51.避難指示(3)
***
門を通り、社に帰ってきた。
最終的にこの社に足を踏み入れたのは自分が召喚した神使に加え、山吹、白菫、白花となっている。藤黄は言葉通り、黄都に留まった。
心なしか、烏羽を除いた全員が疲れた空気を漂わせており、雰囲気はあまり良く無い。それもそうだろう。実に気分が悪くなるモノを見たと言っていい。
「主様、ちょっといいかな」
そう言葉を発したのは紫黒と薄群青だ。どうしたのかと耳を傾ける。
「社に移動してきた所、悪いのだけれど、貴方に召喚されていない神使は社に長居できないの」
「現状で当て嵌まるのは白兄妹と山吹サンッスね。この3人は召喚が主神名義になってるんで、社に留まると予期せぬトラブルを生む事になりかねないッス」
「そう。名義の違う神使は留まらせてはいけないっていうルールもあるわ。つまり、彼等の行き先を新たに決めなければいけないと思う」
そういえばあまり深くは考えていなかった。このまま黄都から持ち帰った神使が仲間になるはずもないだろうな、と思っていたがやはりその通りだったか。このゲーム、キャラ配布に関してはかなり渋い。
話を聞いていたのであろう白菫が、険しい顔で会話に参加する。
「そういう規定があるのなら仕方が無いな。俺達はどこへ行けばいいのでしょうか、召喚士様」
どうするべきか考え倦ねていると、絶妙なタイミングで薄群青が助言してくる。
「今まで行った事があるのは阿久根村と、月城じゃないんスか? 俺は阿久根村での出来事を詳しくは知らないんで、何とも言えないけれど」
「ほう、そうか。月城は姉様……いや、月白様の管轄だ。俺達はそこでも構わないな。阿久根村は誰が取り仕切っているんだ?」
今までの事を思い返し、白菫の問いに応じる。
「薄桜と薄藍がいたかな。薄藍は……最後に会った時には、月城に移ってきてたけど。どっちがいいかな?」
「ふむ。月城の神使は何人いますか?」
「えー、薄藍がいるなら3人。いないなら2人だよ」
「そうですか。では、阿久根村には薄桜が一人でいる可能性があるという事になりますね」
「確かにそうかも。あれ、大丈夫かな?」
ここで、それまでボンヤリと事の成り行きを見守っていた山吹が参加してきた。
「阿久根村には、あまりたくさんの神使は入れないですよー……。さっきも言った通り、汚泥から内部を守る結界はー、人口と大きさ、輪力回復速度だとかの緻密な計算で成り立っていますからー……。村に輪力喰い虫の神使が大量投下されたらー、それだけで結界が維持出来なくなりますー……」
「ならばどうする?」
「そうですねー、兄妹は月城に入れてもらってー、わたしは阿久根村に入りますー……。ちゃんと計算はしていないけどー、これなら輪力の循環的にまあ、大丈夫かなってー……。後で計算するので、問題があったらまた言いますー……」
それにしても、と考える素振りを見せた山吹がぽつりと聞き捨てならない独り言を口にする。
「ちゃんと時間軸、揃ってるんですかねー……。社に招いて頂いてからずっと考えていたけどー、随分と『外』が荒廃しているようなー……」
「えっ!? 恐い恐い恐い、ちょっとそれ詳しく!」
「落ち着いて下さい、召喚士様ー……。『門』の設計は黄檗さんとー、主神が行っているんでー、わたしもよく知らないんですよぅ……。でもー、門を通って一瞬で遠く離れた地に移動出来るって事はー、『時間』を短縮。つまり、時間を間接的に飛び越えるって行為でもある訳なんですよー……。それができるなら別にー、まだ見込みがあった頃の別の土地に飛ぶ事もー、可能なんじゃないかって思っただけですー……」
「ええ?」
「すいませんー、これ以上は何とも言えないんですけどー……。正直、黄檗さんって大分アレなんでー、気を付けた方が良いですよー……。召喚術式も、基本は黄檗さんが作ったんですけどー……。薄群青くんとかー、わたし達が知らないような単語を口にする事があるじゃないですかー……。主神から召喚士へ仕える名義を付け替えた時にー、何か変な事が起こってますよねー……。ちょっと恐いなー……」
「……た、確かに」
「ということはー……。わたしもー、召喚士様に召喚されるとー、そういった知識が急に付くんでしょうかー……。まあ、召喚されてみれば分かるかー……。そういう訳だからー、是非、よろしくお願いしますよー……」
薄群青から声を掛けられて、強制的に話題が消滅する。
「主サン、話し合いの結果、さっき山吹サンが言ってた組み合わせで駐屯する事に決まったッス。それでいいですか? 駄目なら別の案を出しますけど」
「えっ、あ、それでいいと思うけど」
「了解ッス。じゃ、もう一回門を設定して貰っていいですか」
「はいはい」
端末が示すとおりに門を開け、兄妹と山吹を送り出す。別れ際、不意に山吹が花実へと言葉を残した。
「そうだー、さっきわたしも召喚してくれって言ったけどー……。もし選べるのなら、藤黄を召喚して欲しいですー……。わたしは無事だったんでー、やっぱり喚ばれなくていいやー……。あとー、分かった事があればこっちで勝手に連絡するのでー、暫しお待ちをばー……。それじゃあー、また会いましょうー……」
一方的にそう告げた彼女はひらりと手を振った。その姿があまりにも藤黄そっくりで、黒適応だけどいつかは藤黄を引くんだと、そう強く思うのには十分だったのは言うまでも無い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます