19.休息(1)

 花実と連れている神使のみの空間となった部屋で、思考を巡らせる。

 紫黒と白菫がグルのクロ、白花がグレーという見解が強いが、白花のグレー説は全く根拠が無いので勘でしかない。灰梅と同じ状態なら二人きりにはならない方が良いので、それだけは注意しよう。


 ただ――この推論で行ってしまうと、黄色の2人以外が全員裏切り者という事になってしまい、チェックメイトが都市沈没だったとしても裏切り者側に利が勝り過ぎている気がしてならない。

 まだ何か見落としがあるのだろうか。それとも、最初に烏羽が説明したルール通りに動くがあまりのガバが発生しているのか。

 あくまでこれはゲームのシナリオなので、烏羽の都チュートリアルの動きしかしないのか、疑問である。


「お考え中の所、申し訳ありませんが、召喚士殿? この烏羽にも、貴方様のお考えをお聞かせ下さいませ。ふふ……」

「俺も烏羽さんとは違って、純粋に何を考えてるのか知りたいッスね」


 烏羽、と言うより薄群青の申し出で考察を話すべきか考える。正直な話、初期神使には嫌味を言われるのでここまでの思考を説明したくないのだが、薄群青の方は言葉通りだと思われるので黙っているのも何だか悪い。

 少し考えた後、一先ず今考えている内訳を打ち明ける事にした。


「いや、紫黒と白菫が裏切り者っぽくて、白花がグレーかなって。あの、灰梅の時みたいな……」


 呟きに対し、食いつきを見せたのはやはり烏羽である。薄群青を押しのける勢いで言葉を紡ぐ。


「ほう! 紫黒はともかく、白菫と白花も疑わしいと? ええ、何故そうお考えになったのか私に教えて頂いても? ええ、気になりますので」


 ――適当な言い方を思い付かないな……。

 整合性の取れる説明文を考えるのが途端に面倒臭くなる。特技の嘘発見でゴリ押ししてストーリーを進めているので、話の整合性もへったくれも無いせいだ。


 仕方が無いので都でのストーリーが始まってからちょくちょく思っていて、それでもキリが悪かったので先延ばしにしていた提案を口にする。


「うん、それは置いておいて。一旦、ログアウトしようと思うんだよね」

「は? ちょ、ちょっと召喚士殿!? この状況で、ろぐあうとされると!? そういう所ですよ、ええ! というか、前後のお話と繋がっておりませんが!」

「今回、裏切り者っぽい神使が全員強そうだし……。薄色シリーズが一人もいないシナリオなんて、恐くて未強化状態で進められないよ。数日待って、烏羽を強化してから先に進めたいかな」

「このげーむ脳め! 落ち着いて下さい、召喚士殿。ええ、この烏羽の問いにまだ答えられておりませんが!」

「急いては事を仕損じる、とかいう先人の言葉もあるし……」

「よくそのような言葉を、貴方様が知っておられましたね。ええ。腹が立つので止めて頂いても?」


 驚く事に最後の台詞は全文本音だった。初期神使は人を煽るのがお好きらしいが、こちらとしてはプレイヤーの立場からキャラクターを煽るのも案外楽しい事に気付いてしまう。

 新たな発見を胸に、まずはストーリーから社へ退出。間髪を入れず、端末のログアウトをタップしてゲームを一旦終了した。


 ***


 毎日のログインだけを続けて、2日が経過した。ついでにあれもこれも、現実でのイベントをこなしていたら2日も経っていて驚きである。だが、ここ最近は現実での生活が疎かになっていたのでここいらでテコ入れしておいて結果的には良かった。


 社の自室にログインする。ゲームが日課になってくると、大抵のプレイヤーはルーチンなるものが形成されると思うのだが、花実のログイン後のルーチンはゲーム内端末でお知らせ等が無いかチェックをする事だった。

 極々希にではあるが登録しているチャットルームから生存確認のメッセージが届いていたりするので、それに返信する。無事を確認してくるのは、いつも白星1だ。このプレイヤーはゲーム内フレンドに案外とマメな人なのかもしれない。


 そうこうしていると、薄群青が部屋へやって来る。彼の目的は強化素材である輪力の結晶を配達する事だ。口調や態度とは裏腹に、かなり真面目に仕事をする性格のようで、きっちりログインを確認後にやってくる。みんなこうなのか疑問だ。


「主サン、今日の結晶を持ってきましたよ」

「あ、はーい」


 本日分の結晶を受け取る。これが実質、ログインボーナスなのかもしれないなとボンヤリそう思った。

 ともあれ、これで烏羽強化分と貯蔵用の結晶が同時に存在する事となる。置いておく所が無いので自室の押入れに突っ込んでいた輪力の結晶を必要分取り出した。最初の強化に必要な結晶の個数は2つ。開く技能は身体能力向上だ。次に必要な結晶の個数がまだ分からないので、まずは1つ目の能力を解禁しなければ。


 色々と思案していると、そんな花実の様子を黙って見ていた薄群青が不意に口を開いた。ただし、それは内緒話をするような小声ではあったが。


「主サン、本当に烏羽サンから強化するんスか?」

「え? うん」

「社内で烏羽サンが一番強いっていうのは、その、危険だと思うんですけど。まあ、俺を最大まで強化しても未強化の烏羽サンに及ばないので、アレなんですけどね」

「そんなに危ない事かな? でも現状、あなたと烏羽しかうちの社には神使がいないし……」


 僅かに視線を彷徨わせた薄群青が、囁くような声量で珍しく提案を進言してくる。


「だから結晶を使うのはちょっと待って、もう一人くらい神使が揃ってから、そっちに使った方が良いんじゃないスか? まあでも、主サンも適応色が黒だし、次の神使も黒だったりするかもしれないけど」

「なるほどね?」


 結晶の貯蓄を提案されてしまった。これもキャラクター同士の個別イベントなのだろうか。

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