21.内輪揉め(1)
***
ストーリーで割り当てられた自室へ戻ってきた。退出する前と何ら変わらない光景だ。つまり、時間が経っていない証でもある。ゲームだからそんなものだろうが。
久しぶりにストーリーを挟むので、今までやっていた事を思い返す。黄色以外全員怪しいが、特に怪しいのは紫黒。謎の嘘を吐いたりする白菫。この2人を重点的に調べよう。
これまたメタ的な推理になってしまうが、この広い都マップを黒幕が一人で切り盛りしているとは考え辛い。チームで行動している気がする。前話で取り逃がした褐返の姿も見えないので、もしかしたら広い都内に紛れ込んでいるかもしれない訳だし。
「それじゃあ、主サン。まずは何をします?」
烏羽の件で何か言いたそうな顔をしていた薄群青だったが、結局はそこに触れず、ストーリーを進めるかのような台詞を吐く。折角心配して貰ったと言うのに、期待に添えず申し訳ない。
せめてストーリーで挽回しようと思い、花実は問いに応じた。
「まずは紫黒と白菫を調べてみようかな」
「紫黒サンは分かりますけど、白菫サンも? 何だかこう、主サンって色々と飛び越えて答えに至ってる感じがして不思議な気分になるッス」
「まあまあ、全員疑わしい訳だし、優先順位を決めてるだけだから……。今の所、自分の意思が無さそうな白花は無害そうだし」
確かに、と神妙そうな顔で薄群青が頷く。
「白菫サンの変な態度に意識が行きがちッスけど、白花サンも結構違和感ありますね。もっと元気な人だった気がします」
「そうなの?」
「はい。兄である白菫サンのストッパーで、案外ハキハキ物を言う神使ッスね」
薄群青の情報だけではまだ足りない。チラ、と烏羽を見やると酷く客観的な意見を述べた。
「柔らかな物腰の白系、という評価が妥当でしょうね、ええ。白菫殿と白花殿はどちらも大変『白』らしい性格をしておりますとも」
「白らしい性格?」
「主神の決定に従順で規則違反をよしとせず、からかったら面白い連中の事ですよ。ええ。あの兄妹が貴方様に丁寧なのも、主神代理であるからに他なりません」
「ああー、確かに凄く丁寧だったよね。ずっと」
シンプルに烏羽や褐返とは逆の思考に位置する神使、それが白系なのだろうか。このアカウントでは迎え入れられそうにないので、何とも言えないが。
「えっと、それじゃあ取り敢えず紫黒を捜しに行こう。案内よろしく、烏羽」
「承知致しました」
***
道を覚えるのが苦手だ。特にどこを向いても同じような場所に見える建物の中だとか、曲がり道が多すぎる住宅地だとか。
そんな訳で辿り着いた部屋が前に来た事のある部屋なのか、そうでない部屋なのか花実には判断が付かなかった。ドアをノックしようとしたが、烏羽にそれを止められる。
「言い忘れておりましたが、中には神使が2人おります。ええ、黄系の神使は執務室にいるようなので彼等ではありません。が、中に紫黒がいるのかは保証致しかねますのでご了承下さい。ええ」
「ああ、そういえばそうだった」
突っ立っていても仕方が無い。来客を報せる為、ドアを叩こうとして――中から聞こえてきた穏やかではない声に花実の手が止まった。
「貴様、正気か!? そちらが始めた事だろうが、中途半端に投げ出されては困る!」
怒鳴り声は男性のものだ。しかも聞き覚えがある。声の主は間違いなく白菫だろう。続いて、か細くも精一杯主張をする女の声――紫黒が応じる。
「そんな事言ったって、どうしようもないでしょう!? だいたい、ちゃんと見ておかないからこんな事になるんだよ!! 監督不行き届き!」
「俺が悪いと言うつもりか!? そもそも最初からこんな事をしなければ――」
すーっとドアが開く音で全ての音、動きが止まる。非常に信じ難い話なのだが、誰もゴーサインを出していないのにドアを開け放ったのは烏羽だった。恐れる様子など微塵もなく、騒動の予感にウッキウキの笑顔を浮かべている。最悪だ。
案の定、唐突に現れた来客に対し白菫が目を怒らせながらこちらを見る。そこにプレイヤーが含まれていると理解した瞬間、その口を閉ざした。切り替えの早さに舌を巻く。
「ゴホン! あ、ああ、失礼致しました。召喚士様、我々に何が御用でしょうか?」
――ええー、気まずい。何で急にドア開けたのさ!
無言で初期神使を睨み付けるが、彼は涼しげな顔で全く悪びれていなかった。
何と声を掛けたものか、と考え倦ねていると案外すぐに痺れを切らした白菫が言葉を重ねる。
「騒々しくて申し訳ありません。ですが、見ての通り取り込み中です。……何か用があったのではありませんか?」
全て本心からの言葉。基本的に嘘偽りを言葉にする性格ではないのだろうか。悶々と考えながらも、今度こそ花実は用件を口にした。
「ちょっと話を聞きに来たんだけど」
「話……?」
白菫が若干の警戒を滲ませる。最も疑われていると自覚があるだろう紫黒はと言うと、何とも複雑な感情をその顔に浮かべていた。どういう心理状況なのかは分からないけれど。
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