も黒適応ではない事がほとんどですよ。とはいえ、貴方を含めてまだ4回目ですけれど」


 ――テストプレイって何人くらいしてるんだっけ?

 それはかなり確率を低く設定されているのではないだろうか。自分の場合は適応色が黒だったので比較的、黒が出やすいアカウントな訳だが他3人は違う。奇跡的過ぎる。


「それで? どう? 他の召喚士とも、こんな風に言い争ったりしていたの?」

「いいえ。ええ、奴等は私の意見を優先するので」

「ちゃんと躾てこなかったんだね、その人達……。今もそのアカウントで頑張ってるんだね、別の烏羽」

「はあ? つまらなかったので、奴等は――」


 そこで不自然に烏羽が言葉を切った。何だよ、と文句を言うべく彼を見上げる。

 それは不気味な笑顔だった。片手で口元を覆い、目を細めている。いつものような相手を小馬鹿にする顔ではなく、昔を懐かしむようなニュアンスが強い。

 少し不気味に思ってしまい、焦った心境で何故か花実は続きを促した。


「奴等は……なに? え、変な所で切らないでよ」


 ふっと烏羽が我に返ったように、その表情を取り繕う。冗談めかしていて、今から嘘を吐くぞという白々しさだ。いつもの態度に戻った事に対し、言い知れぬ恐怖から解放された。

 されたが、またすぐに息を詰まらせる事になる。


「ええ、はい。奴等はつまらなかったので、手を貸しませんでした。ええ、今はどうしているのでしょうね? 汚泥に呑み込まれた後は、どうなったか知りませんけれど」


 冗談めかして放たれた言葉は真実だ。嘘では無い。

 恐ろしくなって沈黙した花実を余所に、あれ? と烏羽は態とらしく小首を傾げた。


「どうされました、召喚士殿? ええ、この烏羽が貴方を見捨てると? 心配は無用ですよ。ええ、何せ、今の所貴方への興味がまだありますから。ふふ、何か大きな隠し事をしているようですし、腸まで暴くのが愉しみです。はい」


 ――絶対に嘘を見分けるこの特技はバレないようにしよう。

 花実は内心で強くそう誓った。今の言葉は事実だったので、彼の気が変わらない限りは見捨てられたりしないだろう。それまでに新しいアタッカーを育てよう。尤も、ガチャが全然回せないのでアタッカーもクソもないのだが。


 それと同時に、落ち着いて来た頭で別の可能性を考える。もしかしてこれも、烏羽の個人的なイベントなのかもしれない。見捨てられた他プレイヤーは存在せず、実際にはシナリオ上にのみの存在。

 薄群青達が他プレイヤーの存在を仄めかしているので、そういう世界観という可能性も捨てられない。とはいえ、召喚士を平気で捨てる思考が烏羽にあるのも事実だ。気を付けたいと思う。

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