52.チャットへの報告

 ***


 黄都での一件が完璧に終了し、疲れた花実はゲームの自室に戻ってきていた。今回のストーリーは新しい情報が多かったので、少し座って考え事をしたかったからである。

 薄群青と紫黒は解散を告げると、各々社のどこかへ行ってしまったが、烏羽に至っては興味が失せていたのか行き先云々の話をしている間に消えてしまった。というか、ストーリーでも留守が多かったので、今回はあまり彼の姿を見掛けなかったとも言える。


 考察だが、3話で会った黒幕は2人。紫黒と濡羽だけだった。だが、結界を破壊した未確認の3人目がいるのは考えるまでもなくそうだろう。

 その3人目は誰だったのだろうか。可能性が高そうなのは、取り逃がしたまま消息不明の褐返。そして決して低くはない可能性として、まだ確認出来ていない別の神使。

 そうなってくると、フレンドの月白が最後に言いかけた言葉が俄然気になってくる。


 それにちょっと不気味なのが、月白が何故かプレイヤー名を知っていた事。そして、あの言動からして自分が烏羽を有しているプレイヤーだと分かっていたような素振りがあった事だ。

 一応、白星1から借りた月白だったが、借りてきたと言うより内部情報を読み込んだ感じなのか? 本当に白星から借りた訳ではなく、データを読み込んだだけだと言われればそれまでだが、何か腑に落ちない。魚の小骨が引っ掛かったような違和感がある。


 それは一旦置いておこう。

 もう3話目になるが、1話目を除き、黒幕は全員文字通り黒色だった。流石に2回同じ事が続けば理解するが、このシナリオは黒が黒幕だ。次からは黒色がいたら真っ先に疑って掛かろう。時間の短縮である。


「……チャットで戦勝報告でもするかー」


 あまり実りのない考察を終え、端末を取り出してチャットに接続。いつもの部屋に入る。


「うわ。マジか」


 目に飛び込んで来たのは大量のレス。

 主に白星1と黄月12が延々と会話をしている。特に有用な情報という訳ではなく、時間潰しのような日常会話だ。暇なのだろうか。いや、暇なのだろう。白星1はともかく黄月12は運営からの謎指示により、ストーリーを進められないでいる。


『黒桐12:お邪魔します、何だか盛り上がってますね』

『白星1:やっと帰ってきたか。いや、悪い。見ての通り、全然関係の無い話をしていただけだよ。読み返さなくていい……』

『黄月12:もうちょー退屈だった! オレ、何の為にログインしてんの? 怠すぎるんだけど。つかなに? 面白い報告でもあんの、黒桐ちゃん』


 話が自然と自分についてシフトしたので、報告を開始する。全てを終えると、白星が至って冷静にコメントした。


『白星1:黄都陥落は共通なんだな。君の所にいる都守を以てしても防ぎようがないのなら、もうどうしようもない』

『黒桐12:まあ、普通に無理ゲーでしたよ。烏羽はいなくなるし』

『白星1:そうか。まあ、何にせよ無事でよかったよ』

『黄月12:オレもストーリーやりたいんだけど。つか、白星さんってストーリーほぼ終わってるんだっけ?』

『白星1:ああまあ、今ある場所までは』


 ならば白星1も暇だからチャットにずっといるのだろう。彼はいつ行っても必ずいて、少し恐いと思っていた所だ。


『黒桐12:というか、あの、別に答えなくていいんですけど。白星さんってもしかして、社会人だったりします? こう、文体とかがあの』

『白星1:僕は社会人だな。というか、仕事でここにいる。何と言うか委託業者の人員で、ここにいるのもゲームプレイ以外の目的だったりする。1サーバはそういう人が多いかな。人数も一番少ないし』

『黒桐12:ああ、道理で! いつもいるな、と思ってたんですよ!』

『白星1:あー、恐がらせてたのか。ごめんね』


 文字なので真偽の程は判断出来ないが、言葉とは不思議なもので、正体不明だった事柄に理由が付くと謎の安心感が生まれるものだ。

 が、一つの疑問が氷解した直後に新しい疑問が飛び込んでくる。


『赤日7:ごめん、ここに赤鳥はいる?』


 挨拶もなく突如として放り込まれた言葉。しかしそれは、チャットのメンバーについて考える余地を与えた。問いに対し考えを巡らせていると、白星がすぐに応答する。


『白星1:いないな。というか、ここ最近ずっとチャットには顔を出していないよ。僕は基本的にいつもここにいるけど、見ていないな』

『赤日7:あー、そうなんだ。ごめん、前にも言ったと思うんだけど赤鳥とはリア友で……。最近、リアルの方でも全然連絡が取れないからずっとゲームやってるのかと思ったんだけどな』

『黒桐12:大変そうですね。見掛けたら教えますから』

『赤日7:ありがとー。もうちょっと捜してみるよ。邪魔してごめんね』


 本当に焦っているらしく、そのまま赤日はチャットから出て行ってしまった。あまりにも不穏な話題に顔が強張るのを感じる。それに赤鳥をここ最近見ていないのは――言われて初めて気付いたが――事実である。大変な事になっていないといいが。

 そういう自分もゲームの時間が長すぎる気がする。今日はもうログアウトして、現実生活を営んだ方が良いだろう。

 チャットに退室する旨を伝え、ゲームからログアウトした。

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