02.物事には順番がある(1)
***
フリースペースから、ゲームの自室に戻ってきた。薄群青は他にもやる事があるそうなのでその場でお別れ。
チャットで社員について聞こうと思ったのだ。
『黒桐12:こんにちはー』
早速、端末で挨拶を打ち込むとパラパラ返信が戻ってくる。今日いるのは白星1、青水2、黄月12の3人。赤2人は不在のようだ。というか、3人もいるタイミングでログインする方が奇跡的だけれど。
『青水2:久しぶりね。何かあったの? つい最近、ストーリーをクリアしたって書き込んでいたみたいだけれど』
『黒桐12:そうなんですよ。ストーリーとは全く関係無いんですけど、フリースペースってあるじゃないですか』
『黄月12:そうなんだ。俺は行った事ないな~』
『白星1:そういうコンテンツがあるんだ……。大変そうだな、ただログインするだけっていうのも』
黄月12は毎回こんな感じだが、うっかり毎回笑ってしまう自分がいる。大変失礼なので止めたいのだが、どうしてもだ。
『黒桐12:そのフリースペースで、2回くらい社員を名乗る男性に会って、アンケートに回答したんですよね。皆さんもそういう人と会った事あります?』
『白星1:僕は会社で会うから、フリースペースに社員は来ないと思う』
『青水2:あたしは会ったわよ。パーティ枠を増やしてくれって毎回言っているわ』
『黒桐12:何だ、みんな会ってるんですね。よかった。最近、もしかして不審者なのかと思い始めてました』
ゲーム内で不審者に会ったからと言って、だからなんだという話なのだが。住所などがバレている訳でもないし。
ところで、と青水2が話題を変える。
『青水2:赤鳥ちゃんと、赤日ちゃんが最近来てないわね。とくに赤鳥ちゃんは行方が分からないだとか聞いていたけれど、どうなったのかしら?』
『黄月12:俺も全然見てないけど~。割とずっといるし、その間には来てないなあ』
――まだ、見つかってないんだ。
バイトを辞めたのだろうか。そうであれば問題は無いのだけれど、リアルの友達らしい赤日が随分と捜していたようなので楽観できない。
『青水2:あたし、多分最後に赤鳥ちゃんと会話してるんだけど、なんかゲームが詰んだらしい事を言っていたわね』
『白星1:ゲームが詰んだ事と、現実で行方不明になっているかもしれない事は結びつかないんじゃないか』
『青水2:ええ? それは確かにそうだけれど、ゲームが動かせなくなった関係で運営と何か話をしているって可能性はあるでしょ?』
『白星1:それはそうだな。悪い、変な書き方をして』
『青水2:この話題を出すと方々がピリピリしちゃってビックリだわ~。ゲームも詰んじゃったし、バイトが出来なくなって辞めちゃったのかもしれないわね。でもまあ、ゲーム内のチャットでゲーム以外の話題が出る事もあまりないけれど』
きっと、みんな内心では分かっているのだろう。
青水2の言い分が当たっている可能性は低い。バイトを辞めるなんていうのはよくある話だが、それが原因でリアルの友人とも音信不通になるのは普通ではない。
それに、まだそこまで重大だとは思えないけれど同じくゲームをしている花実の親友も何やかんや連絡が取れていない。赤鳥の事があるから自分がピリピリしているだけなのかもしれないが。
何だかモヤモヤとした気分のまま、多少の雑談をしてチャットを終えた。
端末をポケットにねじ込み、立ち上がる。結晶が増えてきて保管が大変だ。そろそろ使用して数を減らしたいし、紫黒が未強化状態なのも気に掛かる。早く能力を解放したい所存だ。
紫黒の強化に必要な結晶の個数を確認、その分だけ手に持った花実は自室から這い出る。この広すぎる社には神使が3人とプレイヤー1人しか生活していないので、廊下はしんと静まり返っていた。
どうやってお目当ての紫黒のみを捜すべきか、思考を巡らせる。大声を出せば烏羽に見つかり、強化の順番がどうのとウザ絡みしてくる事だろう。
ただ、ここには黒2人の他にも薄群青がいる。彼を見つけられれば、紫黒を呼んできてくれるかもしれない。つまり、3分の2は当たり。気張っていこう。
抜き足差し足忍び足。
そんな事を考えながら極力音を立てずに、ゆっくりと廊下を進む。神使達はやはり人外という設定だからか、五感が鋭い。物音を立てればすぐに誰かがやって来てしまう事だろう。
――しかし、そんな気遣いはすぐ無駄になる。
謎の緊張感を覚えつつ、廊下を一歩一歩進んでいた、その時だ。
背後から伸びてきたらしい両手がずっしりと両肩に乗せられた。
「ぎゃっ!?」
「おや、驚かれてしましましたか? ええ、潰れた蛙のような声でしたとも」
烏羽だ。一体どこからプレイヤーの存在を嗅ぎつけてきたのか。意地の悪い顔をしており、確実に今の行動が相手を驚かせる為のものであったと理解させられる。というか、何故3分の2で一番会いたく無い存在を引いてしまったのか。
「というか、また強化されるようですね。ええ、今回も私を強化されるのでしょう?」
態とらしい声音。こちらの態度を見て、嫌がる言葉を吐きかけるのは彼の常套手段だ。さて何と答えるべきか、花実はぐったりと溜息を吐いた。
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