29.足止め(3)
「――と、いうわけで、武器が調達できたッス。まあ、俺の戦闘能力は期待しないで欲しいんスけど」
そう言った薄群青はどこからともなく取り出した一対の脇差しを、曲芸師のようにくるくると回しながら左右の腰に差した。不自然なベルトのような装飾品を巻いていると思っていたが、これはこの為だったのか。
なじみ深い装備が戻ってきたからか、心なしか薄群青は上機嫌だ。反比例して烏羽は不機嫌そうなのだが。
「へーえ、良いご身分ですねぇ。がちゃが回せないばかりに、戦闘員でもないというのに結晶を分けて貰って。ええ、別に嫌味などではありませんとも」
「いや、滅茶苦茶嫌味じゃないッスか……。そんなに睨まないで下さいよ、俺に拒否権とかはないんスから。烏羽サンだってそうでしょ?」
「その割には随分とはしゃいでいるようで?」
「そりゃ、はしゃぎますよ。失っていた力を取り戻したんだから……」
烏羽へと気丈に言い返す薄群青だったが、やはり体格差も位差もあるからか、やや押され気味だ。正論であるはずなのに、それらの理論を越えて押されているとはどういう事なのかさっぱり分からない。
そして烏羽のガチャ発言で思い出したが、そのガチャも回せるのだった。というか、今回のメインイベントである。
「ガチャが回せるようになったんだよね。早速、新しい子をお迎えしに行かなきゃ! あ、被りとかあるんだっけ? え? 被ったらどうなるの? 結晶に自動交換とかかな……」
「被りはないんで、大丈夫ですよ」
断言したのは薄群青だった。その言葉にはいつも通りに偽りはない。真実である。
「ガチャ被りないって正気!? 消費者側なら嬉しいけど、それ運営大丈夫? 無茶な数のキャラを実装しなきゃいけなくなるんじゃない?」
「さあ……。俺にも運営が考えてる事とやらは分からないッスけど、同じ顔で同じ性格、同じ名前の存在が社内に2体も3体もいたら可笑しいじゃないですか。そういう事じゃないんスかね」
「現実で言えばおかしな話だけど……。ゲームだしなあ」
しかし、プレイヤーに不利な話という訳でもないので文句の付け所はない。ないが、この惨状でどうやって運営が稼ぐ気なのかはとても気になる所存だ。まさか、儲けはオマケ? 別のもっと大きな目的があるのだろうか。陰謀めいた話にはなってしまうけれど。
考え事に終止符を打ったのは、わざとらしい烏羽の大きな溜息だった。聞いているこちらが鬱屈とした気分になりそうな、嫌な溜息だったと言える。
「また新入りですか。ええ、この烏羽を召喚しておきながら節操のない……。他の神使など不要ではありませんか。ええ、薄群青は結晶を生み出すのに必要ですが、それ以外は迎え入れる必要など無いのでは?」
「ええ? 都マップから永久に出られないじゃん。結界を張る神使が必要なんだって」
「そんなもの、薄群青に無理をさせるか、結界など取っ払ってしまえばいいではありませんか。ええ、あんなもの実は輪力の無駄かもしれませんよ」
発言の中に嘘がない。烏羽は本気で結界に使う輪力が無駄だと考えているようだった。とはいえ、彼の性格はハッキリ言って悪いので、結界不要とイコールする訳にはいかない。結界が無くてプレイヤーに何か起きようとどうでもいい、という思考からそのような発言をした可能性が拭いきれないからだ。
なので、いつも通りに烏羽をスルーし、召喚部屋へ足を向ける――が、案の定道を忘れた。この拠点はリアルに寄り過ぎている割に、考え無しの巨大さだからだ。
「部屋どこだっけ? 薄群青」
「こっちッス。ま、社も広いし、主サンは基本的に自室から出ませんからね。何度でも案内してあげますよ」
――あれ? もしかしてちょっと嫌味を言われた?
否、薄群青が小言など言うはずもない。これは荒んだ心が勝手にそう思い込んだだけだろう。
花実が薄群青の後を追うと、更にその後ろから烏羽も着いてきた。新人をいびりそうなので、大広間かどこかで待っていて欲しいものだ。が、本日は彼の機嫌を損ね過ぎているのでこれ以上あれやこれやと指図しない方が良いだろう。
「誰が来るか、楽しみだなあ。私がまだ顔を合わせていない神使って一杯いるよね?」
ウッキウキの調子で誰に問う訳でもなくそう呟く。反応したのは烏羽だった。
「ええ、召喚士殿が顔を合わせていない神使など、大勢いますとも。尤も、貴方の適応色は黒……赤や黄とは今後一切、会う事がないかもしれませんねぇ。ふふふ」
「そういえばあったなあ、そういうの!」
思い出したように手を打てば、前を歩いていた薄群青がポツリと言葉を溢す。
「主サンには悪いけど、褐返サンとかが順当かもしれないッスね。前回は俺で青系だったし、二連続で他色にはならない気がするわ」
「黒ばっかり黒幕だからね。毎回顔を合わせてるし、知った顔が出て来るかもしれないのかー」
褐返も褐返で、月城でやらかしたイメージが強いものの、羊の皮を被っている間は紳士的だった。万が一、ガチャから出て来たとして薄群青を虐めたり、烏羽を煽って大変な事になるようなキャラクター性ではないだろう。
「都で白系の神使とも会ったから、白でもいいなあ。白菫とか良い感じ」
「ああいうのが好みなのですか? が、残念ながら赤や黄以上に白とは相性が悪いでしょうねえ、ええ」
「うわー、適応色大事じゃん」
最初以降、その設定は忘却の彼方だったがガチャを回すようになれば意識もそちらに向くというもの。烏羽を引けたのは多分、奇跡的な確率だが、やっぱり白もいいよなと思ってしまう次第だ。
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